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001 天丼

今章から隔日更新になります。

「これ、天丼ネタなのでは?」

「なんの話? 美味しい話?」

「なんでもないよリリ姉。美味しくもないよ」


 そんなやり取りをリリとしているルッタが今いるのはラダーシャ大天領のハンターギルドの施設だ。

 銀鮫団とゴーラ武天領軍を倒した風の機師団は昨日にラダーシャ大天領に辿り着き、そしてその翌日である今日、ハンターギルドへとやってきていた。

 なおタイフーン号の保管庫にはドラゴン肉七割、ロブスタリア肉二割、ビッグジョー肉一割があったが、その半分はラダーシャ大天領に到着してすぐにハンターギルドに卸している。


(それでようやく保管庫が空いたわけだけど、保たなかったビッグジョーの肉は竜雲海に捨てるしかなかったし、あれは勿体なかったなぁ。竜田揚げ美味しかったのに)


 淡白で上品な味わいのビッグジョーの肉はルッタも惹かれるものがあったのだが、ドラゴンとロブスタリアには及ばなかった。どれを捨てるのかといえばビッグジョーを選ぶのは必然だったのである。

 そんな風にルッタが現実逃避している目の前ではギアとラニー、そしてラダーシャ大天領のハンターギルドの受付嬢が声を荒げてやり取りをしていた。


「冗談はやめてください。十二歳というのも嘘ですよね。あの子、どう見ても十歳くらいでしょう」

「事実としてうちの機体に乗ってここまで来ただろうに。運搬して荷を下ろした機体からあいつが出てきたのは見てたよな?」

「確かにそうですが、乗れるからってドラゴンを倒せるかとは別でしょう」

「はっは、そりゃそうだ」


 ラニーが笑う。

 その横でギアが仏頂面のまま口を開く。


「調査結果は渡したぞ。ドラゴンに付いた魔力痕もブルーバレットと一致しているはずだが」

「それはそうですが、ですが」

「その裏付けのためにそちらにも一度竜素材を預けている。手続きにおいて不備はないはずだ」

「確かに報告書ではそうです。けれども風の機師団は今回のビッグジョー討伐においても銀鮫団を妨害し、獲物を奪ったという話も」

「なぁ嬢ちゃん」


 ドンッとテーブルを叩いたラニーに受付嬢がびくりとなる。


「それこそビッグジョーからはウチの機体の魔力痕しか出ていなかったはずだが。それとも出ていたのか? だとしたらこちらも色々と考えなきゃいけなくなるな」

「で、出てません。はい」


 魔力痕は各機体と一致しており、討伐証明の貴重な証拠だ。数時間単位であれば識別もできるため、持ち込んだ後に付けられたのならばすぐに分かる。ヴァイザーが死体撃ちをしようとしたのもそのためであった。


「それとも銀鮫団から訴えられたのか? 雲海船五隻、アーマーダイバー三十機もいるのにも拘らず、たかだか一隻、機体が四機しかいない連中と戦いもせずにビビって自分たちの獲物を掠め取られた間抜けですって泣き言でも愚痴られたのか?」

「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!?」

「そうかい。周りもそう思ってくれればいいんだけどな」


 ラニーが笑って周囲を見渡すと、その場にいたハンターたちがヒソヒソと話しているのが見えた。


「は……ヒィ!?」


 受付嬢の顔が先ほど追求していた時とは違う、怯えて青ざめたものになっていく。

 実際に銀鮫団から正式な抗議がハンターギルドにされた……という事実は存在しない。けれども風の機師団が銀鮫団に売ったクラックジョーはこのラダーシャ天領にも流されており、それには銀鮫団の機体がつけた魔力痕が残っていてビッグジョーについても彼らは風の機師団の強奪を仄めかしていた。

 それは風の機師団への嫌がらせと、銀鮫団が風の機師団を討っていた場合の正当性の主張のためのアリバイ作りでもあった。そして目の前の受付嬢は銀鮫団の協力者であり、銀鮫団の意向を支持するギルド職員でもあったのだ。

 そんな彼女が竜殺しの疑惑を皮切りに風の機師団への追及をしていたわけだが、今の発言は明らかに踏み込み過ぎていた。銀鮫団がビビって風の機師団との対立を避けたとハンターたちに印象付けてしまったとギアは指摘したのだ。この事実は受付嬢を恐怖に陥れるには十分過ぎる効果があった。そんなやりとりの中、受付嬢の背後にとある人物が近づいて来た。


「ギア団長、あまりウチのを虐めないでやってくれないか」

「遅かったなノールギルド長。若者の人生が終わってしまうのは悲しいが、ウチも殴られたら殴り返さないといけない立場なのでね」


 そのギアの言葉に受付嬢が口をパクパクとさせている。


「君らがそういう連中なのは理解しているさ。ミンファくん」

「ひ、はい」

「今日はもういいからあがりなさい」

「あのギルド長、わた、私は」

「ご苦労様」


 有無を言わせぬノールの言葉にミンファは言葉もなく項垂れてその場を去っていった。


「まったくウチの職員を弄るのは勘弁してくれないか。もう終わってる話だろう」

「ハッ、終わってるってのを差し止めてる側が何を言う」

「だから僕が出張ってきたんだけどね」


 そう言ってノールが受付席に座る。

 銀鮫団が風の機師団に獲物を奪われたという話は即座にハンターたちの間に流れるだろう。銀鮫団はザナド天領とも近いラダーシャ大天領でもそれなりに名の通っているクランだった。また銀鮫団には傘下のクランも多く、ザナド天領だけではなく、このラダーシャ大天領の港町でもそれなりの影響力があったのだ。もっとも、今現在は『あった』と過去形になる話だ。

 何しろ風の機師団は銀鮫団団長アールとエースのヴァイザー、それにザナド天領の元ハンターギルド長モハナの三人をすでにハンターギルドへと引き渡している。それも風の機師団の言い分を全面的に認めた形でである。これは風の機師団が長年ハンターギルドの信用を得ていること、ヘヴラト聖天領の後ろ盾があること、またそもそも銀鮫団とモハナの違法行為については現在ハンターギルド内でも内偵が進められていたという裏の事情もあった。

 けれども現状では銀鮫団の悪行とハンターギルドの関与、さらにはザナド天領軍の黙認……という広まればさまざまな悪影響を及ぼす案件については公表されていない。

 そして、先ほどのミンファという受付嬢はまだ知らされていない側の職員であり、彼女が踏んだのはすでに起爆解除済みの地雷であった。

 ともあれギアもラニーも彼女に同情することはない。彼女とて銀鮫団のおこぼれを貰っていたひとりであり、彼女の関与によって泣いた人間も多くいるのだろうから。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう鮫狩りは終わってるのに影響は残ってるもんですねえ
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