004 チャレンジャー
「確かに鱗を削って表皮を出してからそこに攻撃を仕掛けるってのはドラゴン戦ではセオリーだって聞くけどな」
「いやいや、それだって集団で集中攻撃して削っていくって……そういうもんだよな?」
「ああ。散弾銃で眼を潰すってのも当たればめっけもんてくらいでドラゴンは用心深くて顔にまともに当てるのも難しいし」
「最後のブレスを溜めた喉袋を切ったってのはどうなんだ? アレって柔らかいんだっけか?」
「それは間違いないな。けど、そうだけど。そうだけどさ」
言うは易し。けれどもドラゴン相手にソレを実行しようとすれば命がいくらあっても足りないのが現実だ。ドラゴン討伐に参加したことがある者も、ない者も、そのどちらもがルッタの説明に困惑していた。馬鹿げた話ではある。見た目十歳にも満たなさそうな少年がドラゴンを倒せたとは到底思えない気持ちに変わりはない。けれども、その口から発せられた言葉にはどこか現実に即した説得力があったのだ。
そんな周囲が困惑している中、ナッシュの視線はルッタからその横にいるリリへと向けられた。
「ちなみにそっちの子、オリジンダイバーの乗り手だろ。君ならどうする?」
「リリ? リリならフレーヌの最大出力で鱗ごと斬り裂くよ」
その問いにリリが即答するとハンターたちがオオーと驚きの声をあげる。こちらは懐疑的な意味ではなく、オリジンダイバーの性能に純粋に驚いているためであった。
オリジンダイバーは高出力型以上に並のアーマーダイバー乗りの手には届かぬもので、彼らにとっては絶対的な存在だ。そしてドラゴン討伐を困難にしているもっとも大きな要因は全身を覆う竜鱗による防御力なのだが、オリジンダイバーの戦闘能力がその防御を抜けるのであれば脅威度は他の飛獣と変わりがなくなる。それがオリジンダイバーという兵器の力であった。
そしてそんなリリの問いにナッシュが「まあ、そうだよね」と口にする。
「それは今回のドラゴンの仕留め方とは違っているようだし、かといってシーリスがやったというにも無理がある。そうなると消去法で考えてやっぱり君ってことになるのか」
「あれ。ナッシュさん、シーリス姉を知ってるんですか?」
突然出た仲間の名前に驚いた顔をするルッタに対してナッシュが頷いた。
「ああ、そうなんだよ。僕は彼女の昔の仲間でね」
「へぇ。昔っていつぐら」
ルッタがそう言いかけた時、受付からノールの声が響いて来た。
「ナッシュ、君も来たのかい?」
「ノールギルド長。ドラゴンを殺したやつがいるって言われたらそりゃ来るでしょ」
肩をすくめておどけた顔をしたナッシュがそう返すと、ノールが苦笑しながら頷いた。
「そうかい。なら、ちょうど良かった。ナッシュ、君さ。ドラゴンスレイヤーと戦いたいよね?」
「は?」
突然の問いかけにナッシュが首を傾げる。
「ええと、そいつはどういうことですギルド長?」
「そちらのルッタくんは今年のクロスギアーズの参加をご希望なんだそうだ。で、彼のドラゴンスレイヤー認定のための試験をこちらで執り行うことになってね」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
事情を察したナッシュが笑みを浮かべ、ルッタへと視線を向ける。そしてルッタも今の会話からクロスギアーズの参加条件を思い出し、そして目の前の男が剣闘士であることを察した。
「つまりナッシュさんが?」
ルッタの視線を受けて、ナッシュが先ほどとは違う好戦的な笑みを浮かべて頷いた。
「そうだよ。僕がラダーシャ大天領闘技場の序列一位ナッシュ・バックだ。君にその気があるのなら、僕と戦うかいルッタくん?」
ちなみに男女の仲ではなく、当時はボス猿(シーリス)と子分(ナッシュ)みたいな関係でした。