013 メガストラクチャー
ゴブリンとの初戦の後、ノートリア遺跡前にたどり着くまでにルッタたちは別のゴブリンの群れと三度、5メートルクラスのワイルドウルフの群れと二度、6メートルクラス、つまりはアーマーダイバーと同サイズのオーガの群れと一度戦闘となったが、特に苦戦もせず勝利を収めることに成功していた。
あえて厄介だった相手をあげるとするならば機動力の高いワイルドウルフであったが、いずれにせよ速度で上回り、遠距離攻撃も強力なアーマーダイバーにとっては引き撃ちだけでも十分に対処可能で、ここまで遭遇したクラスの深獣ならばそれほどの脅威にはならなかったのである。
(ナッシュさん……もしかすると深獣相手に戦うことを前提に鍛えていたのかもなぁ)
ルッタはオーガとイキイキとしながら近接戦を行なっていたナッシュを思い出しながらそんなことを考えていた。
そもそも剣闘士になったのも当初は深獣相手を想定して戦うためだったのかもしれない。
(だとすればすごい執念だ。この先の遺跡にそれだけ思い入れがあるってことなんだろうな)
シーリスは前クランのことをすでに吹っ切っているようだが、ナッシュは過去の因縁にケリをつけるために五年という歳月を費やしてきている。それは決して平坦な道のりではなかっただろう。ファイトマネーも機体のメンテ代以外は探索のために費やしているとも聞いていた。
「それにしても深獣が多いね。これが深海層ってことなの?」
『それは違うよルッタくん。ここは魔力の流れが止まって魔力濃度が濃くなっているから上の飛獣と同様に深獣も増えやすいんだ。それに気性も他の地域よりもずいぶんと荒いらしいし』
「へぇ。そうなんだ」
ルッタも流石に遭遇率が多いとは思ったが、ナッシュ曰くそれは普通ではないとのことであった。
『最近は飛獣が活性化している地域も増えてるみたいだからね』
「生き辛い世の中だねえ。ロブスタリアとかが増えてくれるだけならいいんだけどね」
『確かに』
『いや、アレもランクCだから。一般的には相当危険な飛獣だからね』
ルッタの言葉と神妙な口調で頷くリリにナッシュが乾いた笑いを浮かべてそう返した。
ランクC飛獣は普通に強敵の部類だ。エビ好きに悪いヤツはいない……と古来より言われている通り、小悪党の腕前では狩ることもできない相手なのだ。
そして、そんなやり取りをしている間にルッタのヘルメット内の表示に敵の反応を示す赤い光点が表示された。
「ん、この先で戦闘が起きてるみたい。片方はオーガかな。で、もう片方は生物じゃない。アーマーダイバーに近い反応だ」
ルッタの言葉にナッシュが少し考えた後『じゃあ、それは多分ガーディアンだね』と返す。
ガーディアンとは遺跡を守る防衛装置のことである。つまりは遺跡がもう間も無くというところにまで近づいているということだった。
『もう間も無く目的地前に到着する。連中がオーガと戦って注意が逸れてるならありがたい。岩陰に隠れながら慎重に進もう』
「了解」『分かった』
ナッシュの言葉に従って一行が岩場の陰に入りながら進んでいくと、岩と岩の切間から巨大な人工物らしきものが朧げながら確認できた。
「アレが遺跡?」
『そうさ。イシュタリア文明の名残り、ノートリア遺跡だ』
未だ目視ではシルエット程度にしか見えていないが、そこにあるのは自然にできたものではなく、人の手によって造られた 巨大な建造物であることはルッタにも理解できた。
(アレが遺跡?)
そして近づいていくにつれて、その巨大建造物の周囲には前世の日本にもある工場地帯のようなものが並んでいるのが確認できた。それは明らかに既存のどの天領よりも進んでいる文明の跡地のようであり、元の世界のソレよりも高度な技術で作られているようだった。何よりも中心にあるのが……
『ねえルッタ、アレって』
「知っているのかリリ姉?」
遺跡はイシュタリア文明の忘れ形見。同じイシュタリア文明によって生まれたオリジネーターであれば何か知っているのかも……そう考えたルッタへ放ったリリの言葉は、
『なんか、でっかいプリンみたい』
であった。
「プリンって……いやまあ確かにそう見えるけど」
工場地帯のような遺跡の中心にあるのは円錐台の塔で、確かにプリンに見えなくもない。ただルッタの連想したものはもっと別のものだった。それはやはり前世の記憶の中にあるもので
(『原発』の煙突? いや、まさかね)
正確に言えばルッタの記憶の中にあるソレは煙突ではない。彼が連想したものは原子力発電所の熱を放出するための冷却塔であった。そう、遺跡の中心に存在していたのはルッタの知る原子力発電所を巨大化させたような施設であったのだ。
形が似てるだけでまったくの別物ですので大丈夫です。
生身で外に出ても(過剰に魔力を吸収して魔力結晶が体内を突き破って死ぬことはありますが)被爆はしません。