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011 燕と雀

「マリアさんが来てくれるとは思わなかったけど、軍の仕事はいいの?」


 ランダン機人商店に入ったルッタが、一緒にいるマリアに尋ねた。マリアはギアの娘ではあるが、風の機師団のメンバーではなく、ヘヴラト聖天領軍の軍人である。このショッピングにマリアも参加するとはルッタも事前に聞いてはいなかった。


「問題なーし。軍人の私が一緒の方が揉め事も少ないしー、ママの許可ももらってるからねー。ねーシーリス」

「そっちの事情なんてあたしは知らないよ。ま、マリアは上級貴族だ。こっちが真っ黒なことをしようと真っ白に塗り替えてくれるだろうさ」

「いやー。そういうのはちょっとー。面倒いしー」


(面倒いだけで出来はするんだろうなぁ)


 ルッタがそう思いながら頷いた。

 マリアは上級貴族の娘で、彼女自身もエントランス家の次期当主である上にヘヴラト聖天領軍の中でもオリジンダイバーを駆るエースのひとり。さらに言えばヘヴラト聖天領軍の最高戦力『聖騎士団』の一員でもある。つまり、そこらの貴族よりもはるかに権力を持っている人間なのだ。


(ま、使えるもんは使わせてもらうけどさ)


 シーリスが言うように黒を白にする……などというようなことをするつもりはないが、様々な人間が入り混じる港町では、グレーの事案が発生することは珍しくない。何かあった場合に、頼ることに迷いはないルッタであった。


「それでここの品揃えだけど……ま、そりゃあイロンデルタイプがやっぱりメインだよなぁ」


 ランダン機人商店の店内を見渡すルッタの目に先ず飛び込んできたのは、ルッタやシーリスが乗っている量産型アーマーダイバー『イロンデルタイプ』である。


「そりゃあ、ヘヴラトで製造している機体だからね。ここらでそいつが一番売れるし、当然だろう?」

「そりゃそうなんだけどね」


 ルッタにとっても乗り慣れた機体であり、タイフーン号の整備班も整備し慣れている。メンテナンスを考えれば当然購入の候補には入る機体だ。


「後はフォーコンタイプとモワノータイプに……」

「フォーコンはなしですわ」

「あ、はい」


 メイサは、ゴーラ武天領の量産機はお気に召さないようだった。


(ツェットとパーツが共有できるから、これはこれでアリではあるんだけどなぁ)


 とはいえ、ルッタの中でもメイサ機の選択に上げるつもりはない。これは好き嫌いとは別に、メイサの特性を考えての判断だ。


「メイサ姉は中距離メインで動く予定なんだよね?」

「はい。そうですわね。師匠様のご指導のもとで頑張ってはみたのですけど、長距離からの狙撃ってどうにも向いていないようなので」

「メイサは堪え性がないからなぁ」

「拳がねー。先に出るんだよねー」


 シーリスとマリアのツッコミにメイサが口を尖らせるが、反論はしなかった。事実ではあるが故に。


「ふーん。だったら近距離戦は?」

「師匠様からは、自殺する気がない限りは止めろと」

「そりゃ、そうか」


 その言葉にルッタは頷いたが、そもそもアーマーダイバーの戦闘は銃撃戦メインであり、近接戦闘は本来オマケ要素だ。接近された時のための緊急避難用といっても間違いではなく、FPSでのナイフの扱いに近い立ち位置なのだ。そのため、どれだけ近接戦闘の才覚があっても機体構成は中距離戦メインなのが一般的で、たとえ剣闘士(グラディエーター)であっても飛獣戦では銃を持って戦うのが普通だ。ルッタのブルーバレットも近接寄りではあるが、中距離にも対応できるビルドで、近接オンリーのカイゼル石川がキモがられるのは当然であった。


「メイサは早撃ちが得意だね。二丁持ちでも結構やれるよ」

「へー。となると……」


 ルッタが視線を向けたのは、ラギット兵天領の量産型アーマーダイバーであるモワノータイプだ。

 モワノータイプはアーマーダイバーの平均サイズよりも小型で、出力は若干低いが、故障率が低く、信頼性も高く、小回りが利いて非常に乗りやすい機体である。

 またラギット兵天領は、地理的に他の八天領よりもヘヴラト聖天領とは近く、パーツが手に入れやすいという地理的な優位性もある。また、かの有名なジャッキー流剣術の開祖で知られているジャッキーもモワノータイプの乗り手であった。


「動きやすさを考えるなら、モワノータイプもいいんじゃないかな」

「そうですわねぇ。師匠様も同じことをおっしゃっていましたわ。わたくしとしてはイロンデルタイプの方が馴染むのですけど」

「イロンデルタイプでもいいんだけどね。ただ、小回りを利かすなら、モワノーの方が良いかなぁ。扱いやすさは段違いだし」

「そんなに違うんですの?」

「元々イロンデルタイプで操作してる人ほどそう感じるみたいだよ。アレは扱いやすい機体ではないからね」


 ルッタとシーリスの乗るイロンデルタイプは機動力重視で速度も速いが、如何せん細かい動作となると、モワノータイプには大きく劣る。もちろん乗り手の技量次第でどうにかなる問題ではあるが、軽装甲で防御力も低いために、どちらかといえばイロンデルタイプは、玄人向けの機体なのであった。


「……むむむ。迷いますわね」


 メイサがイロンデルタイプとモワノータイプが並んでいるエリアをそれぞれ見ていると、ルッタは店内の端に置かれてある、とあるモノに気が付いた。


(アレは……)


 それはボロボロのモワノータイプだ。

 この場にあるアーマーダイバーはみな新品か、新品同然に整備されたものではあったがが、そこにあるのはジャンクに近い中古品で、使い込まれていて、かなり老朽化しているようにも見えた。

 そして、ルッタがその機体をもっと近くで見ようと一歩進んだとき……


「なんでガキがこんなとこにいるんだぁ?」


 ガラの悪そうな男の声が店内に響き渡った。

今章のヒロイン登場。

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― 新着の感想 ―
ヒロインw どうなっちゃうんでしょうねえw
ジャッキーの師匠とか?
さらっと、かの高名な、でジャッキー師匠の既成事実化を進めようとするのに草生える
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