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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
一章 アイトゥーレ学院編
42/105

ep.42 「そなたは論外だ」

十体近くいた人形は残らず粉砕した。

どういうわけだか核となる花すらなく、人形はただ無惨に破壊され、その残骸だけを残して消える。


数的な不利を覆せたのは、わたしの魔力が回復したこともあるけれど――


「なんかこいつら、動き悪かったな」


単純に、敵が人形に慣れていなかったからだ。

戦力が互角なら負けようがない。


「たしかに、そうね」

「なに訳知り顔に頷いてんだよ」


わたしが戦っている間、カリスは遠くで「がんばれー」と応援していた。


「生身で人形コーキィアを相手取れるはずがないでしょうが、無茶を言わないで」

「お前だって薔薇は持ってるだろ」

「貴女みたいな変則変態を誰もができると思わないでくれる?」


たしかにそれなりの魔力は使うけど、割りとできるものなんじゃないのか?


アマニアが、とことこと近寄る。

良い映像が撮れたのか、仄かに満足している様子が覗き見えた。


「もし、それが可能であれば、誰もが使っているとは思いませんか」

「なんで皆やってないんだろうとは思ってた」

「自覚がないようだけれど、貴女の方法って現実の戦争で人形コーキィアを作り出すやり方よ?」


人形コーキィアは、基本的に夜会オルギア限定のものらしい。

それは主催者の許しがなければ使えない。


「むしろ、どうして貴女はそんなに自由に作成できるの?」


薔薇ロギアを核にした人形作成。

アイトゥール島の外でも通用するやり方。

それが可能なのは……


「よく授業を聞いてたからだな」


わたしは天井裏から定期的に学んでいた。

それはカリスたちが勉強しているよりも先の内容も含まれる。


「ぶっ飛ばすわよ」

「クレオ、さすがです」


左右から罵倒と称賛が同時にした。

どっちも素直には受け取れない。


「とりあえず、わたしは紛れ込んだ人形を狩って行くぞ」

「貴女、殺人鬼に間違われるわよ」

「撮りがいがありますね」

「二人は別のところに向かってくれ」


当たり前に他人事のカリスと、当たり前みたいに付いて来ようとするアマニアに向けて言う。


「……」


いや、アマニア、感情の見えない目で真っ直ぐこっちを見るな。

子犬かお前は。


その無言抗議にツッコミを入れる代わりに、わたしは気になってたことを指摘する。


「どうせお前、昨日はこっそりわたしの部屋を漁ったよな」

「黙秘します」

「わたしが以前から見当をつけていた場所があったはずだ、ちゃんと地図に書いてあったよな? そこを調べに行ってくれ」


すぐには返答は来ない。

棒を飲んだように唖然とした、アマニアのまんまるの目がある。


その反応は探索していたことの証明だけど、そのことにすら気づいた様子がない。


「……嘘ですよね?」

「嘘やハッタリでお前に頼むわけないだろうが。現状の可能性として一番高い」

「何を言っているのか、さっぱりわからないのだけれど?」


わたしは肩をすくめた。


「たぶん、わたしの誇大妄想だよ」


それでも、「わたしのことを常に取材したい」というアマニアの願いを断念させる程度には、懸念している。

これで違っていたらひどくデカい借りを作るのも覚悟の上だ。


「わたしはデスピナをやる。だから二人は、入れ替わられた人たちを助けてくれ」


たとえ杞憂であったとしても、人命救助を優先すべきだ。



 + + +



二人と別れてわたしは歩く。

変わらず薔薇による武装を続ける。


顔には仮面がいまだに張り付く。

そうして意気揚々と走って回って人形を壊して回るぜと思っていたけれど、どうやらそう上手くは行かない。


「まあ、気づくよな」


夜会の主催者が、夜会の中のことをわかることはない。

天井裏に夜会を開いたけど、他の人達の動きの把握はできなかった。けれど、もっと目立てば――

たとえば夜会の中で「薔薇を核にした武装」なんてことをすれば、さすがに違和感が出じる。

一色で塗りつぶした世界の中で、別の色がぽつんと生じたようなものだ。


「――」


推測を肯定するかのように、唐突に世界が沈んだ。

窓の外が、一挙に暗くなった、ロウソクを吹き消したかのように太陽が消える。


つい先程までうららかな午前の陽気はなく、冴え冴えとした月が暗闇を照らす。

涼しい夜風が窓から廊下へと通り過ぎる。


日中時間をまるまるスキップだ。

いくらなんでもせっかちすぎだ。


「ここが夜会であることを、もう隠さないのか」


独り言のような言葉。けれど。


「諾」


返事が来た。

学院の各所に張り巡らせた伝声管から。


向こうは、わたしの位置を完全に把握している。


「よくもやってくれた」

