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011 ガンソード

 リリが去っていくのを見ながらルッタがホッコリとしていると別の人間の気配が近づいてくるのを感じた。振り返るとそこにいたのはジャッキーだった。


「あの娘、毎日来てるけど……アレがオリジンダイバーの乗り手か」

「ジャッキーさん。シーリス姉から逃げられたんですか?」

「そう見えるか」

「んー……いいえ」


 よく見ればジャッキーの頭にはタンコブができていた。制裁後であるのは明らかだった。


「オリジネーターっつったっけか。本当に人形みたいに綺麗な子なんだな」

「ロリコンっすか?」


 ルッタの視線に「そういうんじゃねえよ」とジャッキーが返す。


「オリジネーターってのは俺らアーマーダイバー乗りのアイドルみたいなもんだしな。興味を持つのは当然だろ。それに強いんだろ?」

「ええ、そうですね。オリジンダイバーも強力ですけど、リリ姉自身が反則的に強いですよ。多分生身でも瞬殺されます」


 リリの戦闘技術はフレーヌの操縦だけに限らない。タレットドローン抜きでも複数の兵士相手に圧勝できるほどの実力を持っている。


「だよな。そういうのに対抗心燃やされてるってことはお前もスゲーヤツってことだよな」

「俺の師匠が何言ってんですか」

「師匠ってお前は俺の動きのトレースしただけだろうが」

「でも生身での俺自身は師匠に全く歯が立ちませんし。あと、これから俺はアレをジャッキー流剣術で通しますんでよろしくお願いします」

「おい止めろ。俺の名前つけんな。ドラゴンスレイヤーの師匠とか荷が重すぎんぞ」

「ハッハッハ」


 ルッタが笑う。ジャッキーの剣術を基にした近接戦闘プログラムをルッタは本気でジャッキー流剣術と呼び続けるつもりであった。ジャッキーの名が大陸中に広まることが確定した瞬間であった。


「たくよぉ。ま、アレのおかげで俺も強くなったわけだが」

「確かにジャッキーさん強くなりましたけど、撃つ方もしっかり訓練したほうがいいですよ。ぶっちゃけ飛獣相手に近接メインなんて自殺志願者と変わんないですからね」

「そんなこと分かってるっての」


 自分のことを棚に上げたルッタの言葉にジャッキーが頭をかきながらそう返す。


「んでさ。お前ら、明日発つんだってな。訓練も今日で終いか」

「はい。準備も整いましたし。ラダーシャ大天領に行って手続きしないと」

「そうかい。ま、今となっちゃーお前の竜殺しを疑うつもりもないんだがよ」


 ルッタがドラゴンに勝利したということが決して嘘ではないことをジャッキーはこの一週間の訓練の間に理解できていた。ジャッキーにはドラゴンの強さなど分からぬが、ルッタの異常な操縦技術はその身に染みている。


「ラダーシャ大天領は闘技場が盛況で喧嘩っ早い連中も多くいるから気を付けろよ。アーマーダイバーに乗ってねえお前なんてただのガキなんだからな」

「了解っす。ブラギアでも護衛なしじゃあ駄目って言われてましたしね」


 アーマーダイバーに乗ればドラゴンをも殺せる子供だ。その価値は計り知れず、けれどもリリやシーリスのように生身では自分の身を守れる力はない。


「だろう。だからよ。お前にコイツをやる」

「これって……剣ですか? いやちょっと違う?」


 ルッタが手渡されたのは柄の部分が盛り上がった小振りの小剣であった。


「ああ、よく見ろ。柄の部分が魔弾銃になってる」

「本当だ。左右に二発ついてますね。ガンソードってヤツだ」

「魔弾銃の扱いはアーマーダイバーの魔導銃と同じだ。二発だからお前の魔力量でも問題なく使えるし、そんで腰に差しときゃ下手に絡まれることもないだろうよ」

「おお、スゲー」

「俺の予備だが小さい分アーマーダイバーのコクピット内にも持ち込める。お前の身長でも扱えるだろう。自衛用に持っとけ」

「いいんですか、こんなのもらっちゃって?」

「構わねえよ。お前がやってくれたことに比べれば微々たるもんだ」


 この一週間でジャッキーたちジャッキー団の実力はメキメキと上がっていた。それは彼らに潜在的な力があった……ということもあるが、一番の大きな理由は彼らがこれまでまともに指導を受けたことがなかったために正しくアーマーダイバーの操作ができるようになった……ということが大きい。

 またジャッキーはジャッキー流剣術を機体に組み込んでおり、近接戦においてはもはやランクDの域を超えている。

 また訓練に付き合うための報酬として彼らの機体がルッタによって整備されて十全に動くようになったこともジャッキーにとっては大きなプラスとなっていた。


「整備って大事なんだなって、気付かされたよ。専属の整備士を雇うことも考えなきゃな」

「はい。メンテについてはマジで気をつけて下さいね。アーマーダイバーは消耗品なんです。ジャッキーさんの機体、半年どころか後何度かで終わってたかもしれませんから」


 心配そうなルッタの言葉にジャッキーが苦笑いをする。

 魔導剣を多用するジャッキーの機体はフレームの歪みと可動部の摩耗が他の機体と比べても激しく、こちらはさすがに追加料金でパーツ交換を行わざるを得ない状況だった。


「こまめなメンテをしっかりと……だな。分かってるよ。そういうところもしっかりとしてだな。そんでいつかは俺らも雲海船を手に入れてお前らの後を追ってやるさ」

「はい。待ってますよジャッキー師匠」

「だから師匠は止めろって」


 そう言いあったふたりは笑って握手を交わし、翌日ジャッキー団に見送られた風の機師団はブラギア天領を出て、そのままラダーシャ大天領へと向かうことになったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジャッキー師匠、そのうち「呑めば呑むほど強くなる」伝説の師匠になるんですねw
[一言] 最初はただの練習台と思ってましたがいい出会いでしたねえ またどこかで再会したい人達ですわ
[良い点] その剣士はただのドラゴンスレイヤーの師匠ではない。 ドラゴン討伐を達成した人物が師事を請うた伝説の剣士である。 誰のことだろう。
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