010 凶獣襲来
「ええと、腕を残せばいいんだよね?」
『尾と足も残しておいて欲しいね。他も食い出はあるからできる限り傷つけずに』
「うう、オーダーがシビアだ。ロブスタリアってそんなに美味しいの?」
『ああ、ハンター冥利に尽きるってくらいにね。殻の中の肉を輪切りにしてバターをたっぷり乗せたステーキにするのがまた美味いんだ』
ジュルリとルッタの口からよだれが溢れる。前世でも今世でもエビフライは食べたことがあってもロブスターはない小市民である。ロブスタリアは飛獣でサイズは当然ロブスターとは比べものにならず、身の大きさもまるで違うが、話を聞く限りでは味にもボリュームにも期待ができそうだった。
「じゃあ出来る限り、傷つけないように善処するよ」
ルッタがフライフェザーを操作して滑るように突撃する。
「まずは一刀!」
姿の見えた飛獣は海老そのものの形をしていた。
そして開いたハサミがブルーバレットに迫り、ルッタはスライディングでそれを難なくかわしながら、魔導剣で腹を斬り裂いていく。
「ギィオォォオオオオオオ!」
「うぉ、エビが叫ぶなよ」
そう言いながらルッタが魔導剣を振り切るとロブスタリアの尾が千切れて宙を舞った。
「これで仕留めたか?」
ルッタは頭部の水晶眼で倒したロブスタリアの姿を見る。赤い魔力反応が薄れていくのが見え、その命が尽きようとしているのが確認できた。
「やったけど内臓出てるな。痛まないように次は頭を潰すか」
二体目が接近したのを確認したルッタは右腕からワイヤーアンカーを飛ばす。それはロブスタリアのハサミに引っかかり、そのままルッタは突進を横に飛んで避けるとロブスタリアに引っ張られる勢いを利用してブルーバレットをUターンさせ、ロブスタリアの背後をとって魔導散弾銃を頭部に撃ち放った。
「よし二体目。こっちは頭以外は綺麗にやれたな」
今撃ったのはスラッグ弾に当たる重弾で、小さな弾をばら撒く散弾とは違って巨大な弾が一発だけ発射されるものだ。射程距離は短いが近距離での火力は魔導砲弾に匹敵し、ランクCの攻殻系飛獣といえどもこの有様である。
『さすがルッタ。海老肉ステーキ山盛りを進呈しても良い。それにまだ追加が……いや、反応が大きい?』
話している途中でリリが首を傾げる。その様子にシーリスが訝しげな顔をするが、原因が何かはすぐに理解できた。
『リリの言う通りこの反応は不味いね。これってまさかランクAクラス?』
話している途中でシーリスの声に恐怖の色が見えた。
「それ、どういうことです?」
『知らないわよ。島の中央、ソメイロ山からまっすぐこっちに来てる。ああ、もう。来るよルッタ!』
シーリスの乗るレッドアラートに積まれている頭部パーツは『遠距離戦』を想定した広域レーダー持ちだ。フレーヌほどの性能ではないが、ルッタのブルーバレットよりも長距離を探知できる。だからシーリスの方が早く気付けたのだが、すぐさまブルーバレットも水晶眼に大きな赤い反応を表示させた。同時に何かしらの攻撃も感知する。
「こいつはッ」
ルッタが即座にフライフェザーの出力を上げて機体を跳び下がらせると、巨大な炎の塊がブルーバレットがいた場所を通過し、そばに倒れていたロブスタリアの甲殻が焼かれて青白い色から赤へと変わっった。
「今のはなんですシーリス姉!?」
『反応はランクA……の深獣? いや、この炎はまさか』
シーリスの声が上擦る。それは無理もないことだった。何しろそこにいたのはアーマーダイバー乗りにとってはオリジンダイバー以上の、死に等しい存在だ。
『なんであんなのがここにいんのよ!?』
曰く最強種。分類で言えば飛獣だが、その有り様は深獣のようであり、巨大で鱗で覆われた巨体は硬く、爪と牙は鋭く、翼を生やして空を飛び、顎門を開いて炎を吐くという。そして、その怪物の名は……
『竜種!? あれはドラゴンよ!』
その言葉にルッタの目が見開かれた。