009 手に入れた機体の行方
空賊との戦闘終了後、彼らの母艦が遠方に見えたもののタイフーン号に近づくことなく逃走し、またジェットに落とされた機体は墜落して回収不能となっていたが動かなくなったハイドラッグボートとそれに繋がったアーマーダイバー四機を手に入れることには成功していた。
なお回収した時にはアーマーダイバーに乗っていた空賊たちは既に死亡していた。ハイドラッグボートに引っ張られる形でガシャガシャとシェイクされた状態の上に、彼らはダイバースーツも着ていなかったのだ。そのため、コックピット内で盛大に跳ね回った結果、体を激しく打ち付けて全身打撲で死亡していたのである。
「いいね。あんたもああなるところだったんだ。それを忘れちゃいけないよ」
そうルッタに言ったのは船医のマーヤだ。ルッタが以前に行った本気の操作による小刻みな制動は空賊の乗り手たちが受けたものに近いダメージをルッタの体に与えていた。それを看病したマーヤはもちろん、ルッタも身に染みて理解している。
「うん、分かってる。できる限り無理はしないよ」
けれどもやらないとルッタは言わない。その返答の意味を察してマーヤは苦笑した。
ルッタがそうする時というのはやらなければ死ぬ時だとマーヤも理解はしている。だから彼女もそれ以上は言わないが、それでも子供に無理をして欲しくないと思うのは大人として当然のことだった。
ともあれダイバースーツは手に入れたし、肉体改造も進めて問題の解消に向けて努力し続けているルッタだが、あるいは自分の末路であったかもしれない亡骸を見て改めて気をつけようとは思ったし、自分を心配してくれている人の思いを無下にしたいわけでもない。であれば、彼のできることはひとつだ。
(もっと、もっと強くならないとね)
心配させることがないくらいに、より強くなろうとルッタは心に誓うのであった。
それからルッタの視線はタイフーン号に繋げられて引っ張られている、四機のアーマーダイバーを乗せたハイドラッグボートに向けられた。
(で、この空賊から鹵獲したもんだけど……機体自体が新しいし、やっぱりこれって盗品なんだろうな)
空賊が使っていたからか、コックピットまわりは乗り手の残骸のことを除いても散らかっているようだったが、機体自体は新しく、納品前であることを示すようなメモなども見つかっていた。
「コーシローさん、これって盗んだものっぽいけど、風の機師団の所有物になるんだよね」
横で一緒に見ていたコーシローにそう問うと、コーシローが頷いて口を開いた。
「ああ。基本空賊が所有していたものってのは討伐者に権利がある。天領外に法はない。すべては自己責任。自分を守れないなら外に出るべきじゃあないってね」
それぞれの天領は各々の領主によって治められている独立した地であり、天領ごとには法があり、だからこそ誰の所有物でもない竜雲海上にはそうしたものはない。
あえて言うなら八天条約とハンターギルド法があるが、八天条約は天領と天領の条約で、個人に対して適用される部分は少ない。一方でハンターギルド法はハンターのみに適用される上、周囲に誰もいない竜雲海上では恣意的に使われることも多く、実質的な拘束力は弱いのが問題だった。
もっとも例外はある。それが機導核や船導核といったシロモノに対してのルールだ。
「とはいえ、機導核とかはシリアルナンバーが振られてるからハンターギルドにナンバー登録と空賊討伐認定をする必要があるし、領軍のものだったりすると安い金額の報酬で没収になるんだよなぁ。ま、そこら辺守らないと空賊扱いされてこれだし」
コーシローが手刀で自分の首を切る仕草をする。後ろ盾や功績があれば減刑もなくはないが、空賊として捕まれば処刑されるのが一般的だ。
「ま、闇市に売るって手段もあるが、そっちの関わりは持ちたくない。売り先を考えれば回り回って自分たちに刺さってくるわけだしな。今回みたいにさ」
闇市で流れた商品の行き着く先は空賊など、表には出てこれない連中のところだ。実際討伐した空賊の元から所有していた機体の半分は闇市から仕入れたものだった。なお、残り半分は盗んだものである。
「じゃあ次の天領で登録すればいいんだ」
「ああ。とはいえ、これ以上機体は増やせないし、売っ払う予定だけどな」
鹵獲した機体とハイドラッグボートは次の天領についたらハンターギルドに言い値で売却予定であった。
各種申請を承認してもらってから独自に時間をかけて売りに回れば売却額も増えるだろうが、ハンターギルドに一括で売却なら面倒な手続きもなく、時間もかからないためにひとつどころに留まれない風の機師団にとってはその方が都合は良いのだ。
(しっかし、ちょっと前まではアーマーダイバー一機の入手も夢のような話だったんだけどなぁ)
機体さえ手に入ればガラクタでも乗りこなしてのし上がって見せる……なんてことを妄想していた少し前の自分を思い出しながら、ルッタは鹵獲した機体を飽きるまで眺め続けるのであった。