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027 キャノンボールシャワー

『畜生。ヴァイザー隊長が邪魔で撃てねえ』

『馬鹿、止まるな。赤いのに狙い撃たれ、ギャッ!?』

『どうすんだよ、これ』


 銀鮫団のアーマーダイバー乗りたちが喧喧囂囂の騒ぎだが、そうしている間にもルッタ機とヴァイザー機の激突は続いている。もっともその立ち回りすらもルッタに支配されており、シーリスの乗るレッドアラームに向かおうとする機体をルッタは優先的に狙って仕留めていた。


『畜生。やってやらぁ』


 その様子に憤った銀鮫団のひとりが魔導銃をブルーバレットに向けて撃つが、一瞬で立ち位置が切り替わってヴァイザー機を掠める結果となった。


『つぅ。テメェ、当たってんだろうが』

『すんませ……ギャウッ』


 そうしている間にもシーリスの攻撃は続き、残りは八機。その様子に雲海船にいるアールの顔にも焦りが浮かぶ。


『ヴァイザー、集中砲撃する。離れろ』

『離れられねえんだヨォ』


 ヴァイザーが叫ぶ。銀鮫団の雲海船の砲台がルッタに照準を合わせようとするが、やはりヴァイザーの機体に当たりそうで撃てない。


『高出力型だぞ。パワーが違うんだぞ。なんで振り解けない? なんで良い様にやられる? なんでこいつの狙い通りに動かされるんだ!?』

「そりゃあさ。出力が違っていたとしてもさ。出がかりを潰してんだから速度は出ないって」


 ヴァイザー機の出力はブルーバレットの1.5倍あるのは事実だが四肢の規格が違い、動作もわずかに遅れている。

 それは普通であれば気にも止めない程度の違いのはずだが、相手がルッタではわずかな差でも致命傷となる。そしてそんな事実すらも把握できていないヴァイザーではルッタと乗り手としての技量が違い過ぎる。


『クソッタレェエエエ』


 ヴァイザーが足掻くも、右腕が、左腕がブルーバレットによって斬り飛ばされ、さらにルッタは魔導鎚を奪ってヴァイザー機の脚部を叩き潰した。その様子を見てアールが苦い顔をして口を開いた。


『もう駄目か。悪いなヴァイザー』

『おい団長、まさか』


 言葉の意味を理解したヴァイザーの顔が青くなる。


『俺を見捨てるのか団長ッ』

『今だ。撃てぇぇえええ!』


 アールの命令と共に銀鮫団の雲海船が一斉にブルーバレットとヴァイザー機に向かって砲撃を行う。緑の雲がブワッと広がり、周囲を覆って視界を遮るが砲撃は止まない。


『ヴァイザーよ。竜殺しと相討ちならテメェだって本望だろうさ』


 砲撃中の緑の霧の中を凝視しながらアールがそうこぼす。ヴァイザーとは長い付き合いで、父親と息子にも近い関係だが、勝てないのであれば切り捨てるのが銀鮫団団長のアール・ナガトという男であった。

 そして、それぞれの雲海船が魔導砲弾が尽きるほどに撃ち終わると、周囲が散った竜雲海の緑の霧に覆われて、目視確認できない状況となっていた。


『クソッ、見えんが……や、やったのか』

「あーそれフラグですよ」


 アールのこぼした言葉に返しながら、雲海船の真下から蒼い機体が飛び出した。


『な!?』


 それはドスンという音を立ててアールの乗る雲海船の甲板に着地した。

 その両腕にはボコボコになった状態で背を向けているヴァイザー機と魔導鎚もあった。


『ヴァイザーを盾にし、竜雲海の中を魔導鎚の推力も利用して避けてきたか』

「そうですね。高出力型は大きいですし、ガードボックスも量産型よりも頑丈。お陰でこっちの損傷はほとんどなしです」


 そう言いながらルッタはヴァイザー機と魔導鎚をその場で捨て、魔導散弾銃の銃口をアールのいるブリッジへと向けた。


『ぐぬぅ』


 通常であれば数度の銃撃なら耐え得る雲海船のブリッジだが、先ほどの拡散ドラグーン砲による損傷で防御力はほとんどなくなり、ルッタの一撃で中の人間は肉塊と化すだろうという状態だ。


(魔導鎚は駄目だな。重いし出力もイロンデルタイプじゃ厳しい。フォーコンタイプなら扱えるだろうけど、本領を発揮できるのは高出力型か)


 ルッタがそんなことを考えながらブリッジに視線を向けると、アールがブルーバレットを睨みつけていた。


『クソが。とんだバケモノが混じってやがったか』


 忌々しげという表情でそう口にするアールだが、けれどもその目はまだ死んでいない。


『へっ、だがなぁ。テメェはまだガキなんだろ。人を撃つ度胸があんのか? 生身の人間を撃つのは後味ワリィぞ?』


 両手を広げてアールが笑う。それは時間稼ぎだ。アーマーダイバー乗りなら対峙したアーマーダイバーを落とすこともあるだろうし、結果として乗り手が死ぬこともあるだろう。けれども死体は見えない。実際に肉を散らせるような行為は乗り手でも忌避する。ましてや子供ならば……と、甲板に釘づけの状態で不意を打てれば……とアールは考えたのだが、返ってきたのはこんな言葉だった。


「……テオ爺の、俺の育ての親はアーマーダイバーの修理屋でさ。それなりに高額なシロモンを扱ってたんだよね」

『あん?』


 唐突な語りにアールが眉をひそめた。


「強盗は日常茶飯事で、だから対処が必要だった。でさ、そういう連中から奪われないためにどうしたら良いのかを俺はテオ爺にしっかりと教わってるんだよ」


 子供の声がハッキリとこう口にする。


「盗人は人じゃない。ただの害獣だ。駆除して当然。情けはかけるなってね」


 ルッタの声色は変わらない。


「で、八歳から害獣駆除の処理を仕込まれた子供にそんな間抜けな質問をするのかい銀鮫団の団長さん?」


 そこにルッタの本気を感じたアールは顔を青ざめながら『戦闘停止。俺たちの負けだ』と通信で発し、風の機師団と銀鮫団の決着はついたのであった。




  **********




「あーあ、間に合わなかったな。あっちも終わっちゃった」


 アールによる敗北宣言が行われた頃、リリとゴーラ武天領軍の戦いもまた決着がつこうとしていた。


『ば、化け物め』


 通信機から声が聞こえる。

 雲海戦艦が二隻とも沈みかけ、フォーコンタイプの部隊は全滅、専用機も一機が沈み、残り一機もフレーヌが持つキャリバーの切っ先を向けられている。それは圧倒的だった。オリジンダイバーという戦場の死神による一方的な蹂躙劇。戦いにすらならなかったと専用機の乗り手は理解していた。


『コイツは今までのオリジンダイバーとち、違い過ぎる』

「オリジンダイバーは普通の人でも乗れることはあるけどね。オリジネーターが運用して初めて正しく機能するんだよ。それに」


 リリが目を細めてゴーラ武天領軍の専用機を見た。


「リリは強いよ。オリジネーターでもオリジンダイバーでもない。ただリリが強いんだよ」


 そしてキャリバーの一撃で決着がついた。

テオドール修理店に忍び込んだ盗賊で店から出てこれた者はひとりもいないともっぱらの噂。

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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろい!
[良い点] つまり、生身の白兵戦も強いのですね。 獲物を前に舌なめずりしないのは大事です、有名な少年兵が言っていました。
[一言] 鮫狩りお見事! 終始ルッタによってコントロールされた戦場でしたねえ
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