表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/44

27.選抜戦 3

「午前の試合が終わるなり急いでどこに行ったかと思ったら。レナ嬢、ユーゴの所に行っていたのか」


 午後の選抜戦が始まる前、観覧席にエリアス様と一緒に戻ると、アクセル殿下に休憩のことを尋ねられたので説明した。


「エリアスのやつ、私と打ち合わせを終えると、食事もそこそこに出て行ってしまってねえ。レナ嬢がいなくて気が気じゃなかったんだろうねえ」

「え……私、エリアス様にご心配おかけしてましたか?」


 騎士団内を自由にウロウロするのはいつものことなので、アクセル殿下のお話を聞いて私は驚いた。


「今日、君はマテオと賭けをしているだろう。また厄介事に巻き込まれたら大変だからな……」

「うう、すみません……」


 エリアス様の言葉に私は反省した。色々と首を突っ込みすぎて、エリアス様に心労をかけていては本末転倒だ。


「エリアスはただこれ以上伏兵を増やしたくないだけだよねー」

「黙れ……っ」


(伏兵? 私と接点があることで秘密が漏れる危険性があるってことかしら?)


 重要なことなのに、アクセル殿下はエリアス様を誂うように言って、二人はじゃれあっている。


「それで? ユーゴのお願いとは何だったんだい?」


 笑い上戸な殿下は目尻に涙を溜めながら聞いた。


『俺が優勝したら、副団長、また俺と手合わせ願えないでしょうか!』


 ユーゴのお願いはお願いと言えるのか疑問なほどささやかなものだった。


『……受けて立とう』


 エリアス様はなぜか好戦的な目でそれを了承した。


「エリアス様は前にもユーゴを指導されていたし、副団長だからその機会はまたありますよね? 何でわざわざ?」


 首を傾げる私に二人は答えない。


「ははは、エリアス、頑張れ?」

「ユーゴは強くなったが、俺も手加減する気はない」


 目の前で楽しそうに笑うアクセル殿下。エリアス様は真面目に受け答えしている。


(どういう状況??)


 よくわからないけど、それよりも嬉しかったことがある。


「でもエリアス様、マテオにユーゴを侮るなって言ってくれましたよね! ありがとうございます!」

 

 前はユーゴはマテオに勝てないと言っていたエリアス様。私は嬉しくてニコニコとエリアス様を見た。


「俺も油断はしてられないな」

「?」


 さっきからなぜか会話が噛み合わない。


 ますます首を傾げていると、アクセル殿下が笑いながら言った。


「ほら、最終組の試合が始まるよ」


 訓練場の方へ目を向ければ、一回戦目が始まろうとしていた。


 ユーゴとミラー、二人とも私の大切な友人だ。


 二人は開始とともに激しく剣を打ち合ったかと思うと、勝負はすぐについた。


「はー、やっぱ勝てなかったか」

「ミラーさん、ありがとうございました」


 ユーゴの勝ちだ。


 二人の健闘に、私は思いっ切り拍手を送った。


 それを見たエリアス様が私に続き、アクセル殿下、アシル様も拍手を送った。それに習い、騎士たちからも拍手がおき、会場は温かな空気に包まれた。


「やるじゃん、お前!」

「二人とも凄かったぞ!」


 控えの場所に戻った二人は、騎士たちに笑顔で囲まれていた。もうユーゴを馬鹿にする人はいなかった。たった一人を除いては。


 それからユーゴは順調に勝ち上がり、ついにマテオとの最終決戦へと進んだ。


(ついに、マテオと勝負だわ! ユーゴ、頑張って!!)


「お前とあの女を跪かせてやる」

「……レナさんにそんなことはさせません」


 二人は中央の位置で向かい合って一言交わすと、審判の合図で剣を構える。


「はじめ!」

「うおおおお」


 マテオの速攻から始まり、剣を合わせる音が響き渡る。


 エースと呼ばれる実力者だけあって、マテオも強かった。その長身を活かし、重い一撃をユーゴに連続して繰り出す。


 速さもあるが、ユーゴだって負けていない。身軽さを活かして、マテオの攻撃を交わし続けている。


「あの速さについていけるなんて凄いねえ」


 殿下が感心して言った。


「師匠のご指導の賜物だろう。それを物に出来たユーゴの素質とひたむきさもあるだろうがな」


 ユーゴを褒めるエリアスの言葉に私は嬉しくなる。


「私は指導を請け負ったが、一番の功労者はレナ嬢だろう」

「へっ?! 私、ですか?」


 静かに観戦していたアシル様が私の方を向いて穏やかに言った。


「レナ嬢の的確な魔力の流れの指摘で、効率的に私も魔力の使い方を教えられた。それが出来れば剣術もあっという間に上達する」

「へえ、やるじゃんレナ嬢」

「あ、ありがとうございます?」

「何で疑問形なんだ。誇れ、レナの力のおかげだ」


 アシル様、アクセル殿下と立て続けにお褒めいただき、こそばゆくなった私は明後日の方向を見てお礼を言う。


 そんな私にエリアス様は椅子から立ち上がって頭を撫でてくれた。


(私の、力のおかげ……?)


 姉に気味悪いと言われ、メイソン様に搾取されるしかなかった私の力が、エリアス様の、騎士団皆の役に立った――――


「……また泣いているのか?」


 少し呆れ気味に見下ろすエリアス様。


「だって……」


 気付けばまた涙をこぼしていた私に、やれやれとエリアス様が涙を拭ってくれる。



 わああ!!と一際と大きな歓声が、訓練場から響き渡る。


「勝者、ユーゴ!」


 審判の高らかな宣言に、訓練場から割れんばかりの拍手と歓声が起こった。


「勝った、勝った……! エリアス様!!」

「ああ……当然だな」


 興奮でエリアス様を見上げれば、彼は優しく目を細めた。


 膝をついてその場から動かないマテオにユーゴが手を差し出す。マテオはユーゴの手を取り、立ち上がる。そんな二人を称えるように皆からは拍手が送られた。


(あれ?)


 ふと違和感を感じた私はマテオの魔力の流れを視た。


 力強い土の魔力がマテオの身体を流れている。


(あれ、何で魔力があんなに疲弊してるの?)


 マテオの魔力の流れが滞っている。試合の疲れではなく、蓄積した疲労だとわかる。


 賭けをした不遜な嫌な相手。でも私はマテオのことが心配になった。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/4 アイリスNEO様より書籍が発売しました! WEB版には無いエリアス視点も加わり、より楽しんでいただけると思います。ぜひお迎えいただけると嬉しいですm(_ _)m html> ●完全新作カクヨムにて公開中↓● 追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