「なんの話だ?」

「そなたが倒したものは、吾の副官だ。それをそなたは破壊した」


最初に不意打ち気味に倒した人形かなと思う。

普通に喋っていたし、頭部を破壊した後でも動いてた。


「悪いな。ぶっ壊さずにはいられなかった」


カリスのいる教室内にいたやつは、あの中では実力的にも抜きん出たもので、真っ先に対処しなければいけなかった。不意打ちで仕留めないと不味いことになる。


「否」


わたしの近くから、聞こえた。

こちらの歩行に合わせるように、違う伝声管が開いていた。


「そなたの破壊と虐殺は、万人にとって許しがたい。許されるはずがない」


憎々しげな声が漏れる。

その副官とやらは、それだけ親しい間柄だったのかもしれない。


「その万人って、お前以外に誰かいるのか?」

「吾の怒りは万をも超える」

「あっそ」


わたしは階段を登る。

今、デスピナがどこにいるかはわからないけど、偉そうにしたいやつはだいたい上にいる。


暗く沈んだ学院では、いままで以上に混乱が渦巻いている。

いきなり外が夜になったんだから当然だ。

授業合間の休憩時間ということもあり、誰もが外を指差し騒いでいる。


先生方は、そんなこと知ったことじゃないというように、平静かつ無感動に授業を開始しようとする。

まるで普通の曇りの日みたいに。


「ふんっ!」


その平静さは、わたしがちょっと教室に入ってトンカチを振り下ろし、人形を打ち壊してもスルーしたくらいだ。

隣の席の令嬢が悲鳴を上げて身を捩り、逃げようとしているけれど、散乱しているものに血も無ければ肉片もないことに「え、え……?」と困惑している。


「失礼しました」

「そういうことは休憩時間にやるように」

「はい」


それだけで済ませる先生は、なんか色々と超越しているなと思う。


「……なぜ分かる」


伝声管越しに、デスピナにそう聞かれた。

答える道理はないけれど。


「見りゃわかるだろ」


人と人形の差なんて、一目瞭然だ。

遠慮なくフルスイングできる程度には。


困惑と沈黙だけが返る。

伝声管がパカパカ3つくらい開くだけの時間が過ぎた。


「そういえば、お前のやろうとしてることがわかったよ」


さらに階段を登りながら言う。

視界の端には、撮影機を抱えた誰かの姿がちらりと見える。アマニアじゃない、新聞部の誰かだ。

戦闘に巻き込まれない位置からわたしの様子を撮影していた。


「否」

「ん?」

「わかるはずがない、わかるはずもない、それは思い上がりだ、お前は思い上がっている、クレオ・ストラウス」


階下では騒ぎがまだ継続している。

上の方に行くほど上級生だからか、外がいきなり暗くなることも当たり前に受け入れていた。


聞こえてくる声の中には、デスピナの名前を叫ぶものもいる。

学院生の中で最強とされるものであれば、この状況にも適切に対処してくれるんじゃないかと期待したものだ。


当の本人はわたしに文句を言うことしかしてないけど。


「まあ、そうかもな」


推測として、大まかな輪郭を把握しているくらいだ。

不明な点はまだ多くある。


「けど、こうやって話していれば伝わるものがある」


コイツは「褒められたい」のだ。

同時に、その褒められたい相手のえり好みもしている。


「喝采がおまえの一番の望みだ。それ以外には無い」

「……ひとつ、断じる」

「ん?」

「すべて、そなたのせいだ、そなたが諸悪の根源だ、クレオ・ストラウス」


想像していたよりも、ずっと深く、重く恨まれていた。


「あっそ」


そんなものをまともに受け取るつもりはない。

なぜだか「やはり、そうでしたね?」というアマニアの顔が浮かんだが同じく受け取りを拒否する。


「わたしだってお前を許すつもりはない」

「この形見とやらか?」

「ああ」

「殺す」


短く、けれど、強い言葉は。


「そなたは論外だ。相入れぬものだ。吾が叩き潰す以外にない」

「そうかよ、ところで、いいのか?」

「何について」

「悪名とはいえ、「わたし」は有名になりつつあるみたいだぜ?」


先ほどから魔力が充填されている。


そう、デスピナの夜会において、喝采こそが力となる。


この喝采は、プラスの方向だけじゃなくてマイナスの方向も含んでいた。

あちらこちらで虐殺を繰り広げている、仮面をつけた奴のことが、話題として沸騰していた。


「諾」


けれど、それは――


「そなたを倒してこそ、吾の喝采は完璧となる」


予定通りだったらしい。

わたしという敵を待ち受けるように、学院の屋根の上に立ち、こちらを見つめる黒髪の令嬢の姿が見えた。

ゆるく風を巻き上げ、その長い黒髪を揺らす。


助けを求める学院生の声に応えるように、堂々と待ち受けた。


月夜に立つその姿は、まるで夢物語に見る英雄だ。



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