020 第21〜30試合 前編
全試合をちゃんと書いてると普通にダルいのでピックアップしてお送りします。
【第二十一試合 vs 踊る鉄槌 ロウシュ・タイガー】
「クッソ。当たらねえ」
ルッタが毎日十試合を始めてから三日目の最初の試合。相手は中堅剣闘士であるロウシュ・タイガー。かつては序列上位にも届いた腕を持っていた男だが、肉体の衰えにより今では闘技場での立ち位置が中堅にまで落ちている。
とはいえ、彼が経験豊かな戦闘巧者であることには違いない。
「チョコマカと。こいつは背中に目でもついているのかよ!?」
そして彼が乗っている機体はフォーコンタイプのカスタム機。ブースター付きの魔導戦鎚を装備した重量級の猛攻は軽量機体であれば一撃で吹き飛び、即座に試合を終わらせることも可能なほどの火力を誇っている。当たればの話ではあるが。
「こいつ、視覚からすぐに消えて」
『反応が鈍ってるロウシュさん?』
「うるっせぇぞ成り上がりの小僧が。とっとと動きを。クッ」
ロウシュの前で右から左へ。或いは左から右へ。ルッタの乗るモワノータイプのアーマーダイバーは器用に攻撃を避け続け、振り下ろす瞬間には、それを潜り抜けて背後からの一撃を見舞う。
「嬲ってやがるのか。悪趣味なヤツだ」
『ロウシュさんの立ち回りは参考になるからね。悪いけど付き合ってもらうよ』
「たまんねえなぁ。クソがッ」
ロウシュが叫ぶが、ルッタの攻撃は止まらない。だが一撃で倒さないようにクリーンヒットは逃している。言葉通りに相手が自分から学びを得ようと立ち回っている事実に、ロウシュは苛立ち、同時に笑みも浮かべる。
「俺を糧にするかよ。チッ、若い頃にやり合いたかったぜ」
すでに四十後半のロウシュの肉体はかつてほどのキレはない。集中力も徐々に落ち、動きも衰えていく。
『!』
それに気付いたルッタが頃合いかと仕上げに入る。
「クソッタレ。俺の視界外に入り込む。んなの熟練でも意識してできるこっちゃねえぞ」
『そこだよ』
「こいつ、コックピットを狙って。ウォォオ」
そしてルッタの乗るアヴァランチの持つ武器は若干小ぶりではあるが、同じく魔導鎚。それをコックピット付近の胸部へと叩きつけられたことで衝撃によりロウシュが意識を失って機体が崩れ落ち、そのままルッタの勝利が確定した。
【第二十六試合 vs 一撃必殺マン バンバ・ヨタロー】
太陽が頂点を過ぎ、昼を過ぎた頃に始まった第二十六試合。
昼の休憩を挟んではいるものの、さすがのルッタも体力を消耗している。とはいえ、それでもまだ余裕があるルッタの視界に映ったのは対戦相手のアーマーダイバー……の輝く右腕だった。
「俺の拳が光って叫んでるぜ。お前を倒せって輝いたり叫んだりしてるんだぜ。すっごくな」
『おお、セリフは中途半端だけど何それ。そんな兵装見たことないっていうか、その腕は装甲こそ厚くされてるけどカゾアールタイプまんまだよね。改造してる感じはないけど』
対戦相手であるバンバの乗る機体は、瞬間出力に優れたヴァナーフ竜天領の量産機カゾアールタイプだ。
それは以前に一緒に戦った黄金の夜明けのカインとアベルの乗っていた高出力型、そのベースとなった量産機である。
その機体はどこか竜人を模した形状をしており、バンバも「ドラゴンみたいでカッコいいから」という理由で購入していた。だが彼の機体には現在武器といえるものは存在していない。カスタマイズも両腕部の装甲をただ分厚くしただけだ。
けれども、その右腕からは力強く輝く光が宿っていた。
「これこそ神が俺に与えたチート能力。見よ、この輝きを。主人公である俺の前に世界はいずれひれ伏すこととなるのだ。天才少年、お前もその礎のひとつとなれ!」
『ああ、イシカワさんの同類かー。けどチート? 能力? そんなんあるんだ?』
言葉の節々から、対戦相手がどうやら異世界転移者、もしくは転生者のようであるとルッタは気づいた。
