013 カウンター
「グギャァァアアアア」
爆発音と咆哮が同時に響き渡り、ドラゴンの巨体が木々をメキメキと折りながら転げていく。
「参ったな。魔鋼砲弾の直撃でも中まで届かないか」
対してロケットランチャーの砲身から煙を上げているブルーバレットの中では、ルッタが感心したような、呆れたような声をあげていた。
ドラゴンのわずかな隙を見逃さずに放ったロケットランチャーの魔鋼砲弾は確かに命中した……が、それは鱗を削りはしたものの内部までは届いていないようだった。
「まあ魔砲弾は貫通せず、接触と同時に爆発させてるわけだからな。鱗があったら効きにくいか」
ルッタの手札でもっとも火力のあるロケットランチャーでも致命傷には至らず。けれどルッタは特に落胆することなく、ドラゴンの様子を注視している。
「なら、やっぱり鱗を削って、剥いたところに攻撃を集中させるのがセオリーだよなぁ。それでこっちはどうだ?」
再度迫るテイルアタックを避けながらルッタはアームグリップのトリガーを引いて魔導散弾銃から一発の大型弾を放つ。それは無数の弾が飛び出す散弾に対して、一発の巨大な弾丸が飛び出る重弾というものだ。その攻撃がドラゴンに直撃するとロケットランチャーのときと同様に鱗を削り、体表を露出させることに成功していた。
「射程範囲の短さがネックではあるものの威力はやはり高い。こいつ相手なら十分に通用するか」
重弾を再装填しながらルッタが呟く。
重弾の威力は魔鋼砲弾に近いものがあるが、有効射程距離はあまりにも短い。それを、一撃で機体を大破させるような攻撃を見舞うドラゴンに対して至近距離で放つなど普通であれば自殺行為に等しいものだ。けれどもルッタはそれを問題視しない。当たらないし、当てれば問題ないと切り捨て、極めて冷静にヒットさせていく。
(チクチクチクチクとやるしかないな。しかし、頭部や鱗のない腹はさすがにガードが硬い)
そんなことを考えながら、ルッタはドラゴンの攻撃をかわしつつ再度仕掛けていく。
(問題は体のほうも辛くはなってきたってことか。前ほどじゃあないけど)
また急制動を多用するルッタの体の負担も当然大きくなっている。機体の調整が済んで操作が素直になったこととダイバースーツの恩恵により負荷は軽減されているが、子供にはキツい動きなのは間違いない。ノワイエを相手にしたときほどではないにせよ、それでもルッタの体へのダメージは蓄積されていく。
(まあ、パターンも読めた。そろそろ仕留めるか)
そして幾度となく鱗を削った箇所へ攻撃を集中しようとした時、ルッタは水晶眼を通してドラゴンの魔力に変化が起きたのを感知した。
「ん、なんだ?」
ドラゴンの内より湧き上がる魔力が燃え上がった炎のように激しく揺らめき、傷口からはさらに沸騰したかのように赤い魔力が噴出していく。
『ルッタ、そいつは瀕死の魔獣の切り札『深化』だ。パワーもスピードも一気に跳ね上がる。これまでのヤツだとは思うな!』
「ありがとうございます。注意します」
シーリスの忠告を聞いたルッタは即座に己のドラゴンに対しての戦力の見積もりを引き上げる。同時にドラゴンの尾が動いて再び振るわれた。
「速ッ」
『ルッタ!?』
シーリスの声をよそに、間一髪という形で避けたルッタがゾクリと震える。想定していた動きよりもさらに上の速度。ルッタの中でかつてない緊張が走るが、それは彼の動きを阻害するものではない。むしろ闘志を焚きつける薪でしかなかった。
「いいねぇお前!」
ガチガチと牙を剥き出しに噛みつこうとするドラゴンから跳び下がり、ブルーバレットはわずかにドラゴンと距離を取った。その様子にドラゴンが笑みを浮かべたようにルッタには見えた。
『ルッタ、そこは尾の間合いだよ!?』
「はい。分かってます」
言葉の通りであればルッタは理解していて、その間合いに留まったのだが、シーリスから見ればその行動は完全に自殺行為だ。けれどもルッタに焦りはない。ただクレバーに次の攻撃に備える。
「来いよドラゴン!」
「グルッォォオオアアア!」
即座に竜の尾が再度振るわれてブルーバレットへと向かうが、ルッタはフットペダルを踏んで魔導剣を振り上げると機体を前へと進ませる。次の瞬間に尾と魔導剣が重なり、ザクンッと斬り裂かれて宙を舞った。
『嘘!? 尾を斬った……だって?』
そしてシーリスの目に映ったのは吹き飛ばされたブルーバレットの姿……ではなく、宙を舞うドラゴンの尾であった。