003 神をも殺す武器
「闘技場ってのは個人主義で通っている。風の機師団っていうネームバリューも役には立たんし、ただの新人が上位者に挑むには闘技場内での実績を積み上げる必要があるわけだ。けれども風の機師団には目的があり、ひとつどころに留まっている余裕はない」
ギアがそう口にする。
現在の風の機師団はリリをヘヴラト聖天領に送り届けるために動いているし、ひとつの天領に留まっていればゴーラ武天領軍に嗅ぎつけられて面倒なことになるだろう。
「実績のないお前がクロスギアーズに挑むには本来であれば2~3年は見ておく必要があったわけだが、幸いというべきかお前は単独でドラゴンを討伐し、序列上位者に挑む格ってヤツを手に入れた」
「それを周囲に見せつけるための竜頭ってわけですか。まあ、嘘ついてるわけではないですし、カッコ良いし」
ルッタは自身の技量を人に魅せたいとは思っても、見た目で見せびらかしたいわけではない。けれどもそれが己の目的に沿うものであるなら受け入れないという選択はない。あとやっぱり胸部にドラゴンの頭がつくのは超カッコ良いと思っていた。
「よしルッタ。お前ならそう言ってくれると思ってたぜ。じゃあブルーバレットの改修とクロスギアーズ参加のための行動については文句ないわけだな?」
「勿論ですコーシローさん。むしろここで「やっぱダメー」とか言われたら命に代えてコーシローさんをブッ飛ばす覚悟があります!」
「止めて?」
コーシローはブルーバレットのパンチを喰らう自分を幻視した。
「なら問題ない。それとだな、ルッタ。さっきのお前の要求だが、肝心なもんを口にしてなかっただろう?」
「ん? どういうことですかコーシローさん?」
訝しげな顔をするルッタにコーシローが言う。
「ドラゴンと戦ったお前なら分かってるはずだぞ。自分に足りないものがはっきりと見えたはずだ」
コーシローの言葉にルッタが目を細める。思い起こすはドラゴンとの激闘。確かにそこで率直に足りないと思えるものはあった。
「瞬間火力のことですか。確かにドラゴンは鱗が硬くて攻撃が通りにくく、殺し切るのには時間がかかりましたけど……」
冷静なルッタの言葉にコーシローが眉をひそめた。
「ムゥ、思ったほど不足に感じてないようだな?」
「うーん。いや、必要だとは思うんですが、殺せましたから。どちらかというと今は基本的な部分を安定させたいなっていう気持ちの方が強くて」
ロケットランチャーと魔導散弾銃、それに魔導剣は通じたのだ。殺せる手段があるなら、何度でも繰り返すのみ。だからこそ繰り返せる機体をこそ求めた結果がさきほどのルッタの要求であった。
「ククッ、なるほどなぁ。コーシロー、あまり勿体ぶらない方がいいと思うぞ。こいつは見てるもんが違う」
「うわー、せっかく盛り上げようとしてんのに。艦長もそう言いますか」
コーシローが口をとがらせながら、ルッタに視線を向けた。
「ともかく火力だ。火力。ドラゴンを殺すなら鱗ごとぶった斬れた方が良いに決まってる。そういうことが言いたかったんだよ」
その言葉にルッタが首を傾げる。コーシローの言葉は正しいが、であればどうするのかが見えないのだ。
「ぶった斬る……そりゃあ、そうなんでしょうけど。でも量産機だと出力に問題がありますよね? 何か解決策があるんですか?」
斬るというのだから魔導剣の類になるのだろうとルッタは思ったが、鱗まで斬るとなると量産機の出力では難しいだろうという認識だ。最もルッタはテオから整備士としての教育は受けているためにアーマーダイバーについては詳しいが、武装については一般的なものしか知らない。田舎のヴァーミア天領だとそれで十分だったのだ。そんなルッタに対して……
「そう思うだろ。そのための答えは魔鋼砲弾、そして竜の牙……こいつらを使おうってわけだ。そして、お前は聞いたことないだろうけどさ。世の中には」
コーシローがニヤリと笑ってこう言った。
「チェーンソーっていう武器があるんだよ」
チェーンソーは武器じゃない(真顔)