実のところ異世界から来た人間というのはこの世界ではそれほど珍しいものではない。ルッタもギンナのような蛇人族よりも異世界転移者の方が遭遇した回数が多いくらいだ。
とはいえ、ルッタの知る限りでは、あからさまなチートな能力を持っている転移者というのはいなかった。
ルッタの操縦技術だって、前世の記憶から引き継いだ技量をこちらで鍛え上げた結果だし、イシカワはリアルチートの類だ。
一応、異世界転移者は高出力型を操作できるほどの魔力量を持っていることは多いが、アーマーダイバーの腕が光って唸るようなチート能力などは知らない。そのためにルッタは首を傾げたのだが、バンバは「あるんだよ」と力強く言葉を返した。
「ただの転移者にはない力が俺にはなぁああ。喰らえ必殺の、オリャァア……アレ? チートの拳が当たらない!?」
『いやまあ、武器はチート頼りで、武器を全部剥いで機動力全振りってのは思い切り良いとは思うよ』
瞬間出力に優れた軽量級の機体からの連続攻撃は確かにキレが良い。己の能力に見合った機体選びと構成。バンバの選択は間違いではなかった。けれども、それだけではルッタには届かない。バンバには技量と経験が圧倒的に不足していた。
『実力が伴っていればだけど……さ!』
そして、ルッタの猛攻が始まる。
試合開始からここまでの間にバンバの間合いはすべて掴んだ。機体の性能も、乗り手の能力も、動きの癖も、光る拳の性能も、すべてをルッタは把握していた。切り札の有無も想定して、油断もしない。
「ウガッ、マジか。おい、待て」
そして、拳を使うと聞いて用意した魔導手甲による乱打がバンバの機体を襲う。そのスムーズな拳の雨は、アヴァランチがまるでこのために設計されているかのようであり、それは正しく拳の雪崩だった。
「反撃、反撃を。俺のターンは!?」
『そういうのはないと思うよ。うーん。ああ、これかなぁ』
何かに気づいたらしいルッタの言葉などバンバの耳には届かない。どれだけアームグリップを振るっても攻撃は届かず、フットペダルを踏んで下がろうとしても、踏み込まれて距離を取れない。バンバのターンは訪れない。
それはまるでハメ技のように全ての攻撃が避けられ、防御も回避も意味をなさなかった。チートだけで戦ってきた男の底は浅く、現実とゲームの違いはあまりにも大きい。
「畜生。俺は主人公のはずだ。主人公のはずなんだ。なんだよ、このクソゲー。なんで魔王とかいないんだよ。もうショタでもいいから俺のヒロインになってくれよ。あああああ、ヤダァアアアア」
そして猛乱打によってバンバ機が崩れ落ちたことで試合が終了し、圧倒的な歓声の中でアヴァランチの拳が天に突き上げられた。
どうでも良い話:
バンバ・ヨタローくんはコーシロー、イシカワ、ザイゼンの異世界転移、ルッタくんの異世界転生とは別口の、別大陸から実験用に横流しされた異世界召喚システム的なものが使用されてこちらの世界に喚ばれています。まあ、別口というか人工的な異世界転移ですね。
そのため、召喚によってこちら側に再構成された時にチート能力が付与されているのですが、この形式だと某研究会の言う新人類にはなれません。家族になれないなんて可哀想ですね。他の異世界転移者と一緒に拐われると不良品扱いで殺されるか、蜘蛛に喰われて殺されるか、実験体として弄ばれて殺されるかしてしまうので気をつけて欲しいものです。
なおバンバくんのチート能力はアーマーダイバーにも付与できるので闘技場の戦績はそこそこ、銃弾には付与できないので飛獣相手にはあまり意味なし。生身で戦う世界ならまあまあ無双できた系で、自分の技術を高めていけば結構良いとこまでいけるのではないでしょうか。
色々書きましたがこの説明文もなんとなく書きたいから書いただけで、バンバくんに主人公補正はないので今後の出番もなければ、彼が掘り下げられる予定もありません。ショタでもいける人という業を背負ってフェードアウトです。さようならバンバくん。