028 ゴーラの対処と銀鮫団の末路
「コーシローさん、ゴーラ放置して良かったんですか?」
「良かないけど、そうするしかないってとこかなぁ」
それが戦闘終了後にタイフーン号のガレージへと戻ってきたルッタの問いと出迎えたコーシローの返答であった。
すでに戦闘を行った海域からは離れ、周囲にはゴーラ武天領軍や銀鮫団の雲海船もない。
あの後、風の機師団はアールとヴァイザーを捕らえて相手から取れるものだけ取ると、さっさとその場を立ち去っていたのである。もっともゴーラ武天領軍に関してはリリが行動不能にした後は手を出していない。それは一方的に襲撃を喰らった身としては納得し難いものがあるが、天領軍のものを強奪することは八天条約によって許されていない。
「ぶっちゃけ八天条約からすれば天領軍と戦ってる時点でウチらが悪いってなるからなぁ」
「戦ってますよね?」
「戦ってるね」
「俺ら捕まらないんですか?」
眉をひそめるルッタにコーシローが「捕まらないよ」と返す。
「ゴーラ武天領軍にも後ろ暗いところがあるからね。ほら、八天条約にはオリジネーターの保護が定められているだろ。で、ゴーラはリリを狙ってる。だから他の天領とも協力せずに単独でこちらを狙ってきている。まあ、今回は銀鮫団を使ってたけど、あのレベルならどうとでもなると思ってたんだろうね」
「なるほど。でも八天条約って八天領以外でも当然有効ですよね。ヘヴラト聖天領に行かなくても他の天領でどうにかならないんですか?」
「連中が単独で狙っている以上は決定的な証拠が出ないからね。従属天領のヴァーミア天領ですら自分たちだけで襲ってきていただろ。他領に協力を求めず、あくまで自分のところの戦力だけで狙ってる。よほどリリのことを他に漏らされずに手に入れたいみたいだ」
「だったら、それをバラしたら……って、それはそれでリリ姉を狙う連中が増えるのか」
そのルッタの予測をコーシローが頷いて肯定する。ゴーラ武天領がここまで執着しているオリジネーターだ。それを知った他の天領やハンタークランがリリ争奪戦に参加して来る可能性は否定できない。結果として風の機師団とゴーラ武天領軍は水面下で戦い続けることとなっている状況であった。
「とはいえ、実際他の天領で保護を求めるのも悪い判断ではないと僕は思うけどね。ただオリジネーター保護に積極的なヘヴラト聖天領以外でゴーラに屈せず保護してくれる天領は……他の八天領も、大天領でも大丈夫だと思えるほど信用できないんだ。だから今のところ僕たちがヘヴラト聖天領以外に助けを求めるっていう博打は打てないって状況だね」
「はぁー、面倒くさい」
「まったくその通りだね」
「雲海船の一隻でももらいたいくらいですよ。それも条約に参加している天領にとって建前上はゴーラ武天領軍も友軍扱いになるわけだから、八天条約的に見れば強奪犯となるってんでしょ」
「そうだね。襲ってきた相手のことでも気遣わなきゃならないってのはどうにもね」
コーシローが忌々しいという顔でそう口にした。やはり忸怩たる想いなのはルッタだけではないようだった。
「その分、銀鮫団からはもらうモンもらいましたけど、あっちは別に問題ないんですよね?」
「ああ、ハンターギルドの法では賠償金を取ることは禁止されてないからね。団長とエースは捕まえているし、他の連中はザナド天領に戻るかも知れないけど、その後にハンターギルドから突き上げを喰らうはずだ」
「それはギルドから追放とかになるとか?」
ルッタの問いにコーシローが「どうだろうなぁ」と口にする。
「追放なんてすれば空賊になりかねないし、飼い殺しにして飛獣とやり合わせるってところじゃないかな」
「ま、罪状を調べ上げて個別には処分されるだろうし、銀鮫団自体は解散になるんじゃないかしらね」
レッドアラームから出てきたシーリスがそう言って話に加わってきた。
「シーリスもご苦労様。確かに銀鮫団の解散は確定だろ。そうなる前に逃げる連中もいるだろうけどな」
「後ろ暗いことも結構してたみたいだしねぇ」
「はぁ、そうなんですか。けど、まあ……」
ルッタがガレージの奥に視線を向ける。そこには損傷のないフォーコンタイプや幾つかの物品が置かれていた。
「まあ、こっちは慰謝料として色々ともらったし悪くない成果だったんじゃないですかね」
そのルッタの言葉の通り、ゴーラ武天領軍とは違って銀鮫団からはきっちり賠償金や物品を回収していたのである。
具体的にいえば船内に溜め込んでいた金銀財宝や、無傷で残っていたフォーコンタイプのアーマーダイバー、またヴァイザーの乗っていた高出力型の機導核等を回収してその場を離れていたのであった。
ゴーラからはいずれまとめて返済してもらう予定ですね。