002 資格
「ええと。それはクロスギアーズ開催時にヘヴラト聖天領の闘技場に行って参加申請をする……って話じゃなさそうですね」
ルッタが想定していたのは参加申請後に予選を行い、続いて本戦に……というような流れであったが、ギアとコーシローの表情からどうやら違うらしいと理解した。
「そいつをすると有象無象がやってくるからな。アーマーダイバーってのは繊細だ。そう連続で試合を組めないし、上位候補に対して損耗狙いで潰しに送り込む連中も出てくる」
「なるほど」
ルッタは整備側の人間でもあるからアーマーダイバーは消耗品であると理解できている。
可動部の修理は日常的に、自重を支えるフレームの歪みも無視できず、各部位の調整にも頭を抱える日々が待つ。
アーマーダイバーは基本的にはニコイチ修理で、ひしゃげた装甲を直すことはできても壊れた制御端末を修理することはできない。交換パーツは機体を生産可能な八つの天領から供給されるものを使うか、テオの店の様にジャンクなどから使えるパーツを回収して修理に回すことになるのだ。
これが高出力型となると素材の殆どを直接オーダーする必要があり、そのため高出力型の機体の多くが自国生産できる八天領やその従属天領の保有であるというのも頷ける話だった。
「コーシローの言う通り、参加者になるためには資格が必要だ。これが狭き門となっている」
「資格ですか」
そこまでは考えていなかったルッタが尋ねる。
「それってどういう条件になるんですか艦長?」
「そうだな。まず大会参加の条件のひとつに過去の大会で八位まで勝ち残ったものに一度だけ与えられる……というのがある。まあ、これは初参加希望のお前には関係のない話だが」
「一度だけっていうとその次は駄目ってことですか?」
「また八位以上まで残ればいいって話さ」
「なるほど」
「それで参加経験のないアーマーダイバー乗りが参加する方法だが、これにはまず推薦人がふたり必要だ」
「ふたり?」
その言葉にルッタが不安を顔に出した。
そんな心当たりは彼にはなかった。
「ヘヴラト聖天領から許可を得ている人間だな。ある程度の地位や、彼の地に貢献した人間に与えられている」
「ふたりから推薦を取れればいいんですね。けど、そんなアテないですよ?」
「心配するな。そのうちのひとりは俺だ」
その言葉にルッタが目を丸くする。風の機師団がヘヴラト聖天領に伝手があるとは先ほど聞いたが、繋がりはかなり強い様であった。
「艦長から推薦をもらえるんですね」
「ああ、ドラゴンを相手に一騎討ちして勝った乗り手を推薦しないってことはないさ。もうひとりも別に伝手があるから問題はない」
そう言ってギアがうっすらと笑った。
「しかし、条件はもうひとつある」
「条件がもうひとつ?」
「推薦者ふたりに加えて、参加希望者は大天領にあるヘヴラト公式の闘技場の序列上位者ふたりに公式に勝利する必要があるんだ」
「大天領……序列上位者」
クロスギアーズを行うヘブラト聖天領以外にも島の規模が大きい大天領と呼ばれる天空島の多くにはアーマーダイバー同士の戦いを行う闘技場が存在している。それは娯楽の少ないこの世界におけるメインのエンターテイメントだ。
「ルッタ、ふたりっつっても同じ闘技場の上位者じゃあ駄目だからな。各闘技場ごとにひとり倒さなきゃいけないから最低闘技場ふたつは回る必要があるんだよ」
コーシローがそう補足する。
「なんで駄目なんですか?」
「一箇所だと不正があった時になぁ。そうでなくとも身内相手だと加減されることもあるだろ。実際ギア艦長の推薦だってハタから見れば身内贔屓にしか見えないだろ?」
「確かにそうですね」
ルッタも前世の記憶があるから客観的に自分自身のことを理解できている。ドラゴンを倒してクロスギアーズを狙う子供の新人。胡散臭いにも程がある。
「そこで問題になってくるのがルッタ、お前自身の格ってわけだ。闘技場は実力主義。普通に挑もうとしても序列上位者に挑める訳じゃない」
「だからドラゴンスレイヤーってことですか」
ルッタの結論にギアが頷いて肯定した。