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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
二章 フェダール国編
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ep.65 「なるほど、そなたがやりそうな手だ」

「それで、どういうつもりだ」

「ん?」


なぜか個室が与えられた。

船長からの指示で、普通なら特別な賓客か役職持ちにしか与えられていない、密閉された空間を手に入れた。


活躍を称えてというよりも、まるで「コイツを放って置くと何をするかわからんから、せめて寝ている間くらいは閉じ込めとけ」って扱いみたいに見えたけど、たぶん気のせいだ。


デスピナはご満悦だし、余計な疑問を入れてもしょうがない。


「なにがだ?」


ただ、そのお陰でネズミであるデスピナと、堂々と室内で会話ができる。


「そなたの目的だ。なぜ、わざわざ身元を隠してまで短期留学を行う?」

「アマニアから逃れるためだ」

「なるほど」


瞬時にネズミが頷くくらいには、硬質視線の高身長ストーカーことアマニアの執着は、最近は特に悪化していた。

本人もどうにか止めようとしている節はあるけど、耐え切れないかのように側に来る。

引っ付いてニオイを嗅いで舐めようとしてくる。


その目つきは、時間が経つにつれてヤバくなっていた。


「こういう荒療治がいいとも思えないけど、正直、他の方法も思い付かないんだよなぁ」

「アマニアは体重が増加している様子もあったな、以前が痩せすぎであるため良いとも言えるが」

「それ、お前もな?」


ネズミを指差す。


「む?」

「わたしの支配下に入って安心したのか知らんけど、前と比べて明らかに太っちょになってるぞ、お前」

「はは、そのような馬鹿なことがあるはずがない。吾はいつでも褒め称えられるべく自らを鍛え、怠ることがない」

「へー」


半眼になりながら、指でちょいとネズミを押す。


「てい」

「むお」


偉そうに二本足で立った姿が後ろに転げる。

ころん、と仰向けの格好となる。


「……何をする」

「起き上がれるか?」

「無論」


腹筋の格好で体を起こそうとした。

短い手足がぷるぷると震える。

だが、手足が床を踏むことはない。


「む」


これでは具合が悪いと気づいたのか、体をひねりながら起き上がろうとするけれど、同様に成果は出ない。


「ほ、お、むむ! ならば……!」

「魔術は使用禁止」


最近使えるようになったらしい、部分的な人形の権限を阻止する。


「なぜ!?」

「ダメに決まってんだろ。というか、今の時点で自覚しろ」

「横暴な」

「そうだよ、横暴な支配者だよ」


デスピナは、キッとキメ顔で。


「あるじよ」

「なんだ」


つぶらな目で見ていた。

そこに冗談は一切ない、ごく真剣にネズミは言う。


「起こして」


ここで手助けするからダメなんだろうなと自覚しつつ、その背中を指でささえて復帰させる。


「むん!」

「ああ、うん、すごいすごい」

「もっと喝采を……! 吾はすごく、そう、今とてもすごく頑張っていた!」

「ダイエットがんばろうな?」

「カラカラ回るやつを所望する!」


この船って木製だけど、勝手に削って作ったらダメかな。



 + + +



「それで……」

「ん?」


わたしは書類を読む最中、ネズミはツルツルの床上を必死に走りながら訊いた。

ちなみにツルツル床は、デスピナが魔術を利用して作成したものだ。摩擦係数がとても低い。

瞬時に作り出すことはできないから、戦闘用として使いにくいのだけが残念だ。


「本当の理由はなんだ?」

「だから、アマニアが――」

「それは言い訳であろう。それで謀られるほど吾は愚かではない」


騙されておいてくれよ。


「それも理由の一端ではあるだろうが、それだけならば、もっと別の方法を取るはずだ」

「たとえば?」

「密航だ」


当たり前のように断じた。


「そもそも、現状がおかしい。あるじは短期留学者として正式に応募した後に、わざわざ名を隠して乗り込んだ。だが、そのような面倒をする理由などありはしない。密航は通常であれば縛り首となる罪だが、そなたであればいかようにでも覆すことができるであろう」

「わたし、どんな無法者だと思われてんだよ」

「つまり、相手国に来たことを伝えたいが、直接乗り込んだことを伝えたくはない、そのような葛藤が見て取れる」

「目立ちたくないだけだよ、深い意味はない」

「ニキ・デュカキスにも伝えぬ理由は?」


返事に少し詰まる。

それは――


「事情があるにせよ、この短期留学をまとめる学院生を味方につけて損はないはずだ。いつまでも隠し続けるのは、意図を持った行動だ」


誤魔化そうと口を開くが、すぐに閉じる。


ネズミはいつの間にか立ち止まり、こちらを見ていた。

その目は、嘘や偽りを許してない。


支配し、支配される関係だからこそ、その間に偽りを入れてくれるなと要求していた。


「……用心だよ」


観念して白状する。

すべてではないけれど、部分的な本音を。


「フェダール国にわたしが来たことを知らせれば、国ごと敵に回って殺されるかもしれない。それを避けるために「わたしはこの船に乗っていない」ことにしたかった」


ニキに教えていない理由でもある。

知らないことが彼女の身を守る。


「なるほど、そなたがやりそうな手だ」

「なんだよ、それ」

「敵に情報を与え、その出方を見たいのだ。アイトゥーレ学院のクレオ・ストラウス、この名を彼の国が知った時、どう動くかについては、そなたも掴めていないのだろう? だからこそ偽装している」


肩をすくめた。

大方その通りだったからだ。


「だが――」


止めていた足を再び動かし、ツルツルの床を走りながらデスピナは不審そうな顔をした。


「名を相手国に伝えれば殺されるやもしれぬ……そなた、一体なにをしたのだ?」

「大したことはしていない」

「それを信じる愚か者はこの世にいない」

「本当だって。実際、スルーされる可能性の方が高いと思ってる」

「ああ、そうか、違うのか」


ネズミは素直に頷いた。


「大した事件を起こすのは、これから先か」

「デスピナ、お前わたしのことを反乱軍の首謀者とでも勘違いしてないか?」

「さして違いは無いと認識している」


ダイエット中のネズミは、その後にいくら説得しても誤りを認めなかった。なんでだよ。


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