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010 ヴィッパー

『オーライ、オーライ。はい、そこで降ろしてくれルッタ』

「コーシローさん、了解!」


 ルッタがブルーバレットを操作して指定の位置へとゆっくりと着地していく。

 そこはタイフーン号内のガレージではなく、シェーロ大天領の港町にあるランダン工房という工房のガレージであった。


「ふーん。さっすが大天領の工房だ。綺麗だし、設備も整ってる」

「キーキー?」

「羨ましいかって? まあね。とは言ってもこのクラスの設備を普通の雲海船内には用意できないからなぁ。整備の専用艦を買う必要があるし、維持だけでもとんでもない額がかかるんだよ。持ってるのも大天領の軍隊クラスとかだけだし」


 ルッタがタラとそんなことを話しながらコックピットのハッチを開き、タラップを踏みながら機体の外へと降りていく。


「お、本当に子供が乗ってる。すごいんだな、君」


 ルッタが機体を降りると、入れ替わるように整備士が近づいてきた。

 その人物は風の機師団の整備士ではなく、着ているツナギにはランダン工房の文字が描かれている。


「あ、どーも。コックピット内についての対応は事前に渡したマニュアル通りですんで、よろしくお願いしますね」

「あいよー。って、うわ。なんじゃ、こりゃ!?」


 整備士がコックピットに入り込むと悲鳴のような声をあげた。

 ルッタのコックピットにあるテンキーもどきは拡張されて、左右にキーボードが並んでいるような感じになっている上に、タラの乗るコパイロット席にも同じようにタラ用のテンキーもどきが設置されていたのだ。

 そんな反応を尻目に、ルッタはそばにいたコーシローの元へと向かっていく。ブルーバレットのそばにはすでにハンガーに固定されているレッドアラームの姿もあった。


「ルッタ、お疲れさん」

「うん、コーシローさん。どんな感じ?」

「ああ。大手だけあって、しっかりやってくれそうだな」


 ルッタの問いにコーシローは周囲を見渡しながら、そう返した。

 大天領の工房だけあり、ルッタが見る限りでもここの整備士の腕は高いように思われた。


「けど、ちょうど良いタイミングだったよね」

「ああ、天領に長期留まれる機会がしばらくなかったからなぁ。それにお前のカードも役に立った。随分と値引きしてくれたみたいだぜ」

「ホント? いや、ありがたいね」


 コーシローがルッタにカードを投げ渡した。

 それは以前にルッタが盗まれたアーマーダイバーを取り戻した際にランダン商会からもらったVIPカードだ。シェーロ大天領に到着した風の機師団だが、彼らが到着の翌日にまず行ったことはブルーバレットとレッドアラームのオーバーホールの依頼をシェーロ大天領内の工房に依頼することだった。

 それはこれまで長期に渡ってゴーラ武天領軍から逃げ回っていた風の機師団にとっての急務であり、ようやく逃亡生活から逃れて、緊急の状況に備えなくなって良くなったからこそ可能となったことだ。

 なお、フレーヌは自己再生、及び整備ドローンが対応するためにオーバーホールを依頼することはないし、ジェットの愛機であるツェットは特殊な機体で、民間の工房では対応ができない。そのために、整備班班長でツェットの専属整備士でもあるオーエンが機導核を抜いたフォーコンタイプ一機を買い上げた上で共食い整備を個別におこなっている。


「そういや、ウチに来た時も修理メインだったよね」

「あんときはなー。ま、今となっちゃもうずいぶんと懐かしい感じだ」

「……確かに」

「ちょっとコーシロー。油売ってないで手伝いなさいよ」

「あ、悪いラウラ。ルッタ、俺たちは備品の発注しにいくからよ。メイサの方はよろしく頼むわ」


 レッドアラーム専属整備士であるラウラと、整備班の面々が近づいてくるのを見たコーシローがそう言い、ルッタも「了解」と返して頷いた。


「あと、俺の方も良いのあったら頼んじゃうから。スペースは空いてるよね?」

「ああ、『あの件』な。問題はないが固定具は別個で発注してくれ。揺れが激しいと外れるかもだからな」


 その言葉にもルッタは頷き、それから出口の方へと歩き出した。


「Pi」

「キー!」


 そしてガレージの外に出ると、タレットドローンのアンが近づき、それに気づいたタラがルンタッタとルッタの頭の上からアンの背へと飛び乗った。ふたりは仲良しだ。


「遅いですわよルッタ」

「落ち着けメイサ。ルッタは仕事だ。あたしの次に降りてきたんだから別に遅くもないだろ」

「そうねー。遊んでるわけじゃあないしー」


 さらにはメイサ、シーリスに、なぜかマリアも一緒に待っていた。


「むむむ、分かっておりますわ」


 メイサの鼻息が荒く、まるで闘牛みたいだな……とルッタは思ったが、口には出さない。

 メイサはこれから自分の愛機となるアーマーダイバーを購入することになるのだ。テンションが昂まるのも仕方のないことだった。


「まあ、メイサ姉が興奮するのも分かるけどさ」

「こ、興奮していませんわ」


 発情した猫……というよりはやはり興奮した闘牛のようだなと感じたルッタだが、やはり指摘することはなく、目的地に向かって移動を始める。


「それじゃあ、メイサ姉の機体を買いに行こうか」

「はいですわルッタ」


 向かう先はランダン工房のガレージに隣接する販売店だ。

 そこはアーマーダイバーのパーツから本体まで取り扱っているランダン機人商店。


(さーて。見つかるといいんだけどなぁ)


 ルッタが狙うのはメイサの機体と、そして……

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― 新着の感想 ―
ルッタがお姉ちゃんに辛辣ううう! でも口に出さない分別はあるんだな。
ブルーバレットの整備とかめっちゃ大変そうやなあ
発情した猫だの興奮した闘牛だのルッタのメイサに対する心象がヒドイwww
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