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18.仲直り

「やあ!」

「踏み込みが甘い! もっと思い切り振り抜け!」

「はい!」


『副団長なら、備品倉庫横の訓練場にいますよ』


 ミラーに教えてもらって訓練場まで来ると、ユーゴがエリアス様の指導を受けていた。


(どういう状況?!)


 昨日、エリアス様はユーゴはマテオに勝てないと断言した。


 必死にエリアス様に食らいつくユーゴだが、今ひとつ精彩を欠く。


(魔力の流れは強いのに、どうして?)


 魔力の流れは視えても、魔法や剣技のことはさっぱりな私には考えても答えは出ない。


 打ち合う二人をしばらく眺めていると、エリアス様が私に気付いた。


「レナ?」

「エリアス様……」


 朝ぶりの気まずさに一瞬怯みつつも、私は勇気を出して叫んだ。


「エリアス様!! 私、生意気なことを言ってすみませんでした!!」

「レナ……! 俺の方こそ、君を怒らせてすまなかった」


 頭を下げる私に、エリアス様はそっと私の肩に手をやり、上体を起こしてくれた。


「許して、くれるんですか?」


 恐る恐るエリアス様の瞳を覗けば、優しい金色がこちらを見ていた。


「許すも何も、俺は怒ってなどいない。レナこそ、俺を許してくれるか? 君と気まずいのは何だか……」


 私の肩にあったエリアス様の大きな手が、私の頬をすっぽり覆う。


「辛い……」

「!!」


 真っ直ぐに伝えてくれたエリアス様の言葉に、心臓が大きく跳ねる。


「頬、すっかり元通りだな。二度と君にあんな辛い思いはさせないから、安心しろ」

「エリアス様……」


 私の煩い心臓を他所に、エリアス様の金色の瞳が優しく細められる。


「ゴホッ」

「!!」


 ユーゴの咳払いに私たちはハッと我に返る。


 ユーゴの方を見れば、彼は顔を真っ赤にして私たちから目線をそらしていた。


「すまない、指導の途中だったな」


 エリアス様は顔色一つ変えずにユーゴに向き直った。私はユーゴにつられて顔が赤くなっているというのに。


(エリアス様ってば、天然タラシなのかしら?!)


 エリアス様にドキドキさせられっぱなしの私は、恨めしくエリアス様を見つめる。


「レナも見ていくか?」


 そんな私の視線に気付いたエリアス様は、優しく提案をしてくれる。


(うう! 好き!!)


 私は訓練場のベンチに腰掛けて、エリアス様によるユーゴの指導を見学することにした。


 エリアス様は無駄のない動きで、洗練されていて、剣を振るう姿が美しい。


(さすが鬼神と言われるだけあるわ……)


 剣のことがわからない私にも彼の凄さが伝わる。思わずエリアス様に目を奪われてしまう。


(はっ!! ユーゴを見なくちゃ!)


 ユーゴは一生懸命に剣を振り下ろすも、やはり動きがぎこちない。


(うーん? 思い切りがないというか、エリアス様への遠慮ってわけにも見えないけど……)


 私はユーゴの魔力の流れを視てみる。


 真っ赤に染まる彼の魔力は、火魔法が使えるのだろう。微力に流れる剣への魔力。一方、美しい青の魔力が神々しいくらい剣にも流れているのはエリアス様。


(ユーゴの魔力は大きいのに、停滞しているような?)


 しばらく続いた打ち合いは終わり、私は二人に持ってきていたタオルを差し出す。


「俺はこのあと業務があるから、ここまでだな」

「ありがとうございました!!」

「レナ、後でな」


 勢いよく頭を下げたユーゴに頷くと、エリアス様は私にふっと笑みを向けて、執務室の方向へと向かって行った。


「はあ、レナさん副団長にあんな顔させるなんて凄すぎます」

「へ?」


 エリアス様の後ろ姿を二人して見送りながら、ユーゴが感嘆を漏らす。


「エリアス様は皆に優しい方でしょ?」


 私がそう言うと、ユーゴは目を丸くしたかと思うと、すぐに生暖かい笑顔だけ返した。


(何、その顔?)


 ユーゴの言いたいことがわからず首を傾げていると、彼は申し訳無さそうに言った。


「すみません、レナさん。俺、レナさんの期待に応えられなくて……。副団長にも直々に指導いただいたのに、賭け、負けちゃいますよね」

「ユーゴまでそんなこと言うの?!」


 しゅん、と弱気なユーゴに、私は思わず活を入れてしまう。


「副団長は、レナさんを手放す気が無いから俺なんかに指導してくれたと思うんです。それなのに俺……」

「はあ?! エリアス様は、ユーゴの地力を信じてるから来てくれたんでしょ!」


 自己評価の低いユーゴは、ますます落ち込んでいく。私なんかの言葉じゃ響かない。


(うーん、魔力が視えるって言うわけにもいかないし、第一信じられないわよねえ)


 ユーゴのこの自己評価の低さが、剣を迷わせている原因な気がする。でもエリアス様が指導してくれても、自信どころか萎縮してしまっている。


(どうしたら……)


 うーん、と頭を悩ませ、しょんぼりとしているユーゴを見る。


 英雄と謳われたアシル様と同じ赤い髪の色。それさえ、彼の卑屈な気持ちを後押ししている気がする。


(ん、待てよ?)


 私は妙案を思いつく。


「レナさん?」


 考えを巡らせていた私を心配そうにユーゴが伺っていたので、私は自信満々に彼に言った。


「ユーゴ、私はあなたの力を信じている。絶対にマテオに勝たせてみせるから、待ってて!」

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6/4 アイリスNEO様より書籍が発売しました! WEB版には無いエリアス視点も加わり、より楽しんでいただけると思います。ぜひお迎えいただけると嬉しいですm(_ _)m html> ●完全新作カクヨムにて公開中↓● 追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした
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