003 残念なお知らせ
「あー、それなぁ。実は刃の加工まではできたんだけど、ちょっとアテが外れちゃったんだよな。肝心の機構の組み立てがこのラダーシャの工房じゃあストックがなくて用意できないんだと」
コーシローが肩をすくめてそう返すとルッタが眉をひそめた。
「じゃあすぐには組み上がらないってこと?」
「そうだな。最近は飛獣の活性化で運送代が馬鹿にならないらしくて、仕入れるパーツも絞ってるって話なんだ。で、今回必要なのは需要がそこまであるわけじゃないから、ちょっと前に在庫がなくなったんだと。ラダーシャ大天領内を片っ端から探せば見つかるかもしれないけど、もうタイムアップだ。そんなわけで組み上げるのは別のところで頼むことになる」
「そっか。まあ急いでいるわけではないし、仕方ないか」
ルッタは少しばかりガッカリしたものの急かそうというつもりにはならなかった。通常の飛獣であれば、魔導剣でも十分に戦える。前回は単独で挑んだが、ドラゴン相手でも仲間と共闘すれば無理せずに倒せるだけの戦力はあるのだ。
「ま、さすがに目立ちすぎたし、タイフーン号の改修もできた。この天領も引き揚げだわな」
そう口にしたコーシローたちのいるタイフーン号内のガレージは以前よりも広くなっていた。
より正確に言えば、もう一機分のアーマーダイバーが収納できるように拡張されていた。
風の機師団はこのラダーシャ大天領で一度船を輪切りにしてからブロックを追加し、ガレージ内のハンガーをひとつ増やしていたのである。
「船ってこんなにサクッと改修できるんだね」
「金に物を言わせたってのもあるな。最近の飛獣素材の売却に銀鮫団の賠償金、高出力型の機導核の売却、それに諸々の報奨金を費やして速攻で組み上げたから。改装に必要なビッグジョーの素材もちょうど持っていたってのもあるし、運が良かったんだよ。まあ広くなった分、出力に不安があるってミッシェルはボヤいてたけどな」
ミッシェルとはタイフーン号のエンジニアで、船導核を管理している風の機師団のメンバーである。
「あのフォーコンタイプをメイサって人が使うから空けたんだったっけ?」
その言葉にコーシローが頷いた。
ルッタの口にしたヴァイザーの予備機であるソレはまだガレージの端に寝かされて置かれているが、今回追加されたハンガーはルッタの言う通りの目的で用意されたものであった。
「メイサにはそろそろブルーバレットに乗せるって話もあったんだけど……ああ、今さら交代なんてしないから安心しろよ」
顔に出たルッタにコーシローが笑ってそう返す。
「ならいいけど。今はヘヴラト聖天領に向かってるんだったっけ?」
「ああ、ジャヴァの付き添いでな。今頃は到着しているか、すでに折り返してるかもしれないけど」
ルッタも会ったことのない風の機師団のメンバーであるジャヴァとメイサは、リリの件をヘヴラト聖天領に密かに伝えるためにタイフーン号を降りて別行動をしていた。
「あと数ヶ月で合流もできるだろうし、ちょうど金も素材も揃ってる。で、この大きな天領ならゴーラも無茶なことはできないから、今改造してしまおうってことになったわけだ。とはいえ、流石に目立ちすぎたしそろそろ出ないと不味いんだけど……どうもこれから一仕事請け負うかもしれないんだよな」
そう言ってからコーシローは視線を別のところへと向けた。その先はガレージの壁があったが、向きからして艦長室の方角であった。
「もう出るって言ってたのに仕事すんの?」
「ああ、どうやらあのナッシュ・バックが依頼持ってきたみたいでさ。今後どう動くかはそれ次第になりそうなんだよ」
「へぇ、ナッシュさんが?」
ルッタが首を傾げながらそう返した。ラダーシャ大天領の序列一位からの依頼。
いったいそれはどういったものなのか……その内容をルッタが知るのは少しばかり後のこととなる。