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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
一章 アイトゥーレ学院編
23/105

ep.23 「おい……なんで黙る……?」


今回、おかしな部分が大量にある。

その最大は、わたしが来ることを、新聞部が予期していたことだ。


さすがに下水から参加することまではわかっていなかったみたいだが、「あの日、あの時間に来ること」を明確に把握していた。

ダメージ分散のような夜会戦の対策まで、わたしが来るよりも前から準備をしていた。


だが、それは本来、どうあっても不可能だ。

まして、カリスという「わたしと関係があるかどうかもはっきりしない令嬢」を拘束するのは、相当の確信がないとできないはずだ。


誰かが情報を渡した。

誰かが、わたしが新聞部に行くことを伝えた。

カリスが人質として有益であることまで知らせた。


それができるのは――カリス自身しかいない。

なにせ、「図書館委員会へ情報収集に行こう」と言い出したのは彼女自身だ。


「お前のところのオークションでは、校内新聞掲載差し止めチケットも出していたな?」

「ぐ……」

「対価を支払えば掲載を止めることができることができる――これは、以前から関係があったからこそ可能なことだ。そんなお前が、図書委員会の裏の顔が新聞部であったことを知らないわけがないんだよ」


わたしは再びベッドで横たわる。

カリスの首根っこをつかんだ手は離さない。


「言えよ、お前、わたしを売ってなにを得た?」

「違うわよ!」


ゆるんだわたしの手を引っ剥がしながらカリスは叫んだ。


「たしかに、そう、たしかに? 以前から関係はあったし、裏が新聞部だということも知っていたわ」

「お前な……」

「けど、それは取引で得た情報よ、そう簡単にべらべらと喋れるわけないでしょ!」

「む」


それは、たしかにそうかもしれない。

金儲けをするからこそ、カリスは取引における信用を裏切らない。


「なら、明らかにわたしを狙い撃ちにしたような、あの用意はなんだ?」

「……わかんない」

「おい」

「本当に分からないのよ! 売ったというけれど、貴女が来ることを伝えたのは夜会が開始される少し前よ、連れとして貴女が来るけど構わないかしらとアマニア嬢に確認を取った途端、足払いされて腕を縛られそのまま引きずられたわ」

「……は?」

「普通の夜会だったものを、貴女が来るとわかった途端に変更した、その痕跡はあったはずよ」


たしかに、机や椅子が壁付近に置かれていた。

菓子類なども2人分にしては大量に用意されていたし、なによりも人の気配が感じられた。


入念な準備ではなく、突貫工事をした様子は見て取れた。


「こっちこそ聞きたいのだけれど」

「なんだ」

「貴女、どうしてあんなにアマニア嬢に執着されているの?」

「いや、知らないけど」

「知らないわけないでしょ」


断言された。


「彼女、こっちが夜会に着くなり、まっさきに貴女について聞いてきたわ。そして、貴女自身が来るとわかったとたんに目の色を変えた。そして今も貴女のことを追いかけている。あれは確実に、以前から貴女について知っていたからこそだわ」

「それ、勘違いだったらしいぞ」


たしかにそう言ってたはずだ。

特徴からして探していた相手かもしれないと期待していたが、実際に見たら違っていたとか、そんな感じのことを。


「……本当に?」

「ああ」

「けど、貴女って変装していたわよね」

「ん? うん」


ガンガンに自らを殴って変形させた。


「そして自滅攻撃をした際に戻った、そういう話よね」

「そうらしいな」


自覚はないが。


「なら、素の「人形としての貴女」こそが探し求めていた相手だったんじゃないの?」


言われても困る。

わたしはアマニア・アンドレウについて本当に知らない。


「ないだろ」

「どうして?」

「下働きのわたしと学院の令嬢に、そんな接点があるわけないだろ?」

「たしかに、そうかもしれないけれど……」

「よくわからんが、わたしの人形顔に似た奴をさがしてるとか、そういうことなんじゃないのか?」


疑念に満ちたカリスの視線は、わたしの言葉を信じた様子がない。


「まあ、けど、悪かった。たしかにカリスはわたしを売るようなことはしてなかったんだな。ヘンな疑いをお前につけたことは、謝る」


さすがに何か償いが必要かとも考えるが、反応がない。

見れば、カリスは横を向いて沈黙していた。


「おい……なんで黙る……?」

「え、えっとね?」


なぜか指をひらひら動かしていた。

ついでに視線もふらふらと彷徨う。


「貴女をあの夜会につれて行ったら、相当量の魔力を融通するとは言われたような、言われなかったような?」

「おまえ、わたしのこと思いっきり売ってんじゃねえか!」

「怪しいとは思ったわよ! だけど失った魔力の補給は貴女だって必要だったでしょ!」

「まさかお前、あのコインのことか!?」


図書委員会に行く前、1000枚ほどのカリスコインを補給用としてくれた。

ずいぶん気前がいいと思っていたが……


「そうよ! こっちの取り分も使い果たしたわ! 本当に、本当に大損なのよッ!」

「あー……」


いくら回復力が高いと言っても、さすがに限度がある。

わたしの回復分ならギリギリありえたかも知れないけど、人形にダメージを与えるほどの爆発を起こせるだけのコイン量は、さすがに無理だ。


それは新聞部からの支払いによって行われた。

わたしを新聞部に連れて行くという取引が資金源だ。


「ねえ」

「な、なんだ」


ぐい、とカリスが迫る。

ベッド上のわたしの方が追い詰められるような形になる。


「コインを失ったわ」

「そ、そうだな?」

「お金が消えたの、損したのよ。もちろん、助かるためだったけれど、二人が生き残るためでもあったわ」


夜会外の、人形に追いかけられたときにコイン塊を放ったことを指していた。


「あんな損までして、その上で貴女の信頼まで損なうのは、本当に嫌なのだけれど?」

「わかった、正直にいえば納得できない部分もあるけど、お前が裏切ったわけじゃないのはわかった」


カリスの人格は信頼できないが、その商魂は信頼できる。

こいつが裏切り者だったとしても、金銭的に損になる選択はしない。そういう形での確信は持てた。


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