002 黒竜の巨人
祝勝会の後、ラダーシャ大天領内でのルッタのふたつ名は鮫殺しで定着しつつあった。
ドラゴンを殺せば竜殺しなのだからそれをふたつ名にされることは少なく、対して鮫殺しはインパクトがある上に銀鮫団を嫌っていた者たちにとっては分かりやすいネーミングであったために広がる速度も早かった。
なお、ビッグジョーを単独討伐した功績ならまだしも鮫の名のついたクランを壊滅させてのふたつ名じゃあなーとルッタは不満に感じていたのだが、ふたつ名とは自分で広めるものではなく周囲に認められて呼ばれるもので、どうあれハンターとしてふたつ名持ちは名誉なことなのだとギアが熱心に説得してきた。
さすが分かってるな銀の流星さん、パネーっす銀の流星さんと後ろで古参メンバーが騒いでギアの額に青筋が立っていたが、その意味はルッタには分からなかった。
ともあれ、瞬く間に様々な状況が動き、銀鮫団の影響はラダーシャ大天領からほぼ消え、ルッタの名はとどろき過ぎてまたもや街の中を歩くのが難しくなったほどである。ヘイトは解消したのにとルッタは肩をガックリ落とした。
そんなこんなでさらに一週間が経った今日、頼んでいたもののひとつができあがったとのことでルッタはソレを本日ブルーバレットに取り付けられることとなったのである。
「おお、やっぱりカッコいいなぁ」
そう口にするルッタの目の前には新たな姿になったブルーバレットが立っていた。
現在のブルーバレットはルッタが最初に出会った頃のデフォルト装備とは違い、ドラグボーンフレームに換装した関節部が黒く、二本のホーンアンテナが伸びた異形の頭部となっているのだが、今回の換装ではさらに胸部装甲が新調されたのである。
それは以前にコーシローが話していた通りに竜頭を加工して造り上げたもので、竜殺金章が竜の額にガッチリとはめられて輝いていた。
「ドラゴンの頭部を剥製みたいにしてそのまま使ってるんだよね?」
「ああ、肉は抜いて加工して硬化ジェルを詰めてある。そこに騎竜用の兜をバラして調整して付けた感じだな」
ルッタと共に換装作業を行なっていたコーシローがそう説明する。
「実のところ兜自体はいらないぐらいに防御力はあるんだけどな。ただドラグボーンフレームと同様に頭部の表面も昇華処理されたことで塗料を弾くようになったから、機体とのバランスを考えてこんな感じで整えたそうだ」
黒竜化した部分は塗装ができないため、蒼い兜を被せたようであった。
「んー、ここまで黒が主張してくるならカラーリングも少しいじった方がいいかなぁ」
「そうだな。オリジナルとはちょっと変わるけど……いや今更か」
コーシローが少し考えてからそう口にする。
オリジナルとは恐らくはルッタの前世である風見一樹の愛機であろうが、アサルトセルはパーツを切り替えてのビルド前提のゲームであり、護るより避ける、速度重視のスピードアタッカーというコンセプトさえ護られていれば、そこまで一致させるこだわりはないようだった。
「それで実際につけてみて分かったけど、胸部の竜頭からヘッドパーツのホーンアンテナがドラゴンのツノっぽい感じで伸びてるように見えてるんだね」
「インパクトがあるだろ。このヘッドパーツ見て、形状を合わせてみたんだけど思った通りの仕上がりになって良かったよ」
そう言って笑うコーシローにルッタがグッと親指を立てて頷いた。
現在のブルーバレットは黒い頭部や関節部が装甲から剥き出しになった中身のようにも見え、その外観は青い装甲を纏った前傾姿勢の人型黒竜のようであった。
そしてコーシローは改めてブルーバレットを見ながら口を開いた。
「こいつがあれば直撃を喰らってもコクピットまでは届かないだろう。あいつもそう言うのがわかってればな」
コーシローが少しばかり苦い顔をしたのはブルーバレットの前任者であるケニーを思い出したからだ。彼は無理に装甲を減らして重量を軽くしようとした結果、胸部に直撃を喰らってコクピット内で死亡していた。
コーシローもその改造は本意ではなかったものの、乗り手の意向に従い加担していたことを今でも悔やんでいた。そんなコーシローの様子に気付かぬまま、ルッタが思い出したように口を開いた。
「うんうん、良い感じだね。ところでコーシローさん。チェーンソーはまだできあがってないの?」