003 キューアンドエー:ドラゴンの殺し方
ギアとノーツのやり取りで何かがあったのだろう。受付前の騒めきが大きくなった。恐らくはその騒めきに自分の存在も関わってるんだろうと思いつつ、ルッタはハンターギルドの施設の壁際でリリと一緒に待機していた。ドラゴンスレイヤー認定がその場であるかもしれなかったので今回はお留守番ではなく、ギアたちと一緒にここまで来ていたのだ。
「リリ姉。なんかギア艦長のところ騒ぎになってない?」
「大丈夫。何かあってもルッタはリリが護るから」
フンスと息を荒げるリリはタレットドローンのアンの上に正座していた。
アンはオリジンダイバーの戦闘用ドローンであり、護衛としてはこれ以上ないくらいに優秀だ。何しろアーマーダイバーも破壊できる魔導銃が内部に仕込まれており、この場で撃てば十数人を一撃でミンチにしてしまうことも可能であった。
ともあれ、騒ぎにはなっていてもルッタが何かできることはない。そして騒ぎになっている受付をルッタが所在なさげに観察していると、そこに近づいてくる人物がいた。
「なあ、本当に君がドラゴンを倒したのかい?」
「おいナッシュ。止めとけ。ヤバいって」
近づいてきたのは褐色肌の筋肉質な男で、連れの人間に制止されるのを無視してルッタたちの前へとやってきた。
「ナッシュ、こいつら今銀鮫団と喧嘩中なんだぞ。絡むなよ」
「大丈夫だって。なあ君、名前は?」
「ルッタです。そちらは……ナッシュさん?」
ルッタの問いに付き添いを押し退けたナッシュが頷く。
「ああ、そうだ。ルッタくん、君がドラゴンを倒したと聞いてね。正直に言うと信じ難かったのでね。質問させてもらいたいんだよ」
「ルッタ?」
「大丈夫だよリリ姉。ナッシュさん、俺が答えられる限りでいいなら問題ないですよ」
信じ難いとは言ったものの、ナッシュから感じるのは純粋な好奇心のようで悪意を感じなかった。だからルッタも応じることにしたのである。
「倒したのは本当ですよ。まあ、運が良かったってのもあるんでしょうけど」
「運が良いというのは?」
「ドラゴンは天空島内にいたんですよ。だから戦闘は地上戦だったわけです」
その言葉に聞き耳を立てていた周囲のハンターたちが首を傾げる。
またナッシュにしても彼らと同じようにルッタが何を言いたいのかを理解できなかった。
「それは運がいいっていうのかな? 確かに飛べなくはなるけど、アーマーダイバーの方も機能が制限されてしまうよね?」
天空島の上では魔力濃度が薄くなるためにフライフェザーの出力も下がり、武装の再装填もおぼつかない。その指摘にルッタは「まあ、そうなんですけど」と言葉を返す。
「あいつって空を飛ぶ方が厄介なんでしょ。俺の機体はイロンデルタイプだけど、それでも速度では追いつけないわけだから竜雲海上で逃げられてたら今回みたいに倒しきることはできなかったかもしれないんですよね」
「あー、確かにそう言われればそうかな。だったら戦うなら天空島の方が良いの……か?」
ナッシュが眉をひそめる。ルッタの言っていることは勝つのが前提で、逃げるドラゴンに追いつけないことを心配しているというものだった。それがどこまで本気の言葉なのか、どこまで冗談の類なのかナッシュには分からない。
もちろんルッタにしてみれば100パーセント本気の話だが、それを理解しているのは横にいるリリくらいなものだろう。風の機師団のメンバーだって大半が首を傾げるに違いない。
「と、ともかく君は地上戦でドラゴンを倒したってんだろう。どうやって仕留めたのさ。ドラゴンの鱗は魔鋼弾も跳ね返すって話だろ」
「確かに鱗の硬さは厄介でしたよ。だから尻尾の鱗を少しずつ削って削って表皮を露出させたんです。で、いい頃合いになってから尾の一撃を魔導剣のカウンターでちょん切りました」
「そりゃあ豪快な……」
「そっから先はあいつもカッカし出してブレスを吐こうとしたんで、魔導散弾銃で頭部を撃って片目を潰して、ブレスを溜めた喉袋を狙って首をぶった斬って倒しましたね」
スラスラと出るルッタの説明にナッシュも、一緒に聞いていたハンターたちもなんともいえない顔をして唸った。