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019 コミュ力の化け物

「ふーふふふふー」

「キキー、キッキー」


 タイフーン号のガレージの中をふたり(?)の笑い声が響き渡る。ひとりはメイサ、自分のアーマーダイバーを買ってもらった浮かれポンチ。もうひとり(?)はタラ、試合に一緒に出させてもらえず、留守番を喰らったことで何故かメイサの頭を仮宿にしている蜘蛛の娘である。

 なお、タラのマブであるシルフのアンは護衛としてルッタのそばにいるので今はここにはいない。この件がふたりの仲に亀裂が入る原因にならないかが心配であった。

 そしてふたりの前にあるのは、ライムグリーンに染められたラギット兵天領製の量産型アーマーダイバー『モワノータイプ』の新造機体だ。

 それは、先日にランダン機人商店で購入したメイサの愛機となる機体だった。


「見てくださいなタラさん。わたくしのライムフィンクスの勇姿を。今はまだ操作を許されておりませんが、整備班の皆様のチェックが終わった暁には、タラさんのブルーバレットとも互角に渡り合ってみせますわ」

「キーキーー」


 フンスと意気込むメイサに「やってみろやー」と気炎をあげるタラである。なお、ブルーバレットはタラのものではない。


「ふふふ、良いでしょう。燃えておりますわねタラさん。ブルーバレットがタイフーン号に戻った頃にはわたくしのライムフィンクスも稼働可能になっているはず。模擬戦で決着をつけますわよ」

「キーーーーーッ」


 テイマーの繋がりもないのに何故か意思疎通ができるメイサとタラ。なお、ブルーバレットやレッドアラームは現在ランダン工房に預けられてオーバーホール中で、ツェットもオーエン整備班長自身が共喰い整備を行うために購入した新造のフォーコンタイプと共に甲板上に寝かされていて、ガレージ内にあるのはメイサのライムフィンクスと、リリのフレーヌだけであった。

 またガレージの角には簡易ハンガーが設置されているが、こちらにはアヴァランチが置かれる予定だ。ハンガーのロックが外れれば、即座に竜雲海へと降下できる船の添え付けハンガーとは違い、あくまでガレージの床上に置かれた仮設のものだが、マガリに譲ったフォーコンタイプは道中ただ床に寝転がされて縛り付けられていただけなので、その頃に比べれば動かしやすくはなっている。 

 その簡易ハンガーを見ながらメイサがフンスッと意気込む。自分のはるか先を行く年下の少年を思い出したからだ。

 

「タラさん、ルッタは楽々と十勝してしまいましたわね」

「キーーッ」

「分かっておりますわよ。比べても仕方ないことですし、わたくしはまだスタート地点に立っただけですもの」

「キーー、キーーーーー」

「ええ、そうですわね。今はまだ。けれどもわたくしもこれからですわ。そしていずれは年上のお姉さんの力をタップリと……」

「おんやーメイサ。誰と話してる…ってタラとかい? え、タラと?」

「シーリス姉様!?」

「キーーッ」


 メイサとタラが話しているとふたりに近づいてくる気配があった。それはメイサにとってのジャヴァ師匠の姉弟子、お姉様的存在のシーリスであった。

 なお、シーリスお姉様はメイサがタラと会話していたことに若干混乱中である。何故意思疎通ができるのか、それが分からない。


「ま、まあいいわ。メイサ、愛機が手に入ってやりましたわーって感じになってるんじゃないかと思ってたけれども、どうやら浮かれ過ぎてるってぇわけじゃないようだね」

「シーリス姉様。わたくしももう子供ではありませんわ。アーマーダイバーを手に入れた今はまだスタート地点。わたくしよりも小さいのに一日で10連勝したルッタを見れば、浮かれてばかりもいられません」

「キキーーッ」


 なお、先ほどまでの浮かれポンチは無かったこととする。対するシーリスの反応は若干鈍いものがあった。


「あー、ルッタねぇ」

「はいですわ。ルッタはすごいですわね」

「うん、すごいよねぇ。ルッタは。ちょっと凄すぎるくらいにね。ただ」


 実のところ、シーリスはメイサが自分とルッタを比べて落ち込んでいるのではないかと気になって、ここに来ていたのだ。

 メイサは、ヘヴラト聖天領の上級貴族であるエントラン家に連なる人間だ。オリジネーターとしての素養こそないものの、高出力型をも操れるだけの高い魔力量を持ち、幼い頃からの英才教育を受けていたために、現時点においても一端のアーマーダイバー乗りと同等に近い技量を持っている。

 また上級貴族として受けるべき教育課程もすでにクリアしているまごう事なき天才児であり、風の機師団に入ったのも叔父のギアに憧れてという面もあるが、成人して騎士団に入るまでもう自領で学ぶことがなく、であれば外の世界を経験させようと両親から判断されたためであった。

 ゴーラ武天領軍からの逃走がなければ、ブルーバレットにはルッタではなく、彼女が乗っていただろうという才媛がメイサ・エントランなのだ。

 そんな近い年頃で並ぶ者すらいなかった彼女にとって初めての同年代の格上がルッタである。


(場合によっては劣等感に押しつぶされるんじゃないかって思ってたんだけどねぇ)


 シーリスが心の中でそう呟く。そうであれば、姉弟子である自分が元気付けてあげなければ……なんて使命感もあってメイサの元にやってきたシーリスであったが、当人を見る限りは全く問題はなさそうだ。どうやらシーリスの妹弟子は、彼女の想像していたよりもタフネスであるようだ。


「なんですのシーリス姉様?」

「いんや、我が妹弟子もあたしが思ったよりも強かのようで何よりだって思っただけさ」

「キーーーーーッ」

「ああ、タラもね」


(ふふ、あたしも負けてられないなぁ)


 そして、えいえいおーと気合いを入れるメイサとタラを見ながら、シーリスはそんなことを心の中で呟いていた。

 その翌日、ルッタ・レゾンとアヴァランチは再び十人抜きを行い、二十戦連勝を達成した。

 この時点で、もはやルッタの実力を疑う者はこの天領に存在しなくなっていた。

 当初の予定ではシーリスの予想通り、メイサはメランコリックな感じになるはずでした。しかし出番がなかったタラちゃんと組み合わせることによりメイサはニッコリ笑顔になったのです。良かったですね。

 そして、タラちゃんのコミュ力が高すぎます。

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― 新着の感想 ―
アニマルセラピー!
タラちゃんが居てくれると戦闘面だけではなくこんな場面でも役立つんだなあ ルッタのとこ来てくれて良かったねえ
タラちゃんのコミュ力…???
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