004 アイキャンフライ
日々は過ぎ、ルッタがタイフーン号に乗り込んでから三週間、動けるようになってから二週間が過ぎた。
ルッタにとって目下の課題であったフィジカル面の向上はそう簡単に成果が出るものではないが、日々の訓練とヴァーミア天領にいたときに比べて食事事情が変わったことで健康面は以前よりも改善されていた。
またその間にタイフーン号はゴーラ武天領属ではない天空島ブラギア天領に一度上陸し、そこでルッタ用のダイバースーツを用意してもらうこともできた。完全なオーダーメイドということもあって一週間はかかったが出来栄えについての問題はなく、そして……
「ようやく本格的にやれるなブルーバレット」
ルッタは今、ブルーバレットに乗って竜雲海を飛んでいる。実際のところは飛ぶと表現するものの、その操作感は雲の上を滑るという感じに近いものがある。これはフライフェザーが発生させているリフレクトフィールドが竜雲海の雲の魔力に調整されているためだ。
「それにやっぱりダイバースーツってのはすごいな。身体がキッチリ固定されてるし」
また現在のルッタは機体と同様に青を基調とした、ボディラインがはっきりと出ているダイバースーツを着用している。
ここまでにもブラギア天領周辺での試運転は何度か行っていたのだが、ダイバースーツを着て本格的に動かすのは今日が初めてのことでルッタの表情は明るかった。
そしてルッタの乗るブルーバレットの左右に並行してリリの乗るフレーヌとシーリスの乗るレッドアラームが飛んでいる。
『ルッタ。調子どう?』
「リリ姉。うん、悪くないよ。ダイバースーツも問題なく機能してる」
リリからの通信にルッタがそう答える。
ダイバースーツは操縦席のアタッチメントに繋げることで体を固定し、また付与魔術によってアーマーダイバーの操縦にかかる衝撃を抑えてもくれる魔導具の一種だ。その性能がどれほどのものか試すようにブルーバレットがギュンッと加速し、回転しながら舞うように竜雲海を突き進んでいった。
『ルッタ。あんまりはしゃがないの。あんたが今必要なのは加減を覚えることなんだからね』
「シーリス姉、分かってるけどさぁ。でも、本当にブルーバレットの調子がいいんだよ」
ゴーラ武天領軍と相対した時の、各パーツをつなぎ合わせただけで出力バランスぐだぐだのポンコツ状態な機体はもういなかった。現在のブルーバレットはコーシローとルッタが手を加えて調整を完璧に仕上げており、ルッタは機体がまるで自分の手足の延長のように感じられていた。
なおブルーバレットの武装は魔導銃、魔導剣にゴーラの機体から奪った総弾数三発のロケットランチャーを積んでいる。
『その様子ならあたしらが引きずって連れ帰る必要はなさそうだね』
「モチのロン。今ならあのノワイエだって倒せると思うよ」
ラガスの乗るオリジンダイバーノワイエ。決して容易な相手ではないが、それでももう一度戦えば倒せるだろうとルッタは確信している。
『そのときは勝ってもまた船医室送りかも?』
「う……。ま、まあ。体は鍛えてるし、ダイバースーツも着てるし、あの時ほど酷くはならないって」
『そうね。そう願うわ』
リリとシーリスの返しにルッタが肩をすくめる。
とはいえ、ルッタも前回の戦いの反省から自分の限界値の見極めはある程度できている。
それでもまたノワイエやそれに準じた敵が出てくるのであれば限界を超えようと戦うつもりではあるのだが。
「帰るまでが遠足ですってね。そこらへんは理解してますよ。それに今回は俺のアーマーダイバー乗りとしての初仕事だ。失敗しないよう慎重にやるつもりだよ」
『そうだよ。あたしらはハンターだからね。臆病なくらいがちょうどいいのさ』
シーリスの言葉に頷きながら、ルッタは手元の依頼書を見る。そこにはブラギア天領のハンターギルドで受けた依頼の内容が書かれていた。
依頼内容は無人島に巣食う飛獣の討伐。確認されている飛獣の名は甲殻獣ロブスタリア。それはランクCに該当する10メートルを超える巨大な飛獣であった。