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008 心の傷痕

「で、あたしだけを呼んだのは何なのギア艦長?」


 一通りの話が終わった後、シーリスはひとり艦長室へと呼ばれていた。彼女を呼んだのは部屋の主であるギアで、彼は入ってきたシーリスに視線を向けながら口を開いた。


「時間をとらせてすまない。今日のルッタの様子を聞きたくてな。どうだった?」


 どこか含みのあるギアの問いにシーリスが眉をひそめた。


「うーん。艦長が何を求めているのか分かんないけど、最初のときみたいな無茶はしてないよ。船を出てすぐは試すように結構無茶な動きを繰り返してたけど……すぐに落ち着いたし、ブレイドバットと戦った時も危なげなく倒してた」

「そうか」


 シーリスの報告にギアが何かを考え込むような顔をする。その様子に訝しげな顔を向けつつシーリスが口を開く。


「艦長、あの子はさ。リリとは違う意味で特別だよ。天才というのとはちょっと違う気がするけど」

「違う?」


 首を傾げるギアにシーリスが頷く。


「ええ。オリジンダイバーはアーマーダイバーの原典であり、その性能を大きく上回る。そしてリリはオリジネーターで、あのノワイエのような紛い物を乗せているのとは違う……本当の意味でオリジンダイバーの力を発揮することができるスペシャルでしょ」


 ラガスでは発揮できないオリジンダイバーの真価をリリは引き出せる。それはまるでオリジンダイバーとオリジネーターがひとつのシステムでもあるかのように。だからこそ竜雲海でオリジンダイバーと出会ったら逃げろと恐れられるのだ。


「けどルッタはあたしたちと同じなんだ」

「同じってのはどういう意味だシーリス?」

「あいつはあたしらと同じ乗り手だってことさ」


 そう言ってシーリスが肩をすくめて笑う。


「もちろん才能はあるんだろうけどね。あたしもアーマーダイバー乗りとしてはそこそこだって自負はあるから分かるんだよ。あれは、ルッタのは『圧倒的な経験から裏打ちされた熟練の動き』だってさ」

「ふむ」


 ギアが目を細めて、興味深そうな顔でシーリスを見た。


「誰もが到達できるとは言わない。ほとんどの人間は届かないと諦めるもんさ。けどルッタは最初からそうであれとして在ったリリとは違うんだよ。きっとあたしたちでも何千何万と繰り返して研鑽し続ければ到達できる……そういう強さだ、アレは。あの年でどうやって……とは思うけどね」

「そうか」

「艦長だって分かってるんだろ。あの銀の流星が気付かないはずがないさ」

「その呼び名は止せ」


 ギアが嫌そうな顔をしてそう返す。

 かつてついた二つ名は若かりし頃の彼自身が自ら広めたものであり、その若気の至りは今も彼の心の傷となっていた。


「とはいえ、お前の言っていることはなんとなくは分かる。その辺りはいずれテオに再会した時に聞くしかないな。ともかくだシーリス。ルッタが飛獣と遭遇した際には注意しておいてくれ」

「良いけど……ただ心配しているだけってわけじゃなさそうだね。何が気になるんだい?」

「ルッタは八歳の時、スタンピードに巻き込まれて両親を亡くしている」

「!?」


 シーリスの目が見開かれた。


「分かるだろう、お前なら?」

「まあ……ね。珍しい話でもないし」


 苦い顔をしてシーリスが頷く。この世界に生きている者なら共通した経験を持つものは少なくない。シーリスがアーマーダイバーに乗ろうとしたのもかつて彼女の村が飛獣によって滅ぼされたことがきっかけだった。


「飛獣に対して過度な憎しみを持ってるかもしれない」

「あたしが見た限りじゃ問題ないようだったけどね。むしろ子供とは思えない落ち着きぶりだった」

「あいつが戦ったのはまだブレイドバットだけだ。杞憂ならそれで問題ないし、ただ気を配ってくれればいい。ルッタが無事ならな」

「アイアイ、ボス。了解だよ」


 今日の様子からすれば特に問題はないだろうとシーリスは考えながら頷いた。本当にギアのただの杞憂であろうと。

 けれどもこの時点ではシーリスも、そしてギアも知らなかった。ルッタが遭遇した、彼の両親を殺した存在がどういったものであったのかを。それはこの世界において最強の種であり、その中でも悪名高き……

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― 新着の感想 ―
[一言] おー、しっかりとルッタの強さがどう培われたものなのか推測できてるんですねえ
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