026 お前が盾な
「随分減ったんだね。動けるのは十九機か」
タイフーン号から発進したブルーバレットの中でルッタが近づいてくるアーマーダイバーを観察する。先ほどの拡散ドラグーン砲の威力は絶大であったようで銀鮫団の三分の一の戦力が減っていた。さらには無傷ではない機体も少なくなく、実際の戦力はさらに低下している。
(ハァ、難易度が下がったのは喜ぶべきことなんだろうけど)
それでも数的優位はまだ銀鮫団に傾いているのだが、ルッタの表情に焦りはない。むしろ獲物が減ったことでテンションはわずかに下がっている始末であった。
『ルッタ、あたしがサポートするから背中は気にしなくていいからね』
「はい、お願いします。じゃあ俺は突っ込みますんで」
スナイパー仕様となったシーリスの言葉にルッタは頷きながらフライフェザーの出力を上げて加速し、敵集団へと突撃していく。そのルッタに対して銀鮫団の面々が魔導銃で応戦するもまるで命中しない。
『クソッ、当たらねえ』
『ザルツが撃たれた。なんでこっちはやられる?』
左右だけではなく前後にも揺れるブルーバレットを敵はとらえられない。竜雲海の中に潜ったかと思えば即座に飛び出し、フェイントも仕掛けて弾丸の消費を誘発しながらさらに近づいていく。大胆さと慎重さを使い分け、相手の弾道をコントロールしていく。それは第三者からすれば魔法のように見えるだろうが、種を明かせば圧倒的な観察眼で相手の動きを読み、誘導しているに過ぎない。それはただの技術だ。アサルトセルの世界ランカーであれば誰もが可能なことだった。
「1、2……と。よし、ちゃんと沈んだな。シーリス姉もやるなぁ」
ルッタの攻撃によって二機が大破し、また拡散ドラグーン砲のダメージで動きの鈍っていた三機がシーリスの狙撃によって破壊される。その状況に慌てふためく銀鮫団を後目にルッタは再び竜雲海の中に飛び込んだ。
『潜った!?』
『馬鹿。下だけ見てんな。赤いやつが狙ってんだぞ』
『グッ、ギャア』
足元を警戒して正面に対しての防御が解けた機体をシーリスは容赦なく魔導長銃のスナイプで仕留めた。ルッタという囮がいるにせよ、現時点でのキルスコアはシーリスがルッタを上回っている。どちらも隙を見せて良い相手ではないのだ。
『赤いのも良い腕してやがる。クッ、蒼いのが浮上するぞ』
『狙い撃て』
『馬鹿。撃つな。俺の真下だ』
仲間への射撃に対する躊躇の一瞬を逃さず、ルッタは竜雲海の中から飛び出して魔導剣を振り上げてまた一機を破壊した。
『馬鹿共が。躊躇してんじゃねえ』
「その声、確かノーコンか」
『俺はヴァイザー・ノッシュだぁあ』
フライフェザーの出力を上げたヴァイザーの機体が飛び上がり、持っていた魔導鎚のブースターが炎を噴いて加速しながら直滑降に振り下ろされる。その攻撃を咄嗟に避けつつも、ルッタは攻撃してきた機体への警戒を強める。
「前回はフォーコンタイプだったよな。そのアンバランスな機体、まさか高出力型?」
『そういうこった。ビビれよクソガキ。量産機が高出力型に勝てるわきゃねえんだよ!』
そう返したヴァイザーの機体は量産機とは違うと一目で分かる複雑な形状をしていたが、それは胴体部だけであった。頭部と手足との寸尺も合っておらず、全体的にどこかアンバランスな印象をルッタは受けた。
(高出力型といってもベースは多分モワノータイプ。それで腕部はイロンデルで脚部はフォーコンか。頭もボディとは系統が別物。とんだゲテモノだな)
高出力型は量産機と違い、予備のパーツの生産が少ない。専用機となれば専用に受注する必要すらある。
とはいえ、ある程度は量産型と共通規格ではあるので、変換器を噛ませれば一応の接続は可能であった。
(アレやると出力が高すぎて接続したパーツの寿命は通常よりも短くなるハズ……ああ、だから前回は量産機のフォーコンタイプに乗ってたってわけか)
恐らくは大事な勝負でのみ使用する機体なのだろうとルッタは理解する。
「なーるほどねぇ。整備も馬鹿にならないだろうに、頑丈なモワノータイプ準拠の高出力型なら運用も可能ってことか。けど、それだけで俺とブルーバレットに勝てるとでも?」
『見下した言い方しやがって。とことん癇に障るガキだな。竜殺し? だから何だってんだよ』
ヴァイザーの怒号と共に魔導鎚が再び火を噴いて加速する。
魔導鎚は魔法刃こそ形成しないが、ブースターにより振り下ろす速度を強化して物理的に押し潰すための兵装だ。またそのブースターは高出力型であれば継続した噴射が可能であり、結果として量産機では出せない速度域をヴァイザーは実現させていた。
「確かに速い。けど、悪いね。ノーコンには負ける気がしないんだよ」
そう言いながらルッタがアームグリップを操作して魔導散弾銃を撃ち放つ。
『ハッ、ノーコンはテメェだぁ。当たってねえじゃねえか』
「いや、当たってるよ。一機撃破だ」
そのルッタの言葉の通りにヴァイザー機の『背後にいたアーマーダイバー』が沈んでいく。ルッタはヴァイザーに対してではなく、彼を盾にしながら銀鮫団の機体を狙って撃っていたのだ。
『テメェ!?』
「いやぁ盾がいると助かるな。誰も狙ってこないしさ」
叫ぶヴァイザーに対し、ルッタは落ち着いた口調でそう煽り返しながら、再び魔導散弾銃を撃ち、さらにもう一機を竜雲海に沈めたのであった。