005 5年前
「へぇ、ナッシュとやるんだ。あいつ序列一位になんてなってたんだね」
ドラゴンスレイヤーたる実力を持つか否かの判定のため、ルッタは三日後にラダーシャ大天領の闘技場序列一位のナッシュと対戦することとなった。
そしてタイフーン号に戻ったルッタがナッシュと知り合いであろうシーリスにそのことを話をしたところ、返ってきたのがそんな言葉であった。
「あれ、シーリス姉はナッシュさんが序列一位だって知らなかったの? ナッシュさん、シーリス姉のことを昔の仲間だって言ってたけど」
明らかに親しげにナッシュが話していたのでその辺りは普通に知っているものと思っていたルッタに対して、シーリスは少しだけ考え込んでから口を開いた。
「昔ねえ。もう五年も経ってるわけだし確かに昔といえば昔だね」
「五年前……」
時期的にそれはルッタの両親もまだ生きていた頃で、ルッタ自身も七歳の、前世の記憶もないただのお子様であった。
「ナッシュはあたしが風の機師団に入る前に所属していたクランの仲間だったヤツだよ。ま、クランが解散してからは会ってないし、剣闘士をやってるって噂は耳に挟んだことがあったけど、それぐらいだったからね。序列一位になるほど活躍してたってのは初耳さ」
「そうなんだ。けど、あっちは風の機師団にシーリス姉がいるって知ってたよ」
「それは風の機師団のネームバリューが大きいのが原因だね。この業界は広い様で狭いから、あたしが所属してるぐらいはすぐに分かるだろうさ」
少数精鋭、オリジンダイバーも保有しているランクBクラン所属のアーマーダイバー乗りで獣人の美人ともなれば話題に上がるのは当然の話。またルッタは知らないがアーマーダイバー乗りの中にはシーリスをアイドル扱いしている者すらいたりする。
「前のクランはね。ちょっと冒険してしくじって団長がおっ死んでさ。なんだかんだで解散しちゃったんだよね。あたしはそんな時に風の機師団に所属していたジャヴァに拾われたわけ。そんでナッシュとはそこでお別れ。喧嘩別れするほど気力もない時だったからあっさり別れたし、風の噂で剣闘士になったとは聞いていたけど、クラン解散後は一度も会ってないんだよね」
「そっか。じゃあナッシュさんがどういう戦い方するのかってのも分かんないかな。序列一位なんだから強いんだろうけど、剣闘士の戦いって見たことないし、どう戦うのか参考にしたかったんだよね」
そう尋ねられてシーリスは少し考え込んでから「そうだねえ」と口にした。
「あたしは五年前のあいつしか知らないけど、後方でろくに動きもせずに魔導銃で撃ってるだけの糞雑魚だったよ。正直、その頃だとあたしもあいつも今のジャッキーたちよりも弱かったしさ。まあ、だからあーなって当然だったんだろうね」
「シーリス姉?」
最後の言葉が聞き取れずに首を傾げたルッタにシーリスは「なんでもないよ」と笑ってルッタの髪をクシャクシャと撫でながらこう口にする。
「ナッシュはさ。正直言って五年前は剣闘士ってガラじゃあなかったよ。オドオドしてて、前にはあまり出たがらなくて、いっつも人の顔うかがってた。けど、あいつはあいつで血反吐吐く思いで頑張ってきたんだろうさ。もうあたしの知っているあいつじゃあない。だから今、序列一位にいるわけだ」
「うん。だろうね。それは分かる」
ルッタの言葉にシーリスが頷いた。どれだけの才能があろうと努力なしにトップには立てない。それをルッタはよく知っている。
「とはいえだよ。あたしも成長して、以前とは比べ物にならないぐらい強くなってる。で、そのあたしよりもルッタは強いんだよ」
そう返したシーリスがルッタの髪をわしゃわしゃ撫でる。
「だからあんたなら勝てるさルッタ。というかアンタがナッシュに負けたらあたしがナッシュよりは弱いってことになるじゃないさ。そんなのあたしは承知しないからね」
「えー」
「えーじゃない。それにあたしはルッタに全賭けするんだから、ナッシュなんてけっちょんけちょんにしちゃうんだよ」
「そっか。闘技場なんだから賭けとかもあるんだったね」
闘技場での試合は天領公認の賭けの対象だ。だからこそのメインエンターテイメント。だからこその人々の熱狂を受けているのであった。
そしてルッタもヘイトが溜まって外に出れず延期になっていた焼肉パーティ代を賭けることに決め、ナッシュとの戦いに備えるのであった。




