009 エビ三昧パーティを望む
無人の天空島で天導核を狙っているのはロブスタリアだけではない。未だ確認できていない魔獣、それも恐らくは飛獣ではなく深獣であろうというのがエリサの推測であった。
この深獣というのは竜雲海の底である深海層を闊歩している魔獣のことだ。そもそも竜雲海は実際の海というわけではないため、海底にあるのは魔力が濃い大地であり、そこは魔獣が強化された深獣がいて、人が生きていく環境としては厳しいものがあると言わざるを得ない。何しろ深獣は飛獣と違って飛ぶことはできないものの大きく、重量があり、その上に素早く、力も強く、一般的には飛獣よりも強いとされている。原型となった魔獣、例えば全長2メートルの魔犬が5メートルクラスにまで巨大化しているといった具合だ。当然、深獣との地上戦となれば命懸けだ。
『俺たちはここで待機している。可能であればここまで誘導し、船の魔導砲で仕留めたいが、そこはシーリスの判断に任せる』
『あいよ。安全第一だ。ジェットの旦那も船の防衛は頼んだよ』
『ああ、任せろ』
砲撃しやすいよう、天空島からわずかに距離を取っているタイフーン号の前にはジェットのアーマーダイバー『ツェット』が待機している。
このアーマーダイバーはゴーラ部天領の量産型フォーコンタイプをベースにした改造機だが、タイフーン号からの魔力供給により本来高出力型でなければ使えない有線シールドドローン『ビットスケイル』の操作を可能としていた。
風の機師団では基本的にジェットをタイフーン号の護りにつけ、遊撃を他の機体が行う戦術をとってこれまで活動してきた。
『それじゃあ進むけど、ルッタはその装備で大丈夫なの?』
「はい。問題ないです」
そう返すルッタのブルーバレットにはバックパックウェポンのロケットランチャーと腰に下げた魔導剣は変わらないものの、魔導銃の代わりに魔導散弾銃を装備していた。
(試し撃ちした限りじゃ扱いやすい感じだった。気になるのは重弾と散弾を混ぜて運用しているからどっちつかずにならないか……だけど)
魔導散弾銃は魔弾筒という筒内に無数の小さな弾を込める散弾か、巨大な弾を一発込めている重弾を召喚生成し使用するものだ。毎度弾を込め直すため、装填に時間がかかることと射程距離が短いという弱点はあるが、散弾は面のダメージを与え、重弾は短距離ならば魔鋼砲弾に匹敵するダメージを与えることが可能だ。
そしてルッタの持っている魔導散弾銃は水平二連式。二発の魔弾筒を装填でき、本来は集弾率を変えた散弾を入れて一射目を外した際の二射目に使用するものだが、ルッタは散弾と重弾を並べて入れている。また予備に八発分の魔弾筒をキープしており、散弾と重弾を半々で持たせていた。
(雑魚敵ならともかく、今回はボス戦のようだからな。デカブツが相手っぽいから欲しいのは火力なんだよ。いっそ重弾オンリーに思い切るべきだったか。いや……)
魔導散弾銃の運用にルッタが悩んでいると『周囲に魔獣反応あるよ』とリリより通信が入った。
『了解リリ。目的のやつかい?』
『違うと思う。数は5。右側から……この反応はロブスタリア……かな?』
そのリリの報告に続いてバキバキと木々の倒れる音が聞こえ始めた。
「こっちでも反応確認できたよ。シーリス姉、こっからどうするの?」
『やるに決まってんだろう? 五体もいるなら当面はエビパーティーのエビ三昧ができるじゃないか!』
『三昧! 最高!』
シーリスとリリがひどく乗り気であった。どうやらロブスタリアは彼女たちにとってもご馳走であるらしい。
「リリ姉はロブスタリア食いたいの?」
『勿論だよ。美味しいは幸せなんだよルッタ。リリはいつだって幸せを求めてるの』
出会ってから一ヶ月近く経つがルッタはリリのテンションがこれまでになく上がっているのを感じていた。
(リリ姉は食いしん坊キャラだったのか)
そんなことを考えながらルッタは木々の破砕音のする方へと視線を向けた。そして森の奥から青い甲殻をした巨大なエビの姿が見え始めた。