011 深淵の大地
『ルッタ。深海層は竜雲海を通して垂らしたアンカーアンテナで通信は可能だがそれでも精々が2キロメートルだ。移動すればすぐに連絡は取れなくなるからな』
「了解、ラニー副長。今の所問題はなし。シールド処理も正常に機能してるからコックピット内の魔力濃度も安定してる」
そう答えたルッタの乗るブルーバレットにフレーヌ、ノーバックの三機は現在竜雲海を潜り、深海層へと向かっている。彼らが今いるのは竜雲海の中層で、魔力の霧が濃く、視界はほとんど遮られている空間だ。
『リリもオッケー』
「うん、オリジンダイバーはそうだろうね」
リリの返しにルッタはそう口にする。
オリジンダイバーのコックピットの気密性は高く、ブルーバレットやノーバックのようなシールド処理をせずとも完璧に乗り手を護るシステムを有している。
(オリジンダイバーって聞いた限りだと宇宙空間でも問題なく活動できそうなんだよなぁ)
ルッタがフレーヌを眺めながらそんなことを考える。フレーヌのコックピットの気密性は高く、酸素の供給も常時行われている。
またフライフェザーやルミナスフェザーはリフレクトフィールドという魔力に反発するフィールドを形成して魔力を弾いて飛ぶのだが、これは自前で発生させた魔力に対しても可能だ。つまりは自身で発生させた魔力を踏み台に飛行もできるわけで、だからルッタはオリジンダイバーなら宇宙空間での自力飛行ができるだろうと考えていた。
宇宙まで行く手段があればの話ではあるが。
『ナッシュ。そちらはどうだ?』
『問題はないですね副長。魔力濃度は正常値。このまま活動可能……あ、外の濃度に急激な変化が』
「霧が晴れる? おお、すごい」
魔力の霧が薄れ始め、水晶眼を通して見ている外界の光景がはっきりとしていく。
竜雲海は上層から中層までは緑の霧によって視界が遮られているが、そこより下は霧も薄く、また竜雲海が淡い緑の光を放っていることと太陽光もある程度は届いているために、ルッタの目に入ったのは薄暗い緑の世界であった。
「深海層到達したよ。周囲は岩場になってるけど、ところどころに生えてる木がでかい。あと目的地の方には森があるけど……アーマーダイバーの倍はある木とかなんかすごいね」
それは寸尺が間違ってるんじゃないかというような光景だ。アーマーダイバーに乗っているのにまるで生身で見ているような錯覚をルッタは覚えてしまう。
『ルッタくん、アレが巨大化した原因が魔力濃度にあるって説、知ってるかい?』
「へ、魔力を多く含むと生物って大きくなるの?」
首を傾げるルッタにナッシュが『そうなんだ』と返して頷く。
『魔獣とか植物に限定されるんだけどね。大型化はこの魔力濃度に対応するためで、耐えられなかった個体は死に、耐えられた個体が増えていって淘汰された結果、深海層は深獣を中心とした巨大生態系を確立したって話らしいんだよ』
(巨大化かぁ)
ルッタも事前にこの移動ルートの植物や深獣が巨大であることは説明を受けてはいる。それでも実際に見れば驚きが表に出てきてしまう。
(木でこれか。それにこの深海層では確かゴブリンとかオーガとかファンタジー定番の魔物もいるんだったよね)
竜雲海上ではドラゴンを除けばほとんどが前世のフィクションのファンタジーには登場しないタイプの魔獣だったが、この深海層、アーマン大陸本来の地上では違うようだった。ただし……
『ルッタ、反応ある。敵だよ』
「うん。こっちでも捉えた」
ブルーバレットは広範囲型レーダー搭載の頭部の索敵モードによってフレーヌに近い範囲の探索が可能となっている。これはフレーヌが『オリジンダイバーの中でも近接戦闘用である』が故に並び立てている能力なわけだが、ともあれルッタにとっては満足いく性能であった。そしてその広範囲型レーダーに映る赤い光点は計四十を越えていた。
『こっちでも反応出た。数が多いな。こいつは』
「うわぁ!?」
ルッタの目にも緑の人型をした怪物が迫ってきているのが確認できた。まるで子供のような体格の怒れる老人の如き兇相はルッタの知る魔獣の特徴に一致している。けれどもルッタにはその姿以上に驚くべきことがあった。
「うわー、あのでかいのがゴブリンかぁ」
迫ってきたのは全長3メートルを超える、まるでオーガのように巨大な『深獣』ゴブリンの群れであった。
宇宙に行く予定はないです。