2. わたくしの言い分
「イリューシア! なにか反論出来るなら云ってみろ!!!」
「馬鹿じゃないですの?」
にやにやといやらしい顔で叫ぶ殿下の言葉に脊髄反射の様に出たわたくしの言葉によって、会場が一瞬にしてお通夜のように静まり返ってしまいました。
まあ、静かでいいわね。
今度は殿下が呆けた顔をしているわ。なんだか可笑しい。
「なっ!なっ!!なんだと!!!」
あら、なんか「!」の三段用法っぽいセリフですわね。
「そんなにわたくしの反論意見をお聞きしたいのでしたら、お話ししましょう。
ですが、殿下の性格では、わたくしが何か云う度に大きな声を出して威嚇して反論するでしょう。
わたくしうるさいのは好きではありませんのよ。
黙ってお聞きくださいます?」
「なんだと!? 貴様!!!」
「もうお黙りになって」
指を鳴らして魔法を展開する。
せっかくなので会場にいる方々にも横やりを入れられないように、声が出ないようにしてしまいましょう。
声が出なくて激高して暴力を振るわれても大変です。その場から動けないようにもいたしましょう。
ふふ、わたくし立派な悪役令嬢ですわ。
「・・・・!・・・・!!!!」
まあ、声が出ないようにしているのに殿下からは「!」が聞こえるようですわ。
ここまで酷いと、頭のシナプス伝達機能が壊れているのではないかと心配になります。
「さて、会場も静かになりましたし、殿下からわたくしの意見を求められたのでお話いたしましょう」
わたくしはあまり大きな声を出すのは好きではないので、声を風に乗せて拡声器のように会場全体に行きわたらせます。大丈夫ですわ、聴きにくいことはありません。音割れ無しです。
「まずは、ローアン公爵令嬢であるわたくしイリューシアは、パトリック様のご希望通り婚約破棄を受け入れます」
その言葉にようやくパトリック様は落ち着いた様でした。
あら、わたくしのお話はこれからですのよ。殿下。
「そして、婚約破棄は一方的にパトリック様からの申し入れですので、もちろん慰謝料請求致します。
婚約破棄の原因となった浮気相手のカーリン様のご実家のユリアーク男爵家へも慰謝料を請求致します。
これは、ローアン公爵である父と国王様との取り交わしもございますので、そちらに一任いたします。
男爵家には父から連絡が入るでしょう」
殿下とカーリン様は抱き合った状態でわたくしが魔法を掛けたので、そのままの状態で二人とも驚愕の顔をしています。その後カーリン様は真っ青になって、殿下は真っ赤になってまた喚き始めたわ。
「一方的」と「慰謝料」と「浮気相手」が気に食わなかったのかしら。
殿下用のNGワードが多すぎるわ。
「それでは、パトリック様からのご要望の【わたくしの意見】ですが」
ここからは、今までの鬱憤も含めてノンブレスで言わせて頂きますわ。
もし、わたくしの物語があったとして、この話を読んでいる皆様には読みにくいかもしれませんが、ご了承くださいね。
もしくは飛ばしていただいても差して問題はありませんわ。
ただの愚痴ですもの。
「さまざまな嫌がらせの部分ですわね。教科書を破いて裏庭に捨てたとか。どうしてわたくしがそんな不躾な事をしなければいけないのでしょう。わたくしは高位貴族というプライドを持っています。殿下に可愛がられている女性がいたとしてもそんな事するはずもございません。教科書を破いて捨てるなど、庶民のいじめの方法であって、わたくし達貴族の方法ではございませんわ。カフェテリアではカーリン様に貴族女性の在り方を説いただけです。婚約者のいる男性に不用意に接触していたので、こちらがその事に苦言をすれば『庶民のクセが抜けないんです』とおっしゃいましたけど、庶民の女性を馬鹿にするのもいい加減になさい。庶民でも男女区別はきちんとついています。むしろ、男女共、同じ環境で働いている事もありますから、誤解されないように気をつけて生活しています。カーリン様は庶民上がりの男爵令嬢との事で、庶民を馬鹿にしている貴族の方々から嫌な思いをしているのでしょうけど、一番庶民を馬鹿にしているのはカーリン様の方では?貴族に於ける常識を説いているのに、聞くに耐えなかった殿下の常識とは?パーティでは嫉妬からか、カーリン様に足をかけて転ばそうとしていたという事ですが、わたくし、一度たりともパトリック様をお慕いした事はございません。嫉妬とは、自分が相手に好かれている事が前提でしょう。その前提がまずございません。足をかけて転ばそうとしていたという事ですが、高位貴族はそもそも下位貴族に近づく事もございません。一体いつ足を掛ける機会があるというのですか。カーリン様が男爵令嬢だと嘲笑ったという件ですが。わたくし達貴族は国王陛下の元、国を盛り上げていく同士です。もちろん階級はございますが、同じ国の貴族をどうして嘲笑うのでしょうか。嘲笑う意味がまずわかりません。むしろ、わたくしに冤罪を掛ける為におっしゃった言葉だったとしたら、殿下の方が『下位貴族は嘲笑う者だ』と解釈しているのではないですか?国母の件ですが、わたくしは殿下と閨を共にする気は全くございません。考えただけで寒気がします。鳥肌が立ちます。気分が悪くなります。王族という国や国民の模範となるべき者がいつまでたっても反抗期を終える事なく、婚約者に対して紳士的態度が取れず、機嫌が悪い事を隠しもせず喚き散らし、本当にわたくしは迷惑でした。そんないつまでたっても成長もせず、婚約者以外の女性に性的要求を求めている婚約者など誰が好ましいと思うのですか。真実の愛を正当化してわたくしとの婚約破棄を要求しておりましたが、その言葉が政略結婚の多い貴族の皆様を不快にさせる言葉だとなぜ考えないのです。真実の愛と思って結ばれたとしても、時間が経てばそんな考えもなく喧嘩ばかりする夫婦だっています。結婚とは、お互いを尊重し、大事にし合い、信頼する事が夫婦間を穏やかな愛にする事ではないでしょうか。だいたい殿下とわたくしの婚約も公爵家から求めたものではありません。王家から懇願されてやむなく殿下の婚約者になったのです。それなのに嫉妬?もしかして、わたくしが殿下の事を好きだから王家に公爵家から頼んだとでも思っていたのですか?殿下のどこにわたくしに好かれる要素があるのか疑問です。わたくしは希少な魔法使いだから王家から婚姻を打診されたんです。本当なら公爵家の領地をお父様とお母様と楽しく統治する予定でしたのに、妃殿下教育をこれでもかと勉強しなければならなかったのですよ。その間殿下はカーリン様と青春を謳歌していたではないですか。わたくしだってもっと学園の皆様と普通の学生として過ごしたかったのにそれも出来なかったのですよ。ああ、これが嫉妬でしょうか。殿下の思っている嫉妬とは違いますが。将来の国母を心配なさったようですが、わたくしは殿下が王になる未来が心配ですわ。もし殿下が王になるのでしたらわたくしは他国に亡命致します」
ふーーーーーーーーーーーーーっっ
まだ言い足りないような気もしますが、取り敢えず言いたい事は言いました。
貴族然として、妃殿下教育もあって笑顔で淡々と言いきりましたわ。
わたくしはやり切った。ふふ。
ぜひ、グー●ル読み上げ機能最速で聞いてみてくださいませ。
この行動は淑女とは言えませんけど。男性の後を三歩下がってなんでも言う事を聞くというのが淑女でしたら、わたくしは初めから淑女ではありませんわ。