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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
一章 アイトゥーレ学院編
52/105

ep.52 「デスピナ、お前こそが招かれざる客だ」

許せない、と剣が振られる。

邪魔をするな、とネズミが吠える。


人形コーキィアは限界を越えて稼働し、その攻撃はいっときも休まない。


わたしの夜会と、デスピナの夜会。二重に張られた夜の下で戦いは繰り返される。


「クレオ、そなたが表に出なければ、このようなことは起きなかった!」

「ふざけんな! それは形見だ! とっとと返せばわたしは引っ込んでたよ!」

「あのように褒め称えられながら、その上この宝まで手にしようというのか、どこまで強欲となれば気が済む!」

「短い手でわたしのものを抱えてんじゃねえぞ! なに被害者ぶってんだ!」


ネズミはわなわなと震えながら、ネックレスをぎゅっと抱きしめていた。

その身体に巻かれたチェーンが揺れた。


「そなたは、悪だ。この世でもっとも許しがたい猛悪だ!」

「人間の住居に勝手に入って、人のもんを勝手に盗んで、その上で手前勝手な正義ヅラしてんじゃねえ!」

「吾の喝采を、そなたが奪った!」


クソ会話にならない。

けど、その気持ちばかりは伝わる。

弾けた魔力から伝達された。


わたしが夜会に訪れた――その情報を得たデスピナたちは、狂乱して混乱した。

逃げ込もうとしたその先に、わたしが陣取り、待ち構えている――そんな格好に見えた。


だからこそ、すべての手段を使い、わたしを倒そうとした。

いつまでも逃げてはいられないと覚悟を決めた。


最善は、捕らえて地下下水に確保すること。

殺さずに人質として捕らえ、その上で「目をかけている存在」と交渉する。

普段から積極的に動いていない相手だ、多少の危険があっても放置している、話し合いくらいはできるはずだ。


それが不可能ならば、殺傷する。

夜会という、他からの介入がなされない状況で、厄介者を確実に排除する。


選べる選択はこの二つ。


どちらの手段を取るにしても、膨大な戦力が必要だ。

だから、学院生を浚い、そこから魔力を抽出した。


これにはデスピナではなく、副官の夜会を活用した。

人を昏倒させ続け、そこから魔力を奪った。それは、大量の人形を作成できるだけの魔力の確保に繋がる。


同時に、その「いなくなった学院生」の代わりに、ネズミや副官の人形を送り込んだ。

アトゥール島の全域に展開した夜会、そこでデスピナをより効率よく喝采させ、扇動役とするために。


状況としても魔力としても楽に勝てるだけの準備を整えた。

たかが一人の人間、それも下級職員。楽勝だ。完勝だ。今日は皆でパーティだ。

そのはずだったというのに、覆された。


喝采を送り込む学院生たちが寝返り、力の供給先を変えた。

スキャンダルが何もかもをひっくり返した。

狡猾さで、ネズミは人に負けたのだ。


「ふッ!」

「シィイイぃいッ!!!」


剣とトンカチを叩きつけ合う。

秒間に十も二十も火花が散る。

そのすべてに幾重にも積み重ねられた魔力が乗る。


そのたびに、夜会そのものが揺らめく。

空間に歪みが生じる。


状況は削り合いだ。

ネズミはその全身に巻き付けたネックレスを光らせ、威嚇の叫びを鳴らし続ける。


操る人形コーキィアは人体の動きを模さず、関節を逆に曲げながら剣を操る。

そこにいるのは「人形」ではなく、もはや一個の「武器」だ。


うん、人間離れしすぎて、ぶっちゃけ気持ち悪い。

人間の体って、そんな風には曲がらないから。


「そなたは人形だ!」

「あ?」

「中身のない虚ろであり、樹木のウロだ、この夜会の空虚こそ、そなたの本質だ!」


豪奢で広々とした夜会。

だが、そこには誰もいない。

ネズミの群れですらも離れて逃げた。


「吾の夜会と、否、これまでの夜会との差異を思い知るがいい! そなたの夜会に訪れるものは誰もいない! そのような独り法師が何を誇る!」

「――」

「吾に従え、吾に下れ、それだけがそなたを救う」


攻撃だな、と思う。

不利だからこそ、言葉でダメージを与えようとしている。

この夜会の主催者であるわたしへの難癖つけだ。


けど同時に、そう間違ってもいないなとも思う。

わたしの開いた夜会には、目的がない。

誰かと共有できるものがない。


カリスのように欲望を、アマニアのように情報を、デスピナのように喝采を共有し、他とやり取りすることができない。


わたしの夜会は、誰かと交流をはかるためのものじゃない。

そのための手段が、何もない。


「知るか」

「む」

「この程度の支配も乗り越えられないやつと、仲良くしたいとは思えないね。わたしは友達を選り好みする」


だが、わたしの夜会が間違っているからと言って、それはデスピナに下る理由にはならない。


「お前とは趣味が合わない。お前の下についても息苦しくなるだけだ」

「強がりを――」

「それにな、お前が言ってるのは、以前のわたしだ」


視界の端に、全速力で走る人の姿がある。

それは映像機器を構え、ひどく硬い目をしていた。

さらにその背後では、ぜいぜいと足をもたつかせながら「いー!」という顔をした令嬢もいる。


どちらも、平気な顔をしていた。

なんの問題もなく、ここにいる。


少しだけ浮かんでしまいそうになる笑みを噛み殺す。

まだ、敵の眼前だ。


「ここは、わたしの夜会だ。わたしが気に入った相手を招待する場所だ。デスピナ、お前こそが招かれざる客だ」


言って、わたしは長柄のトンカチを肩に構える。

いつもの、ネズミ退治の姿を取る。


「いい加減、決着つけようぜ」


人形の肩に乗るネズミは、心底気に入らないという目でわたしを睨んでいた。





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