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017 ホムンクルス

「そうか。クロスギアーズに出たいか」


 甲板の中央でドラゴンステーキを頬張っていたギアの元にシーリスとルッタが訪れ、そして先ほどシーリスが聞いたのと同じ話をルッタがするとギアが目を細めた。

 その様子にルッタが緊張した顔を見せる。いきなり新人の自分がそんなことを口にしたのだから気に障ったのか……と思ったのだ。ルッタの立場からすればそれは当然の考えであったが、ギアはルッタからシーリスに視線を移して口を開く。


「お前はいいのかシーリス?」

「あたしは竜雲海の上でドンパチしてる方が好みだし、ガチャガチャ目の前でやり合う戦いってのはちょっとねえ」


 シーリスが肩をすくめてそう返した。シーリスの機体レッドアラームは高機動型に調整されているブルーバレットとは違って万能型に調整されている。装備は魔導銃二丁に魔導短剣、それとバックパックウェポンにフレイムキャノンという爆発する炎弾を撃つ大砲二門を装備しており、近接戦はほとんど想定されていない。それはシーリスが近接戦を得意としていないためで、そもそも『今の兵装ですら』彼女の本来の形ではなかった。


「あたしじゃあ大会参加条件だって満たせるか分からないしね。けど、ルッタはヴァーミア天領でも、今回のドラゴン戦でも地上の戦いで十分過ぎるほどの成果を出してる。なら、参加させることを考えてもいいんじゃないかな艦長?」

「ふむ、そうだな」


 ギアが顎髭をさすりながらルッタを見る。


「ルッタ、お前にはまだこの船の行き先を伝えていなかったな」

「あ、はい。そういや聞いてないかも」


 通常のハンタークランであれば拠点となる島を中心に飛獣を狩ったり、遺跡を探索したり、素材回収や護衛などの依頼を受けたり……という風に活動するのが普通だ。けれども風の機師団はゴーラ武天領軍に追われており、だから拠点を持たずに行動をしているのだろうとルッタは理解していた。ただ、この船が現在どこに向かって進んでいるのかについてもルッタは知らなかった。


「ルッタ。お前は今日実戦を経験し、クランの依頼も見事にこなした。今のルッタ・レゾンは正しく風の機師団の、タイフーン号の一員だ。だから今のお前になら話しても問題はないだろう」

「はは、仕事ができてようやく一人前だってことだね」


 シーリスの言葉になるほどとルッタは頷いた。今この時をもって、ルッタは自分が正式に風の機師団のメンバーになれたのだと感じた。それからギアがルッタに視線を向けて口を開く。


「俺たちの目的はヘヴラトだ。八天領のひとつヘヴラト聖天領」

「それは……イロンデルタイプを生産していて、クロスギアーズの開催地だよね?」

「そうだ。まあ、目的はクロスギアーズへの参加ではないけどな。風の機師団の現在の目的はリリをヘヴラトに送り届けることだ」

「リリ姉を?」

「ん、呼んだ?」


 自分の名前が出たことに気づいたからか、ロブスタリアサンドを口に咥えながらリリが近づいてくる。


「リリ、ルッタにお前のことを話してもいいか?」

「弟に隠し事をするお姉ちゃんはいない」

「普通にすると思うけどな……隠し事」


 そんなやり取りを見ながらギアが微笑みを浮かべる。

 このルッタとリリの関係性はギアにとっても、風の機師団のクルーにとっても予想外のことだった。

 原因を考えれば、リリはこれまで年下の子供と触れ合う機会が少なく、ずっと世話をしてきたシーリスを姉のように慕ってきたわけだから、自分も……と考えているのだろうと推察はできる。ただ、それでもリリが年相応(?)の反応を見せることは珍しく、それはギアやタイフーン号の面々にとって嬉しい変化であった。


「リリがいいならいい。ルッタ、リリは普通の人間じゃねえ」

「普通じゃない?」


 ルッタが首を傾げる。遺跡から発掘されるオリジンダイバーに乗っているだけでも特別な存在であることは理解できていたし、そもそもリリ自身が普通の人間とは違う神秘的な雰囲気を放っていることも分かっていた。なおロブスタリアサンドを頬張り続ける今の姿はハムスターのソレで神秘は死んでいる。

 その様子にギアは苦笑しながらもこう告げた。


「リリはホムンクルス、古代イシュタリア文明によって造られた人造人間ってヤツだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] へえ、前々からこういう気質なのかと思ってましたがルッタが来てからだったんですねえ
[気になる点]  そうか……、神秘とは死ぬモノだったのか(T_T)。
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