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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
二章 フェダール国編
100/105

ep.100 わたしの薔薇を通じて、それが現れる


フェダール国の王は笑い続ける。

シェリの体で、体を震わせて、心底楽しそうに。


「俺を滅ぼす? 打ち砕く? カカカ、ここ最近でもっとも面白い冗句を聞いた! おまえが? おまえ程度が?」 


シェリが決してやらない表情だ。


「ああ、それと、面白いことを言っていたな。おまえの母親が美しかったと」


たまらないというように顔を抑え、肩を震わせている。


「そうかもなぁ、そうだったかもなぁ、そんなことは、もう遥か過去の彼方だ。美醜などという薄皮一枚など、俺の興味の対象ではない。だが、フハっ、おまえが、その有り様のおまえ如きがそれを言うのか?」

「悪いな、不美人で」

「違う」


一転した無表情で、王は言う。


「言っただろうが、美醜など薄皮程度のものだと。そうではない、そのような価値観など俺にありはしない。だが、それでも、おまえは醜い」

「なにが言いたいんだよ」

「よほど無理をして時を渡ったな? 俺の知る魔力構成と異なる在り方と化している。おまえは今、本来のそれと比すれば小指程度と言っていい実力しか発揮できずにいるはずだ」

「知るかよ」

「おまえはその本質を歪められて在る。だからこそ、醜い。どうしようもなく醜悪だ」

「お前はどうなんだ?」


まあ、たしかに魔力回復がほとんどしないのは困ったもんだけど、それ以外に別に気にするようなことじゃない。

それよりも――


「フェダール国の王。今のおまえは本来の在り方とやらなのか? 他の奴らに勝手に祭り上げられて、好き勝手されて弄られて、それでお前はお前だと、胸張って言えるか?」

「……おまえはどうなんだ」

「言える」


当たり前だ。


「わたしはわたしだ。どう変化しようが、お前の目からどう見られようが知ったことか。わたしはわたし自身を支配する」

「カカ、ここから出られず、俺の慈悲によって生かされているような輩が、何を支配しようというのだ? 認めろ、今のおまえは、俺に支配されている」

「そうかもな」


実質カゴの鳥だ。

だが――


「けど、いい加減にしろよ」

「なにをだ?」

「お前に言ってねえよ、いい加減、目ぇ覚ませと言ってんだ」

「ほう? この体に向けて言っているのか? テティシェリに向けて? カカカ、面白い戯言を言うなぁ」

「こんな奴にいつまでも乗っ取られてんじゃねえよ、わたしに向けて反逆を誘って起きながら、お前自身が真っ先に降伏してどうすんだ」

「カカカ! 無理だぁ、それは」


むしろ憐れむようにソイツは言う。


「生まれてから今まで役割に従うことこそが正しく、逆らうことは死であると骨身に染みている。反抗期のガキがコロコロとあっけなく死んでいく様を、コイツは眼の前で見続けた。今更、できると思うか? 本当に可能だと思っているのか? 俺はその中でも最上級の「役割」だというのに」

「知るかよ」


そんなことは関係ない。


「わたしに反逆を誘いながら、何もやらねえのがムカつくって言ってんだ。お前はふんぞり返って上から命令しかできない雑魚か?」

「ああ、その通りだ」

「口を挟むんじゃねよ」

「俺の身内だからこそ断言できる。そのような気骨があるものは常に死に続けた。長年かけて改良された「意思の弱さ」を覆せるはずもない」

「なるほど」


ふざけていやがる。


「手本を見せないと駄目って話か」

「ハッ、おまえがか? どうやって? 閉じ込められて力を振るえず、反抗すれば死に至る。俺の慈悲にすがるより他にないおまえに何ができる?」

「そうだな、できないな――ああ、うん、確かにわたしには無理だ」

「ずいぶん物わかりがいいな?」

「わたしには、出来ない」

「はあ……?」


過去の言動を思い返す。

コイツは――テティシェリは反逆を企てていた。それは確かだ。


王の望むままに、誰も彼もが死に続ける状況をなんとかしたいと願い、行動した。

それはわたしにとって迷惑極まりないものではあったけど、たしかにそう突き進んではいた。


だったら――


「言ってたな――血を流さなければ断ち切れないものがあると」

「……その発言は、あの愚物のものであろう」

「ああ、スフィンクスのものだ」


そうだ。そうだった――


「あれは、わたしに向けた謎掛けだった」


血によって断つべき因縁や謎がある。それは何か?

答えはコイツだ。この王だ。


じゃあ、血によってとは、どういう意味か。

どんな手段を使うって意味だ?


「まあ、普通なら無理なんだろうな。けど、ここなら条件が揃ってる」

「何をするつもりかは知らぬが……客人としての役割を放棄するつもりならば、相応の罰を下す」

「出ていくわけじゃない。今ここにあるものを活用するだけだ。これを否定する法はどこにもない」


薔薇ロドンを取り出しながら言う。

そう、わたしはデスピナの薔薇を通じて、魔力を通すことができた。そこまでの伝達ができた。

支配下にあるものは、魔力的には同一となる。


「そして、ここにはスフィンクスの片翼が持ち込まれている」


この場に、それは置かれている。

細長い私物が当たり前のような顔で転がる。


済ました顔でシェリはそんな反逆をしていた。

あのスフィンクスの、手助けをしてた。


そう、誰よりも怒り狂っていたのは、実はあのスフィンクスだ。

自らが守る村を脅かされた事態に、心底から激怒した。


片翼を己で切断し、この王宮に送り込むほどに。


「な」

「魔力的なパスが通り、実体としての依り代がある、これで不可能なら魔術が得意なんて看板は外しちまえ!」


投げつけた薔薇は、王の背後で放置されていたシェリの長細い私物に――スフィンクスの片翼に接触する。


途端、閃光が生じた。

薄暗く満ちる暗闇を駆逐する。


そう――わたしが空間や距離を無視し、デスピナの薔薇を通じた顕現をさせたように。

わたしの薔薇を通じて、スフィンクスのそれが現れる。


魔術的な焦点から、ずるりと白い手が伸びた。


「おまえ、は……ッ」


それは空間を切り裂くかのように姿を見せる。


どこか、アマニアがやった半端な人形の顕現を思わせる。

あれは夜会範囲外へと強引に抜け出たからこそのものだったけれど、今回のそれは逆だ。

制限された容量に、規格外の魔力が注ぎ込まれている。


一国の守護者でもあったものが、人形コーキィアとして現れ出る。

顔ばかりは以前と同じく、けれど、淑女そのものの、人としてのカタチで現出する。


「すべての事象を飲み込んだわけではありません――」


それは、当たり前のように言葉を口にする。


「だが、ワタシはワタシとしてここにある」


そうとも、わたしが弱っちくて戦力にならないというなら、他から戦力を持ってくればいい。





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