001 ブルーバレット•リビルド(案)
船上で祝勝会を開いた翌日、ギアが艦長室にルッタを呼び出した。そして、ルッタが部屋に入るとそこにいたのはギアとブルーバレット専属整備士のコーシローであった。
「艦長にコーシローさん。なんかありました?」
「ああ、タイフーン号はこれからブラギア天領に戻る。それでお前が倒したドラゴンの素材についてどう扱いたいかの確認をしたくてな」
ギアの問いにルッタが首を傾げた。
「売るんじゃないんですか?」
飛獣討伐は基本的にクラン全体での仕事であり、アーマーダイバー乗りがどれだけ活躍しようとそれを独り占めできるものではない。だからこそ新人である自分が竜素材をどう使うかなど決められるものではないとルッタは思っていたのだが。
「もちろん、売ると決めたものは売る。ただ幸いなことにロブスタリアだけでもそこそこ金は入るし、ウチで使えるものは使うつもりで考えている。そしてドラゴンを倒したお前を蔑ろにするつもりもない」
ギアがそう言ってからコーシローを見ると、コーシローが頷いて口を開いた。
「一般的に竜素材は捨てるところがないと言われるほどでね。ブルーバレットの改修に使えるところは使おうって艦長と話してたんだよ」
「ブルーバレットのですか。確か竜素材って一番の目玉は竜心石ですよね。高出力型のアーマーダイバーの機導核の材料にもなっている。でも新規で機体を造るならともかく、量産型のブルーバレットには意味ないから」
「ああ。アーマーダイバーに使う素材は防御に鱗、フレームの増強に竜骨というところだな。角、牙、爪は武装の素材に使うことが多い」
「んー、だったら竜骨で可動部の補強と竜鱗で胸部の装甲強化をお願いしたいですね」
「考えてなかったという感じだったのに、あっさりと要求が出たね」
コーシローの言葉にルッタが「えへへ」と笑いながら頭をかく。
「倒した相手ですから一応、確認はしてました。それにここまでの戦闘から見ても俺の動かし方は結構機体に負担かけてますからね。コクピットだけは護れていれば手足がぶっ飛ばされてもなんとかなりますし胸部の補強はしておきたいなとは思ってたんです」
現状、ルッタの操作に機体が保たないというのは操縦面と整備面の双方からの課題となっていた。無論、負担をかけぬ操作もできるが、やらねばならぬ時に全力を出せぬのは問題であった。だからこそ無茶な機動にも耐え得るように可動部の強化をルッタは望んでいた。
胸部装甲についても然り。背部はコクピットの後ろにある機導核を護るガードボックスが盾代わりにもなるのだが前面の胸部装甲の必要性は前パイロットが即死したことからも明らかだ。不意を打たれても機体の手足が無くなろうと、自分の身さえ問題なければどうとでもなるとルッタは考えていた。
「でも、同じドラゴンからの素材は付け過ぎると機体に干渉するから、できてそれぐらいですよね?」
「ルッタはちゃんと勉強しているみたいだね。そうだよ。選ぶならフレームか装甲かのどちらかだって言われるほど、竜素材の扱いは難しい」
竜素材は優秀だが、込められた魔力が濃過ぎて同一個体の素材を纏めると相互干渉を起こして機体が機能不全、或いはそこまでは行かずとも動作が不安定になってしまう。それは死してなお、ドラゴンの生存本能が己を取り戻そうともがいているためだと言われている。
そのため、干渉を受けない程度に竜素材を利用することをルッタが想定して導き出した答えが四肢の可動部の補強と胸部の装甲強化であった。
フレーム自体に竜骨を入れたり、装甲に竜鱗を入れて防御を強化したくもあったが、そこまで手を入れると動作不安定になって機動力が死んでしまう可能性もある。
「そしてルッタの考えは僕の見解と大体同じだね。ただ艦長の要望で胸部装甲に関しては竜鱗ではなく、竜頭で飾らせてもらうつもりだ」
「マジっすか。なにそれカッコいい」
ロボットの胸部にライオンとか象とか鷹とかドラゴンとか動物の頭部が飾られる……それは往年のロボットファンなら歓喜ものであろう。しかしブルーバレットは専用機やエース機などに当たる高出力型ではなく、ただの量産型なので少し分不相応ではないかとルッタは感じた。
「けど、量産型にそれってメチャクチャ目立ちません?」
「目立つな」
ギアが頷いて認める。本来、ドラゴン討伐など複数のクランで挑むために素材の分配もシビアで、頭部の剥製などは貴族に好まれるため、売りに出されることの方が多い。けれども今回は風の機師団単独の上、ルッタがひとりで討伐したのだから口を出される筋合いはない。であれば、ギアも好きにやるつもりだ。
「慣例に近いことではあるんだが、ドラゴン討伐でよほどの活躍をした者、或いは単騎撃破したドラゴンスレイヤーは竜頭を自分の機体に直に使うんだ。今回で言えば当然お前だな」
「なーるほどー」
承認欲求マシマシなのがアーマーダイバー乗りというものだ。俺がドラゴンを殺した張本人でござい……と見せつける意味でもそれは有効だろうとギアは語る。
「それにな。お前はまだクランとしての依頼を一度受けただけの新人だ。そんな人間がクロスギアーズに出るってんなら、見合うだけの相当な箔が必要になる。なら、嘘偽りなく喧伝しなくて何がアーマーダイバー乗りだという話だ」
「そういうもんですか」
ルッタの言葉にギアとコーシローがうんうんと頷いた。
それからギアが続けて口を開いた。
「それでルッタ、ブルーバレットの改修はその方向でいいとしてだ。今後のお前の予定についてなのだが」
「はい?」
「お前はクロスギアーズの参加条件を知ってるか?」
「参加条件……ですか?」
ギアの問いにルッタが首を傾げた。