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006 広がる話題

 昨日よりラダーシャ大天領の中をひとつの話題が駆け巡っていた。


 曰く、風の機師団がドラゴンを討伐した。

 曰く、倒したのは新人アーマーダイバー乗りである。

 曰く、その新人は単騎でドラゴンを仕留めた。

 曰く、新人はラダーシャ闘技場の序列一位に挑んだ。

 曰く、新人は十二歳で見た目は十歳以下。ドラゴンを倒したのはどう考えても嘘である。

 曰く、風の機師団が新人をクロスギアーズに出させるために仕込んで序列一位をはめた。


 等等。

 風の機師団はランクBクランだが、オリジンダイバーも所持しており、その戦力はランクAに届くと評されている。だからこそ風の機師団がドラゴンを倒したということはおかしいものではなく、それ自体は真実と受け入れられていた。

 けれども、新人であるルッタがひとりで……というのはさすがに信じ難いという者は多かった。ましてやラダーシャ大天領の剣闘士(グラディエーター)序列一位を釣るためにドラゴン単騎討伐などと嘘をついた……なんて噂も出てきたのだから面白くないと考える者が多いのも当然であった。なお、嘘はついていないが釣ったこと自体は事実であるのだからヘイトが向けられるのは自業自得とも言えた。


「でよぉ。マジでただのガキだったんだよ」

「お前、その場にいたのかよ。俺だったらそのガキ、ふん捕まえて問い正すね。ドラゴンと便所トカゲを間違えたんじゃないかってね」


 ともあれ、ここ近々ではもっともビッグな話題であり、その日の夜も酒場ではその話で持ちきりであった。娯楽が少ないから、そうした話題が広まるのも早い。特に彼らの序列一位(ヒーロー)(よこしま)な思惑ありきで絡んできたのだから憤る者も少なくはなかった。


「バッカ野郎。隣にはあの人形みたいなのがいたんだぞ。オリジなんとかいう。アイツだけでアーマーダイバー十機は相手できるんだろう?」


 ジョー・クアットはエールを飲みながらそう返す。


「オリジネーターな。オリジンダイバーに乗ってなきゃ普通のかわい子ちゃんだろ?」

「いや、アーマーダイバー用っぽい兵装の上に座ってた」

「こわっ、そりゃ近づけんわ」

「ギア団長だったか。それと副長と団員が何人かいたな」

「けど、アレだろ。オリジンダイバーでドラゴンを倒して、新人に箔付けるために手柄譲ったって話だろ?」

「普通に考えりゃあそうなんだけどなぁ。それに銀こ……いや」

「なんだよ?」

「なんでもねえ。さすがにここで口にはできねえな」


 そんなことを話していると、離れた場所からガシャンとガラスが割れる音がした。


「テメェ、銀鮫団が詐欺集団にビビったってのか?」

「ああん? 実際ビッグジョーは風の機師団が持ってきたんだろうが」


 騒音の発生源へと視線を向けると銀鮫団傘下らしい男と、別の団に所属している男が殴り合いの喧嘩を始めているのが見えた。


「アレだアレ。ミンファちゃんがお漏らししちゃった原因」

「うわ、マジかよ。大丈夫なんか?」

「さあな。知りたくねえ」


 彼らの話しているミンファとは風の機師団の団長と問答をしていた受付嬢のことだ。性格はともかく顔は良かったので彼女のファンは少なくなかった。

 今、生きているのか死んでいるのか。

 ラダーシャ大天領内での銀鮫団の立ち位置はほとんど犯罪組織一歩手前……というところをハンタークランの功績でギリギリ相殺しているようなところがあった。

 傘下のクランも多く、同格以上と揉めることは少ないが、裏で潰された人間は数知れず。その銀鮫団に泥を塗ったミンファの末路は想像に難くない。下水道でバラバラに流されているか、闇市の謎肉コロッケの具材になっているか、五体無事に娼館で並んでいるのが見れたら恩の字だろう……というのが大方の見方だった。実際の銀鮫団はそれどころではない惨状なのだが。


「まあ、そんなわけで今の風の機師団は爆弾そのものだ。下手に触ると火傷じゃ済まねえかもしれねえ」

「遠目から見てるだけってのが無難だな。で、明後日に臨時で試合が組まれたんだろ」

「そうさ。ウチの序列一位が直々に相手するってわけだ」

「嘘つき新人の化けの皮を剥がすってぇわけだな。ナッシュもやるねぇ」

「ギルドも腹に据えかねているのかも……な」


 ジョーは少しばかり言い淀みながらエールをあおる。

 実際には序列一位との対戦は風の機師団から提案されたものだが、噂ではハンターギルドがお灸を据えるために仕組んだ……ということになっていた。

 元々ハンターギルド長のノールはことを荒立てるつもりはなかった。ドラゴンの死体の状態からオリジンダイバーが関わっていないのは明らかだ。であればシーリスと共闘したと考えるのが自然。それをシーリスが辞退してルッタ個人の功績となったとしてもやむなしと考えていた。

 あとは何かしらの依頼を与えて、それをこなせれば良しとするつもりだった。それがこの大騒ぎである。裏では銀鮫団傘下のクランが事情も把握せずに風の機師団のネガティブ情報を撒き散らしているということもあって、ラダーシャ大天領内で風の機師団の話題は混沌と化していた。


(しかし、あの場にいたナッシュは怒っているような感じじゃあなかったな。むしろ)


 昨日のことを思い出しながらジョーは考える。彼はルッタの竜殺しの説明を聞いていたひとりだ。正直に言って信じ難いとは今でも思っているが、それでもその言葉には信じさせる何かがあった。彼の中の常識は否定するが、ハンターとしての直感はルッタを肯定していた。


(アレは好敵手を見つけたような……いや、まさかな。けど……話が事実だったとしたら)


 目の前で風の機師団を肴に酒を飲み続ける友人の話に付き合いながら、ジョーはひとつの決心をした。すなわち倍率が限りなく低いナッシュにではなく、大穴のルッタに賭けることを。

 そしてその決断が正解だったか否か、その結果が分かるにはまだ幾許かの時間を必要としていた。

実際に見た人間と噂に踊らされる人間の差。なお、あの時の話を聞いていたハンターの半分くらいはルッタに賭けた模様。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話半分かも知れないにしても 10歳にしか見えない新人に賭けた生粋のギャンブラー達の小気味よさ [気になる点] オッズどれぐらいだったんだろ? ルッツ君ウハウハでは?
[一言] 大穴に賭けた人はウッハウハですね。
[一言] ギンザメと思っていた。
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