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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
一章 アイトゥーレ学院編
56/105

ep.56 それまでの生活と、まるで違うことになる。


その後の出来事は、そこまで面白くはない。


もともと禄に授業には出ず、試験の時期や夜会ばかりに参加していたデスピナは、それほど変化しなかった。彼女の悪評こそ盛大に膨れ上がったけど、それもいつしか止む程度だ。

学院生が学院生をさらうとか、稀によくあることだ。


夜会というシステムがあるせいか、無法も暴虐も「学院生がどうにか対処すべきもの」だと見做されてる。

いい意味でも悪い意味でもタフだ。


そして、うん――


「あるじ、朝だ、起きよ」

「んー……」

「齧るか」

「やめて」


支配下に入ったネズミが、その小さな手でわたしを起こした後、肩に飛び乗る。


そこががデスピナの定位置になっていた。褒められるのを常に待ち続けている。

今も欠伸まじりに撫でるわたしの指の感触を、心地よさそうに受け取っていた。こんなものでいいのか、お前。


その首には、ちいさく誂えたネックレスが彩る。

隠匿系の魔術をかけていることもあり、安いガラス玉にしか見えないけど、デスピナ本人はとても自慢げに見せびらかす。


「アマニアもおはよう」

「はい」


気づけばそばにいるアマニアも日常だ。

本当に、どこから入ってきてるのか、わたしにもわからない。


彼女はたまにデスピナをもの言いたげにじっと見ていることもある。どういう感情に由来するかは不明だ。


「眠い……」

「顔を洗い、飯を食え」

「へいよー」

「制服もあります」


アマニアが掲げてみせた。

微妙にへにょってるのは気のせいか?

まるで誰かさんが抱きしめていたみたいなんだが?


「それ、着なきゃだめか?」

「はい」

「胸を張るがいい」


思わず、うへぇ、という顔になるが大人しく着る。

妙に生暖かい。


鏡の前で確認してみるが、まあ、悪くないかなという程度だ。


「というか、なんでわたし、薔薇ロドンを受け取っちゃったんだろうな」


しかもそれをアマニアに告げてしまった。

お陰でわたしは今日から学院生として通わなきゃいけない。


滅多にいない転入生だ。

目立つし不美人だし、なぜかカリスやアマニアと友人だしで、きっと色々と言われる。


「吾のあるじなのだから、その程度のことはしてもらわければ困る」

「そういやデスピナ、お前はどうする?」

「無論、学院生を続けるとも」


わたしの下につくことと、学院生でありつづけることは矛盾しないらしい。

まあ、別にそれを邪魔するつもりもないけど。


「そして次もトップとなる……!」


短い手をぎゅっと握りしめ、強く宣言してるけど、それってわたしも蹴落とすってことだよな?

なんか「そうすれば、すごく褒めてもらえる」みたいな雰囲気を醸し出してるけど、さすがにそこまで心が広くなれる気はしないんだが。


「ぼくは、君のクラスメイトになります」

「そうなのか?」

「ええ」

「どこのクラスになるのか、まだわたしも知らないんだが」


もう調べたのか。さすが。


「いいえ」

「え」

「ですが、ぼくはクレオのクラスメイトです」


それ、無理やりクラス替えを実行するってことか? とは怖くて訊けなかった。


「さ、行くか」

「ええ」

「むぅ」


わたしの肩で、ベストポジションを探りながらデスピナは難しい顔をしていた。


「どうした?」

「あるじ、それはやらなくてもいいのではないか」


これからするわたしの行動に不満があるらしい。


「対価の支払いだ。やらなきゃダメだろ」


アマニアの「取材」も受け入れているんだ、こっちもやらなきゃダメだ。


だからわたしは屋根裏から抜け出し、そのまま学院生の寮に向かう。こうした時、下級職員の間にだけ伝わる隠し通路は便利だ。最短経路で誰にも邪魔されることなく行ける。


寮に入ったことを問いただされることもなく、目当てとなる部屋の扉をノックした。

心なしか、ドアからはズモモ……と妙な圧力が出てた。


「……ふぁい」

「カリス、朝だ」

「え――もう……!?」


内部からは様々な音がした。

まるで、部屋いっぱいにものを詰め込んで、一歩ごとにモノにぶつかり続けているみたいだけれど、さすがにそんなことはないと思う。


しばらくしてから出てきたカリスは、それなりに整った格好をしていたけれど、その背後に覗き見えた部屋の様子は記憶から削除した。なんで床が見えなかったんだろうとか、そういう疑問は思い浮かべない。


「……寮って、たしか二人一組だったんじゃなかったか?」

「ええ、そうよ」

「よく相方は耐えられるな」

「なぜか皆、部屋変えを熱心に希望するのよね」


無理もなかった。というか、その相方とやらがいなくなったからこそ、歯止めが効かなくなったのかもしれない


カリスは、ぽん、と手をたたき、わたしを見つめた。


「そういえば、学院生となったのだから、貴女も寮生活をすべきじゃない?」

「いやだ」

「ぼくは反対です」


わたしを掃除要員として活用するのはさすがに断る。

アマニアはなぜか後ろからわたしのことを抱きしめていた。


「吾らには住心地が良さそうだ」


デスピナは頷き、カリスは難しそうな顔で腕組をしていた。


「賛成2、反対2ね、惜しいわ」

「そう言えるお前の面の皮がときどき羨ましいよ」


というか、デスピナの賛成意見って、ネズミの巣として良いってことだけどいいのかよ。


「そもそも、少し起こす時間が早くないかしら」

「悪いな、わたしの事情だ。この時間じゃないと無理だ」

「ああ、そういえば今日だったわね」

「そうだよ、転入初日だ、ちょっと早めに行かなきゃいけない」


カリスには色々と借りがある。

その対価として、この「朝に起こしに来る係」をしばらくすることになった。どうにも朝が弱いが、いままでのように相部屋の人が起こしてくれず、とても困っていたらしい。


「転入とか、本気で憂鬱だ」


本来であればこの時間、地下下水に行くか屋根裏で清掃していた。

仕事もせずに学びに行くことが、なんだかこう、座りが悪い。


「馬鹿なことを言ってないで行くわよ」

「へいへい」

「なるほど、ときに強引な方が……」


カリスに手を引かれてずんずんと行く。

背後からわたしの裾をつかんだ状態のアマニアは何を学んだ?

デスピナは上がった速度の風を受け、心地よさそうに目を細めている。


うん、本当に面白くない。

わたしは学院生として、このアイトゥーレ学院で学ばなきゃいけない。


それまでの生活と、まるで違うことになる。

しかめ面で嫌そうな顔をしてなきゃいけないはずだけど、窓ガラスに写るわたしの顔は、そうじゃない。


「まったく……」


鏡で見たときと違い、どこか楽しそうだった。




     一章 了 




たぶん二章で終わるかも?

あまり綺麗な決着とはならないでしょうが、三章以降のアイディアがうっすらとしかないので


ここまで読んでいただきありがとうございます、少しでも楽しんでもらえたのなら幸いです

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