020 ジャッキー流剣術
「な、何ぃ!? 十近いアーマーダイバーがまとめて斬られただとッ」
モハナが目を丸くしてその光景を見ていた。対してハンターギルド側のアーマーダイバー乗りたちはアレが自分たちに向けられたら……と、蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
『なんだ、今の?』
『見たことのない機体だ。まさかオリジンダイバー?』
『聞いてねえぞ。クソッ、だから俺は嫌だったんだ』
『言ってる場合か。おい待て、海中から何か出てきた』
『蒼いアーマーダイバーだと!?』
混乱に乗じてタイフーン号のガレージから竜雲海に潜って接近している機体に彼らは気づいていなかった。だから唐突に港の端の竜雲海の中から蒼い機体が飛び出してきたのに、ほとんどの人間が反応できていなかった。
『この野郎!?』
『おっと、やらせないよ』
『グアッ』
またブルーバレットの接近に気づいたアーマーダイバー乗りもいたが、その機体に対してはタイフーン号の甲板に上がったレッドアラームが魔導長銃で撃って仕留めた。
『ナイスシーリス姉』
『背中は任せてルッタ。あのギルド長を捕まえな』
そう返したシーリスの機体は今までとは違う兵装であった。バックパックに装備されていた二門のフレイムキャノンは長距離射撃用のアーマーバスターライフルと照準器に換装され、武装も狙撃用の魔導長銃と小型の魔導短銃、魔導短剣に代わっている。また外見こそ変わらぬものの、各稼働部位に狙撃用の固定ロックがかかるようになっている。そして、これこそが本来のシーリスの武装であった。
リリのフレーヌはサポートにタレットドローンを用いることで一機で一部隊としての運用をしており、シーリスは新人のアーマーダイバー乗りが来た際に、新人を横でサポートするために一時的に前衛向きの装備に変えていた。けれどもルッタが風の機師団に入ったことでその必要もなくなり、本来の自分のスタイルに戻したのである。
「クソッ、アレを近づけるな。私が捕まればお前たちとて不味いだろう」
『駄目です。なんて素早い』
『魔導剣の二刀流?』
『なんであんな器用に動かせるんだよ!?』
魔導剣をふたつ持ったブルーバレットがアーマーダイバーの間をすり抜けるように進み、モハナの元へと近づいていく。さらにそれを追おうとする機体はシーリスの攻撃で大破し、タイフーン号への銃撃はジェットの機体ツェットのビットスケイルで防がれ、またリリのフレーヌが彼らの接近を許さない。
『馬鹿どもが。たかだかヘヴラトのヒョロガリなんぞに』
モハナのそばに配置されていたフォーコンタイプの機体がブルーバレットへと突撃していく。
「やれウォルコット! ランクCの腕ならばあんなヤツ」
額に青筋を立ててモハナが叫ぶ。ここをしのげなければ自身にあとがないことを彼は理解していた。
けれども、モハナの願いは次の瞬間には霧散する。
『ジャッキー流剣術『八閃』』
「な!?」
フォーコンタイプの両腕がふた振りの魔導剣によって切り裂かれた。それは一瞬で八回切り刻む……というものではなく、八の字の如く左右の魔導剣を同時に振るって両腕を斬り飛ばす技……という体で一連の動作を記録したコマンドを発動したものだった。
そして棒立ちになったそれを蹴り倒してブルーバレットがギルド長の前に到達する。
「クッ、私はこんなところで捕まるわけにはいかんのだ!」
『逃すわけないんだよなぁ』
背を向けて逃げ出したモハナに対してブルーバレットはワイヤーアンカーを撃ち、先端のクローで掴んで捕まえる。その勢いでモハナが「ギュベッ」と声を上げて倒れた。
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「艦長、ルッタがモハナを捕まえました」
「良し。なんとかなったな」
タイフーン号のブリッジ内、ラニーの報告でわずかばかりの安堵の息を漏らしたギアが薄く笑った。
「ルッタは本当に良くやってくれるな」
「まったくです。なんにせよ、これで撤退の目処は立ちましたかね」
「ああ、天領軍にも動きはないようだしな」
ギアの視線が静観を決め込んでいるザナド天領軍に向けられる。敵対する意志はどうやらないようだった。その様子を見てギアがマイクに向かって口を開く。
「ハンターギルド法により、ギルドを私的利用した罪でモハナ・カザンは捕縛した。我々はこのまま去るがよろしいか?」
『ギア・エントランの言葉、承知した。そして、これ以上の戦闘行為はザナド天領軍が認めん。繰り返す。これ以上の戦闘行為をザナド天領軍が認めん』
そう返したのはザナド天領軍の司令官であった。その意味するところは黙って風の機師団を出させろ……という意味だ。そして、その言葉によってモハナを救出するために動くべきか判断に迷っていたアーマーダイバー乗りたちは動きを完全に止めた。
『ギア団長、我々も少々誤解があったようだ。ヘブラトの方々にはよろしく言っておいて欲しい』
「承知しました司令官殿。モハナ・カザンの捕縛協力ありがとうございます。ヘヴラト聖天領にもそのように報告しておきますよ」
ギアがそう返すとザナド天領軍は、港を破壊したモハナ・カザンの一派の捕縛に乗り出した。
その間にルッタたちのブルーバレットと共にタイフーン号は港を出ていき、そしてそれを止める者は誰もいなかった。
ギアは査察官である証拠も出さずにクールに去るぜ!