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008 スパイダーコントロール

「キーーーーー!」


 シャカシャカシャカ、シュタッ。


「な、なんですの!?」

「魔獣の子供か?」


 ルッタがジャヴァたちと話をしていると、どこからかボール状の影が高速で近づいてきて、そのままルッタの頭の上にポーンと飛び乗った。


「おお、タラちゃん、ただいまー」

「キーー」


 それはルッタのパートナーとなった蒼蜘蛛のタラであった。

 警戒して構えたジャヴァもルッタの反応を見て、それが敵ではないと気づいた。

 一方でメイサはお目目グルグルの混乱中だ。


「ああああ、ルッタが食べられますわー。いけません。師匠様、ペシンてしてくださいまし。ペシンって」

「落ち着けメイサ。アレは問題ない」

「あーうん。メイサ姉。こいつは俺の従魔だよ」

「な、ルッタ……テイマーでしたの?」

「最近ね。なったんだよね」


 流石にヘヴラト聖天領軍の戦艦内には連れていけないと判断され、お留守番していたタラである。

 留守番中は、コックピットの中で差し入れの勝利の果実でひとり乾杯をしていたのだが、ルッタが戻ってきたのを察知してこうして飛び出してきたのだ。


「タラちゃん、体の調子はどう?」

「キーー」

「問題ないか。じゃあ今後もいけそうだね」

「キーー」

「キーしか言ってないのに会話が成立していますわ」


 メイサがルッタとタラのやりとりを見て目を丸くしている。

 メイサからすれば、タラはただ鳴いているようにしか聞こえないが、ルッタにはそうではないらしい。


「メイサ。テイマーとテイムした魔獣は魔力のパスを通じて意思疎通ができる」

「はー、なるほど。そういうものなのですのね」


 メイサがジャヴァの説明に感心していると、騒ぎを聞きつけて甲板に上がってきたクルーたちが「お、メイサじゃねえか」と声を上げた。


「なんだメイサちゃんも乗ってたのか。ジャヴァさんもいるぞ」

「ジャヴァさんはさっきからいたっての」

「ちょっと。手ェ空いてるやつは呼んでこい」

「おーい。ふたりが帰ってきたぞー」

「その通りですわー。わたくしが戻ってまいりましたわー」

「あ、いっちゃった」


 騒ぎが大きくなって、メイサがクルーたちの方にトテトテと走っていく。

 その様子を見ているルッタにリリが口を開く。


「メイサは昔からああいう子。ルッタはああいうの好き?」

「ああいうの? 騒がしいのってこと? んー、ほどほどかな」

「そう。じゃあリリもほどほど」

「うん。ほどほどが一番だよ」


 リリのイメチェン計画は頓挫した。

 それから、その日の夜は戦勝記念とメイサとジャヴァの帰還パーティとなった。

 そのパーティでは、ロブスタリアやドラゴン肉なども振るわれ、招待されたミーアたちヘヴラト聖天領軍の面々も舌鼓を打ち、これまでの旅の話やルッタの活躍、またルッタが乗る前のタイフーン号の話なども盛り上がることとなった。

 一方で、ルッタたちがパーティをしている間もゴーラ武天領軍は反撃に出ることもなく、撃破された機体や乗り手、戦艦の乗員の回収を行ってからこの海域を離脱。翌昼には、それを見届けて戻ってきたマリアがパーティのことを聞いて不貞腐れたりもしたが、ボイルしたロブスタリアを振る舞ったことで機嫌を持ち直した。

 そして、ゴーラ武天領軍も退いたのが確認できると、タイフーン号と第五兵団の船団は元々の目的地であったシェーロ大天領への移動を開始したのである。




———————————




「タラちゃん。どうだー?」

「キー」


 カチャカチャカチャという音が響くコックピットの中でひとりと一匹の声が響く。

 彼らは第五兵団と共に移動中のタイフーン号のガレージ内、ハンガーに固定されたブルーバレットの中にいた。


『ハァアア、これがブルーバレットですの? 完全に別物ではないですの!?』


 そして作業中に、外部マイクがメイサの声を拾ったことにルッタが気付いた。


「メイサ姉、どったの?」


 胸部ハッチを開けて顔を出したルッタにメイサが「あら、いたんですのねルッタ」と返す。


「昨日はあのままパーティーになってしまったでしょう。ブルーバレットがずいぶんと様変わりしたと聞きましたし、気になったので見にきたのですわ……で、本当に変わりましたわね」


 メイサが驚いた顔をして、そう口にする。

 拡張されて五機収納可能となった船内ガレージの光景もメイサには新鮮だったが、置かれているフレーヌ、レッドアラーム、ツェットの姿にほとんど変わりはない(メイサにはスナイパースタイルのレッドアラームの方が馴染みがある)。だがブルーバレットは違った。


