027 ひよこの翼
「そんで、何を探してたんだ? 武器か? ずいぶんと色々と変えてたみたいだが」
「ああ。あの機体、可動域が妙に広くてさ。何が合うかを試してたんだけど……まあ、そっちは一応メドがついたんだよね」
それが魔導手甲なのだとはギンナにも分かった。
(ま、そこに行き着くのは当然か)
アヴァランチのかつての機体名はメテオナックル。元々がぶん殴ることに特化した機体である。全てはそのために長年調整された格闘専用機。機体特性に合わせて武器を扱いたいのであれば、その結論に辿り着くのはギンナからすれば当然の起結ではあった。
「だから今、欲しいのは足の方でね」
「足?」
「そう。機動力の不足をどうにかしたくて。となればブースターを増設するしかないんだけど、あんま置いてないんだよね」
「ありゃ、基本的には特注品だからな」
通常アーマーダイバーの移動はフライフェザーから魔力に反発するリフレクトフィールドを発生させ、その反発力を利用して竜雲海上を滑るという原理となっている。とはいえ量産機では出力に限界があるし、さらなる速度を望むのであればブースターを補助具として装着する必要がある。
しかしブースターを扱うにも維持用のリソースを機体から引っ張る必要があるために、普通であればそうしたリソースは武装に費やされる。
リソース食いの遠距離武器が禁じられている剣闘士はブースター持ちがそこそこいるが、需要を考えれば必要数は少ないために店頭にはあまり並ばず、結果としてオーダーメイドや大手の商店から取り寄せることの方が多いのである。
(最悪、ブルーバレットのテイルブースターを使う? うーん)
悩むルッタにギンナが目を細めて口を開く。
「おいルッタ。今アヴァランチに使ってるフライフェザーはノーマルだよな」
「設定は弄ってるけどそうだよ。言っても選択肢がそもそもないけどね」
現状のアヴァランチのフライフェザーはノーマルなもので、これと言って特色はない。
フライフェザーは魔力の薄い天領上では、ホバーのように滑って移動することはできても、出力を上げても短時間しか飛ぶことはできない。速度優先や出力優先、安定性優先などの特化型もあるが、それはソフトウェア上の設定を切り替えているだけで、自分で設定をいじって幅を持たせられるルッタにとって購入するほどのものではなかった。
「なら、ちょうどいい。ちょっと、ちょっと来い」
「うん?」
「おい。ノックスの親父。奥入るぞ」
ギンナがルッタを連れて奥に進むと、カウンターの店主に声をかける。
「ギンナか。で、そっちは今話題の? おいギンナ。お前、いくら気に食わねーからって子供相手に奥で何しようってんだ!?」
「いやいや、そういうんじゃねーから。こいつが乗ってんの、メテオナックルなんだよ」
「は? いや、そういえば確かにそこの坊主の機体には見覚えあったな」
ノックスと呼ばれた男が、前日のルッタの試合を思い出しながらそう口にする。
「ランダンとこに売られてたんだと」
「メテオナックル? アヴァランチじゃなくて?」
「どういうこと?」
「キー?」
『Pi?』
ふたりに付いてきたメイサたちが首を傾げる。
「ハン。別に隠すこともねーがな。要するに今ルッタの乗っているアヴァランチは元俺の知り合いの機体だったってこった」
「ああ、そうなんだ」
「機体にあった装備を探せば当然、元の装備に行き着く。魔導手甲もそうだな。だが、モノを知らないなら、そもそも辿り着けねえだろう」
ギンナがそう言いながら、奥の扉を開いて中に入るとそこにあったのはフライフェザーの置き場だった。その中でもギンナが「で、アレだ」と言って指差した先にあったのは……
「ずいぶんと短いフライフェザーだね」
それはルッタも今まで見たことがない、羽の長さが3分の1しかないフライフェザーであった。
「こいつはチックフェザーって言うんだ」
「ひよこの羽根?」
「ハンターには馴染みがねえだろうがよ。剣闘士用のフライフェザーだ。元の乗り手はこいつを使ってた」
ギンナはそう言うが、一緒に付いてきたメイサは懐疑的な目をして、それを見た。
「なんだか弱そうですわよ?」
「ハッ、実際ハンター基準で見れば……まあ、そうだな。つーか、竜雲海を飛ぶことを目的としてねえからな。こいつは跳べても飛べねえのさ」
「飛ぶことを目的としていない……地上戦用?」
ルッタの問いにギンナが笑う。
「まあ、使い手はあまりいねえし、ウチの闘技場でも使ってんのは数人ってとこだがな。ただ、こいつは『剣闘士用に造られたフライフェザー』なのさ」