004 ライアー?
ドラゴンたちを討伐し、天空島を沈めることに成功したタイフーン号がブラギア天領に戻ると港は喧騒に包まれることとなった。何しろ運んできたのがランクC飛獣のロブスタリアだけではなく、すでに解体されてはいるが紛れもなくランクA飛獣のドラゴンの亡骸もあったからだ。
そんな相手が近海にいたことに領民は慄き、またそれを討伐した風の機師団を彼らは讃えた。一方で詳細な報告を受けたハンターギルドのギルド長は想像以上の状況が進んでいたことには肝を冷やしたものの無事終息したことに安堵していた……が、報告の内容の一部に対しては難しい顔をしていた。
「ハァアアア……お前ら、とんでもねえもん持ってきやがったな」
ハンターギルドのギルド長室。
そこには港に着いてすぐに呼び出された風の機師団の団長であるギアと副長のラニーがソファーに座っており、彼らの前ではギルド長が苦い顔をしてふたりに視線を向けていた。
「今回のウチからの依頼内容は無人島に巣食う飛獣ロブスタリアの群れの討伐、及び可能であれば島を沈める……であったはずなんだがな。まあ、良くやってくれたと言うしかねえわな」
ギルド長の言う通り、風の機師団が当初受けた依頼はロブスタリアの討伐と可能であれば無人島を沈めることだ。それが島にいたのは実はドラゴンでした……なんてのはギルド長にしても寝耳に水な話だった。
こうした依頼内容と実態に大きな差異があった場合は一度ハンターギルドに持ち帰るのが一般的だ。情報の更新だけでも報酬は出るし、ハンターギルドも依頼内容を再検討することで報酬が上乗せされることも多い。
対してそのまま倒してしまうと報酬で揉める場合もあるのだが、相手がドラゴンだったのだから報酬をケチるつもりはギルド長にはなかった。
何しろこのままドラゴンが居座っていれば天導核を喰らって進化していた可能性は高く、放置していればブラギア天領が襲撃されて壊滅的な被害を受けていた可能性もあった。
ここで欲をかけば、次があったときに助けが来なくなる。それは天領にとっては致命的だ。
「報酬については期待して良い。領主様からも念を押されているしな」
「それはありがたいな。一応周囲を索敵したが単独のドラゴンで間違いないようだった。巣作りもしていなかったし、番いもおらず、天空島の天導核狙いだったみたいだな」
「そうか。まあドラゴン一体だけでもウチの天領じゃあ手に余る。話を聞いた時には本当に肝が冷えたぜ」
ドラゴンはランクAに該当する飛獣だ。ブラギア天領軍やハンターギルドがアーマーダイバーを揃えても倒せるかは難しいところだ。
「ブラギア天領を代表して感謝するぜギア団長」
そう言ってからギルド長が眉を顰めて、届けられた報告書に目を向ける。
「しかしな。報告を受けたからには提出するが、本当にこの内容で通ると思うか?」
ギルド長の視線の先にある報告書にはルッタ・レゾンの文字があった。
「オリジンダイバーなら分かるが、十二歳の子供の初陣だぞ。盛るにしてもやり過ぎだと思うんだが」
「そう考えるのも当然だがな。けれども、事実は事実。疑うというのなら実力を見せるだけだ」
ギアが落ち着いた口調でそう返す。
ハンターギルドに提出した今回の依頼の報告書には実際に起きたこと、つまりルッタによる単騎でのドラゴン討伐についても正確に書かれている。年齢なども含めて偽りなくだ。それは普通に考えて冗談としか思えない内容だ。疑われぬためにプロフィールを伏せるという選択もあったが、箔付のためのインパクトを重視した結果、ギアはそのまま載せて提出することにしたのだ。
その反応にギルド長がため息をついた。
「まったく。相手がガキだろうとうちの面々でアンタんとこの水準に合格したアーマーダイバー乗りとやりあえるわけねえだろうがよ」
ギルド長はルッタがドラゴンを単独で倒したことは信じていないが、ランクBクランの乗り手を任された以上は相応の実力があると考えている。年齢から将来の伸び代を見越しても最低でランクCからDクラスではあろうと。
そして、それはこのブラギア天領のトップを張れる実力を意味し、だからこそ彼は虎の尾を踏む真似はしなかった。
「ま、こちらとしては仕事はしてくれたんだ。真贋判定はラダーシャ大天領のハンターギルドに任せるさ。それで天空島も完全に落ちたんだな?」
「ああ、ドラゴンが穴を掘っている途中だった。だから島のコアである天導核まではすぐに届いたし、うちにはオリジンダイバーがいるから難しくはなかったよ」
天空島のコア『天導核』に近付くと干渉によりアーマーダイバーの動作が不安定になるが、オリジンダイバーに関していえばシールド処理がされているため、外部の影響を受けず正常に動くことができる。それもまた今回の依頼に島落としが入っていた理由でもあった。
「つまりはドラゴンが天導核を喰らう寸前だったってわけだ。怖いねぇ」
ギルド長がおどけて言うが、現実に起きれば笑い事では済まされない。最悪、新しいワールドイーターの誕生だ。それは人類の生存域がまた狭まることを意味している。
「運び込まれた飛獣の報酬は明日には渡せるだろう。ドラゴンについては領主様に特別報酬として申請する。それと無人島の破壊に対する報酬は確認後になるからどちらも一週間程度待ってもらうことになるがいいか?」
「問題はない。それでよろしく頼む」
こうして風の機師団とブラギア天領のハンターギルドとの話は終えたのであった。