(全身が青と黒のツートンなのは良いとして、尻尾が付いておりますし、頭部が交換されていて角付きになっておりますわ。アレは高出力型パーツですの? 関節部も黒い……武器も特注品の二刀流に、こちらも普通のものではない缶詰のようなものがついた……散弾銃? タクティカルアームに持たせたあのやたら威圧的な兵装は……銃口がいっぱいありますけどアレ全部から弾が出ますの? それにあのお胸)


 デーンと突き出た胸部にあるドラゴンヘッドは(かぶ)き過ぎていて、どう考えても量産機の姿には見えなかった。


(うーん。本当に全くの別物ですわ)


 もはやメイサが知っているブルーバレットとは、まったく別の機体と言った方が正しく思えるほどに別物だ。少なくとも量産機にはまったく見えない。

 元々メイサは、風の機師団内では予備の乗り手としての役割を担っていた。

 乗り手としては若過ぎではあるが、メイサは高出力型も操作できる魔力量と、上級貴族の家柄であるために乗り手の訓練を幼き日より受けてきている。その実力だけでいえば、現在でもランクD相当の実力はあるだろう。

 故にふたつ前のブルーバレットの乗り手が引退して船を降りた時には、ついに自分が……という期待がメイサにはあった。けれどもゴーラ武天領軍に追われている中で、実戦の中で乗り手を育てられるような状況でもなく、即戦力としてケニーという流れの乗り手が次の搭乗者としてクランに入ることとなった。

 そんな最中に、メイサはジャヴァと共にタイフーン号を離れ、ヘヴラト聖天領に向かうこととなり、現在に至っている。


(わたくしが乗るはずだった……なんて泣き言は口にできませんわね)

 

 状況が違っていれば、ゴーラ武天領軍に追われることがなければ、ブルーバレットに乗っていたのはメイサのはずではあった。だが、ここまでの旅の話を聞けば、自分が乗っていてどうにかなったとは到底メイサには思えない。

 この機体はもうルッタのものだとメイサにも理解はできている。だが、それはそれとして……


「悔しいですわね」

「え、何?」

「なんでもありませんわ。それでルッタは整備ですの? 乗り手で整備士というのは本当なのですのね」

「んー。整備というか調整かなぁ。昨日はぶっつけ本番だったし」


 そう口にしたルッタが、右腕を動かしているブルーバレットへと視線を向ける。

 一方でその様子にメイサはギョッとした。


「え、なんで動いているんですの?」


 乗り手であるルッタが操縦席から離れているのに、ブルーバレットが動いている。それは肉体の延長線上の形で操作するアーマーダイバーの原理から言えば、本来あり得ない光景だ。


「タラちゃんが動かしてるんだよ」

「タラちゃんって、ルッタの獣魔の蜘蛛さんですわよね」

「うん、そう」

「アーマーダイバーの操縦もできるんですの? え、蜘蛛が?」


 ルッタが頷き、操縦席内から「キーーーーー」という声が聞こえた。それはやったるでー的な意気込みが込められた咆哮であった。

 現在ルッタがしているのは『タラ単独によるブルーバレットの操縦』のための調整だ。

 それは理論上は可能ではあるが、人を拡張することを目的としたアーマーダイバーの原理からは、やはり外れている。タラとて操作できる部位は限られているし、単体での制御は本来不可能なはずではあった。

 そこでルッタが行ったのはタラ用のテンキーもどきを追加することで、キー操作による操縦をさせようというものだった。言ってみれば、擬似的なアサルトセル風のコントロール。コーシローのセッティングとルッタの調整によって、人型ではないタラでも戦闘が可能なように改造しているのである。


「そ、そうですの。蜘蛛が乗り手に」


 そんな説明をしているルッタに対して、まだ自分の機体ももらえていないメイサの自尊心が微妙に傷ついたのは致し方ないことだろう。乙女とは傷つきやすいものなのだ。

 シェーロ大天領に着けば自分の機体が手に入る。そのことに期待を抱きつつ、蜘蛛にも負けたメイサは瞳に浮かんだ涙をこっそり拭うのであった。

 ようやく今章の導入部終了。8話もかかっちまいました。

 そもそもこの章、15話くらいで終えるつもりだったのになんで俺は今26話目を書いているんだろう。

 不思議なこともあるもんだな。

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― 新着の感想 ―
タラちゃんは子蜘蛛を産んだりはしないのかな? 産んだらビットとかファンネル見たいのに乗り込んで自律浮遊砲台みたいに出来るのに。
タラちゃんの専用機って訳でもないけども蜘蛛も乗ってるのに自分は……って沈んじゃってるなあw これは特殊事例すぎるから気にしすぎない方がいいわよ
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