021 地球由来?
「よし、追っ手は来てないみたいだね」
「あー肝冷えた。この天領にゃぁ二度と来たくねえ」
「けど、よくやったなルッタ」
タイフーン号はすでにザナド天領の姿が見えないほどに離れていた。そして追撃などもなく、島が見えなくなった段階でようやく安全が確認できたとしてルッタがタイフーン号へと帰還すると、整備班の面々が次々と声をかけてきた。
ザナド天領に入ってからというものずっと居心地の悪い状態が続いた上にあの騒動である。ようやく切り抜けたことでクルーたちの気持ちも開放されたようだった。
「いや、本当にさ。アーマーダイバーの集団にルッタが飛び込んだ時には僕悲鳴をあげちゃったよ。普通あんな数に掴まれたら終わりなんじゃないのかい?」
呆れたような顔をしたコーシローの問いにルッタが「あはは」と笑う。
「一応、一定の距離は取ってますし、牽制もしてます。それにあの場にいた人たち、微妙に乗り気じゃなかったんですよね。だからフェイントかけるとすぐに離れましたし、怪我したくないって感じがミエミエだったんで」
ルッタがそう返す。その言葉の通り、過剰と言えるほどに相手側の姿勢が逃げ腰だったからこそ、あそこまでスムーズにモハナのところにまでたどり着けたのだとルッタは理解していた。それを聞いたコーシローが納得した顔で頷いた。
「なるほどなぁ。まあ奴らの多くは銀鮫団に搾取されている側だっただろうからな。痛い目を見てまで連中のために動きたくはなかったってことなんだろうな」
「いやさ。例えそうであってもルッタの操縦技術なしにはああもあっさりとギルド長を捕まえることはできなかったでしょ」
「そうそう。実際ブルーバレットの動き凄かったものね。魔導剣二刀流とかよく使いこなせるよ」
整備班の言葉にルッタがフッと笑ってから、あからさまに含んだ笑顔で「そこはジャッキー流剣術の妙味ってヤツだよ」と返し、整備班や乗り手たちが爆笑した。
「くく、ジャッキー流剣術ねえ。上手く使ってくれたもんだよ、ホント」
コーシローが笑いを噛み殺しながらそう返した。
ジャッキー流剣術こと剣術アクションシステムに使用したテンキーもどきデバイスはコーシローが作ったものだ。そこにアーマーダイバーの行動学習機能を紐づけてコマンドボタンとしてルッタは成立させている。
(いや便利なんだけどさぁ。というかもうコーシローさん、地球人確定だよなぁ)
形も構造も地球のテンキーまんまである。コーシローはたまたま思いついたと言っていたが、大本を知っていればそれが嘘だとはすぐに分かる。
(と言って、だからってこっちは異世界転生です……とかカミングアウトすんのもなぁ)
前世について絶対に誰にも話してはいけない……というような考えはルッタにはないが、あえて自分の過去を口にする必要性も感じない。
(まあ、必要があったら話せばいいか。そんな機会があるかは分からないけど)
そんなことをルッタが考えていた横でレッドアラームの専属整備士のラウラが口を開いた。
「シーリス、アレさ。レッドアラームにも付けてみる? コーシローが作った追加ボタン、まだあるしさ」
「あたしの機体にそんなのいらないわよ。接近して戦うような事態でそんな面倒な操作してたらパニックになっちゃうしさ」
ラウラの提案に対してシーリスは乗り気ではないようだった。
複雑な操作を容易にこなすルッタや実際に剣術を教えて動作の紐付けを把握できているジャッキーならともかく、今までのアーマーダイバーの操作に慣れているシーリスにはジャッキー流剣術の導入は足踏みするものだった。
「まあシーリス姉は基本スナイパースタイルだものね。ちょっと前まで知らなかったけどさ」
ルッタがそんな話題を振ったが、現在のシーリスが乗るレッドアラームの装備はルッタが最初に見た時のものとは違い、魔導銃から狙撃用の魔導長銃に装備を代え、バックパックウェポンも長距離射撃用のアーマーバスターライフルと照準器に換装されていた。
「あたしは元々、こっちでやってたからね。新人に付き添って面倒見るために前衛型にしていただけだし」
シーリスがそう言って自分の機体を見た。
アーマーバスターライフルは対アーマーダイバー用や対甲殻系飛獣用の装備で、魔鋼弾三式という通常の魔鋼弾よりも魔力を圧縮した弾丸を利用した長距離狙撃用の兵装である。照準器はアーマーダイバー自体の照準システムに補正をしてくれるため、魔導長銃でも有効な補助器であった。
このように機体のスタイルを変更したことでシーリスの戦闘貢献度は格段に上がっていたのである。