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015 称号:ドラゴンスレイヤー

「まったく、まーた無茶して」

「うー、すんません」


 ドラゴンとロブスタリア双方を討伐して戦闘終了となった後、ルッタたちは信号弾をその場であげて仲間たちの到着を待つことにした。

 そして待機している間に行われたのが反省会……もといルッタへの説教である。


「ルッタ。アンタが強いのは分かる。けど、アンタはひとりじゃないってこと忘れてるでしょ」


 全体の流れから見ればルッタの行動は最善といって良いものではあった。あったのだが……それはあくまで結果論でしかない。

 ルッタがドラゴンを討伐可能か否かは戦闘前では分からず、リリとフレーヌにはドラゴンクラスの飛獣を倒した実績がある。切羽詰まっていたわけでもない状況で相談することもなく勝手に飛び出して戦い始めたルッタの行動は、当たり前のことではあるが当然誉められたものではなかった。何よりも問題は今のルッタの状態である。


「今回はリリに任せても、退いても良かったの。勝者ってのは最後まで立てた者を言うんだよ」

「はい。おっしゃる通りです」


 膝をついて腰を落としているブルーバレットとレッドアラートの前で五体投地をしているかのように地面に突っ伏したルッタの姿はシーリスへの反論を許さななかった。

 肉体的な消耗に加えて、ドラゴンを斬った際の衝撃でまたもやルッタは動けなくなっていた。早くムキムキになりたいルッタ・レゾン十二歳である。


「それで、調子はどうなのさ? まーた寝込みそう?」

「いえ、ダイバースーツのおかげでしばらくすれば動けるとは思いますけど………今はやっぱりキツいっす。あと機体の方の負荷もそれなりかと」

「ま、だろうね」


 シーリスがブルーバレットに視線を向ける。二度の竜斬りと無茶な動きによってブルーバレットの可動部位へのダメージはそれなりに蓄積されているはずで、タイフーン号に戻ったら即座にチェックが必要であった。


『シーリス。それでも『それだけで済んだ』。本来はアーマーダイバー十機編成は必要だよ』


 フレーヌの中で周囲の警戒を行っているリリからの言葉にシーリスが「まあねぇ」と口にしながら、ため息を吐く。


「いたのがまさかドラゴンだったとは……まったく肝が冷えたよ。とはいえ、島の上で戦えたのはむしろ運が良かったんだろうね」

「ええと、それは竜雲海上だとアイツは飛ぶから?」


 ルッタの問いにシーリスが頷く。


「そういうこと。島の上でも火は吐くし爪も牙も鱗も硬くて、尾の一撃も強力だけど、それでもここじゃあ満足に飛べないからね。扱いとしちゃぁランクで言えばB+ってところ。けど、竜雲海の上でのドラゴンは恐ろしく速く飛ぶ」

『ルッタ、ドラゴンは竜雲海上ではオリジンダイバーでも追うのが難しいの。それにブレスを広範囲に吐きながら高速移動してくるから避けるのも大変なんだから』

「そうなんだ。まあ、あれはあれでいい経験だったよ。今はまだこんなんなっちゃうってのも分かったし」


 ルッタが肩をすくめて乾いた笑いを浮かべる。確かに先ほどのドラゴンは聞いていたものよりも弱いと感じたが、それでも実際に戦ってみて分かることは多くある。自身の身体能力の低さはやはり問題だし、ブルーバレットの火力不足は如何ともしがたいものがあった。


(体は鍛えるしかない。火力は……相手が高速で動くからといって魔導銃に戻すってのはナシだよなぁ。魔導長銃のゼロ距離スナイプ? ロケランをさらに用意する? 威力特化に調整した近接武器なら?)


 出力の低い量産機でドラゴンに届く威力の兵装を用意できなければ、両親の仇との戦いの舞台にも立てやしない。それをルッタは今回の戦いで強く痛感した。


「それでロブスタリアの方は問題はなかったようだね」

『うん、全部仕留めた。お姉ちゃん頑張ったよルッタ』

「この子は食べられるところは綺麗に残して倒してたよ。まったく」


 フレーヌにブイサインをさせるリリにシーリスが肩をすくめて笑う。つまりはそれだけリリには余裕のある戦いだったということだ。


「まあ、ともかくだ。そのザマで理解しただろう。今のアンタはドラゴンは倒せてもひとりじゃ帰れない。そういう戦い方をしてればそのうち死んじまうってのはね」

「うっす」


 その返答にシーリスが笑いながらルッタの頭を撫でた。


「なら、お説教はここまでだ。なにしろアンタはドラゴンスレイヤー。アーマーダイバー乗りにとっては一種のステータスだ。本来は手放しで褒めるべき案件なんだからね」

「ああ、そうだった。へへ、そっか。ドラゴンスレイヤーかぁ」


 アーマーダイバー乗りとしては憧れの称号にルッタが嬉しそうな顔をして、その様子を見たシーリスが「反省がないなぁ」とさらに頭を強くグリグリした。

 まあシーリスも本気で怒ってはいない。素直にルッタを誉めてやりたくはある。けれども、それでもルッタの戦う姿勢に感じる危うさを彼女は注意しないわけにはいかなかった。


(でないとこの子はいつか死んじまいそうだからね)


 それが杞憂で終われば良いのだけれど……とそんなことを思いながらシーリスはルッタの頭を撫でていた。

 なお、ハンターギルドは特定の魔獣討伐や実績に対して称号を与えており、ドラゴンスレイヤーもそのひとつだ。特に単独での竜殺しはアーマーダイバー乗りの憧れのひとつであり、竜殺金章という勲章を機体に付けることが許される。

 それはハンターランク以上に価値があり、彼が望む暴食竜ドラクルを探す手段ともなり得るものだった。

 それからルッタがどうにか起き上がれるくらいになる頃にはタイフーン号から人がやって来て、ドラゴンの亡骸に驚きながらも素材回収を進めていったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、機体が万全でダイバースーツを着ていてもやはり自分の操作に身体が負けちゃうんですねえ こればかりは一朝一夕でどうにもなりませんからねー
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