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008 クズの全壊

「は? アーマーダイバーが潰された?」


 ナッシュは目を丸くしながらその光景を目撃していた。

 目の前で起きた出来事を簡潔に説明すればハイドラッグボートが突然跳ね上がって、ワイヤーアンカーで繋がっていた空賊のアーマーダイバーが一緒に投げ出され、そして竜雲海内から飛び出したツェットが敵機の一体を二機のビットスケイルで挟んで潰したという感じだった。ペシャッと。それはさながらワッフルメーカーで潰したかのようだった。


「ツェットに装備されているビットスケイルは有線とはいえ本体から支えがあるわけじゃない。だとすれば、敵の攻撃を受けた際の衝撃をどうやって殺しているのか……っていう問題の答えがこれってわけだよナッシュさん」

「……瞬間加速」


 ガレージの窓からナッシュと一緒に観戦しているルッタが「正解」と口にする。


「ビットスケイルは正面に展開したマナシールドに接触があるとノータイムで急加速ができるんだよね」


 リアクティブアーマーという、攻撃を食らった瞬間に受けた方へと装甲を爆発させてダメージを殺す防御用兵装があるが、ビットスケイルのやっていることはそれに近い。


「そんで、それはこちらから押し付けても同じ動作をしてくれるわけで、だから前後で挟めば当然ああなるってわけ」


 ルッタが両手を前後にパンっと叩くように重ねながら言う。そんな話をしている間もツェットが空賊のアーマーダイバーを次々と破壊していく。


「ハイドラッグボートが跳ね上がったのも竜雲海内からビットスケイルをぶつけたせいか。あの威力はもはや巨大なハンマーだね。うわ、ワイヤーアンカーを切って船から逃れた機体も容赦なくボコボコにしてる。コワッ」


 ナッシュが口元を引き攣らせながら、そう口にする。

 ワイヤーアンカーをパージして逃れた機体がヨロヨロとしている間にもジェットはその巨大なハンマーに近い形でビットスケイルを操作し破壊していく。

 また、跳ね上げられてあらぬ方へと突き進むハイドラッグボートにはワイヤーアンカーが絡まって身動きの取れぬアーマーダイバーが四機、まるでブライダルカーに繋がれた空き缶のように引きづられている姿も見えた。


「到着!」

「シーリスとリリ、今ガレージに着いた。これから出るよ」


 そして観戦していたルッタたちの背後から騒がしい声が聞こえてきたので振り向いてみると、口の周りにケチャップが付いたリリとそのリリを抱えているシーリスがいた。


「遅かったねシーリス姉」

「おっとルッタかい。リリが摘み食いしに保管庫に入ってたらしくてね。戦闘で扉がロックされて遅れたんだよね」

「とても寒かったの」


 リリが涙目でゴシゴシと口元を拭う。

 保管庫とは飛獣の素材なども保管されている大型の冷蔵室だ。ただ冷やすだけではなく魔術的な処理により防腐効果などもあり、総じて保管庫と称されている。また今回の増設工事でスペースが拡張された船内施設でもあった。


「そうなんだ。けど、ちょっと遅かったね。今からだとハイドラッグボートの回収……の仕事はあるのかな?」


 言い淀むルッタの言葉を聞いてシーリスが眉をひそめながらガレージの外を見ると、空賊の機体がビットスケイルの体当たりを喰らって跳ね飛んでいる姿が見えた。残りは一機、もはやシーリスたちの出番はない。


「さすがジェットの旦那だねえ」

「はは、やっぱり風の機師団は凄いね」


 感心した顔のシーリスと乾いた笑いを浮かべるナッシュの横でルッタがツェットの動きを注意深く観察する。


(あのラガスのオリジンダイバー『ノワイエ』と比べればビットスケイルは有線で出力も低いし、スペック上は下位互換だ。でもジェットさんの操縦はやっぱり巧さが違うんだよなぁ)


 簡単に倒しているように見せてジェットは二機のビットスケイルと本体をフェイントを混ぜながら操作して相手の機体を崩し、ダメージを最大化させられる角度でヒットさせている。

 ツェットはビットスケイルに特化させて改造されているために魔導銃など他の兵装が装備できない。だからこそ使える武器をとことん極めるようにとジェットは自らの機体を習熟させていた。


(対ノワイエ戦のためのシミュレーションには打ってつけ。ただ今の俺でもなかなか倒しきれない)


 ルッタも模擬戦で何度か単騎でのジェットと戦ってみたが、いずれの時も接戦だった。それでも負けはなかったが、結果は辛勝か時間切れでドロー。一方ビットスケイル十二機フルでのタイフーン号防衛戦闘の模擬戦では未だ防御を抜けられていない。

 フレーヌであれば出力差でビットスケイルの防御も抜けられるだろうが、量産機に乗っているルッタではそうもいかない。

 機動力で相手の集中力を削ぎ、時間をかけて相手の隙を突ければタイフーン号と繋がった状態でも突破できるかもしれないが、それはもう命を賭けるほどの操作の必要が生じる。実際に試すわけにはいかなかった。


「最後の一体が……ビットスケイルに挟まれて潰された。エグいな」


 空賊死すべし。慈悲はない。

 食い詰めたハンターの成れの果て。彼らはハンターにとって共通の忌むべき敵であった。


「うーん、連中の雲海船は……ないみたいだね」

「まあ近くにいてもすでに逃げてるだろうし」


 こうして空賊との戦闘はしめやかに終了した。そして風の機師団の守護神『鉄壁のジェット』の実力は確かなものであるとナッシュの心に刻まれたのであった。

 ツェットは初登場時に戦艦二隻にオリジンダイバー含んだアーマーダイバー十機からタイフーン号を守り切っているチート機体です。しかし安定して防衛してるんで出番がないという。

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― 新着の感想 ―
[一言] 機体はもったいないけど、いま荷物増やして、もし遺跡でオリジンダイバーなんかの大物持ち帰ることになったら、結局捨てるはめになるだけか。 負けはないとはいえ、ソロで鹵獲するには戦法との相性が悪そ…
[一言] タイフーン号との有線接続が必要とはいえこれは圧倒的な技量ですよねえ 防御タイプだってのになんとも攻撃的な防御でしたわ
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