002 スコア
(白髪でオリジネーターっぽいけど、瞳の色は青いし、顔立ちも若干違うかなぁ)
目の前で自己紹介をしてきた女性を、ルッタは観察する。
雰囲気と外見はリリに似ている。オリジネーターの外見的な特徴は、シンメトリーの整った人形のような顔立ち、白髪に緑の瞳とされている。ミーアもそのオリジネーターに近い外見なのだが、瞳は青く、顔も整ってはいるが、シンメトリーとは言い辛く、有り体に言えば人間臭くルッタには感じられた。
(ヘヴラトはオリジネーターが興した天領ということだし、オリジネーターの血が流れてるってことかな)
「よろしくミーアさん。俺はルッタ・レゾン。ギア艦長の下で乗り手をしてるんだ」
「よろしくルッタ少年。メイサのひとつ下だとは聞いていたんだが、思ったよりもちっこいね」
ルッタの見た目は実年齢よりもふたつかみっつは下に見えるが、ルッタも「現在成長中だから」と返して肩をすくめた。
タイフーン号に乗って、栄養価の高い食事を与えられるようになったことで、ルッタも年相応の体つきになりつつはあるのだが、そもそもルッタは同年齢と比較しても元々小柄であったようで、外見の変化はそれほどなかった。
「艦長に呼ばれてるって、シーリス姉に言われて来たんだけど。このよく分からない修羅場を見せるために呼んだの?」
ルッタはつい先ほどまでたった一機でゴーラ武天領軍を相手取り、オリジンダイバーを五機、戦艦も二隻落とした後、迎えにきたシーリスと合流を果たしていた。
そしてルッタはヘブラト聖天領軍の第五兵団エンジェルラダーの介入により、ゴーラ武天領軍が撤退したことと、第五兵団の団長がギアの奥さんであることを知らされ、艦長が呼んでいると言われてここまで案内されてきたのである。
「違うわ。顔見せだ。顔見せ。一応ウチはヘヴラトの軍とも交流があるからな。特に乗り手ならこっちのオペレーターともやり取りすることもある……って名目で連れてこいってミーアに言われたんだよ」
「ありゃバラされた」
ミーアがそう言って笑い、また彼女以外のヘヴラト聖天領軍のクルーは今全員がルッタのことを注視していた。
「ウッソだろ。あの子が本当にさっきの青いやつの乗り手か?」
「まだ子供じゃない。メイサよりも小さいし」
「だが立ち振る舞いは歴戦の……いや、分からん」
ボソボソとした声が聞こえる中で、ミーアが話を続ける。
「旦那に頼んで呼んだのは私だね。まあ、こっちのお仕事の一環だと思っておいて欲しいね」
「お仕事?」
「そうだよ。ルッタ少年はさ。八天領が竜雲海を八つに分けた海域を、その内部を大天領、天領がそれぞれ管理している構造なのは知っているだろう?」
「八天条約のことだよね。詳しくは知らないけど、ここはヘヴラト聖天領軍の縄張りで、ゴーラ武天領軍のではないって感じ?」
「まあ、そうだね。隣接する八天領の海域は境界が曖昧ではあるんだけど、とはいえ、ゴーラ武天領軍がシェーロ大天領近くまで来たってのはかなり問題でね」
八天条約において竜雲海はどの天領にも属さぬと定められているため、迂遠に管理という言葉を使用しているが、それはそれぞれの軍の活動範囲と置き換えても良い。許可のない管理海域への侵入は他天領への侵略行為の禁則事項に該当する。
そしてミーアの言う通り、今回のゴーラ武天領軍の動きはかなり踏み込んだものとなっていた。
「元々、私たちは複数の天領が飛獣の襲撃を受けたっていう報を受けたから、念の為にシェーロ大天領に駐留していたんだ。さらにアンカース天領奪還作戦の情報を得て、何が起きても対処可能なようにこの海域を巡回していたわけなんだが、そんな時にゴーラが暴れているってぇ状況だ。オマケに襲われてるのが私の旦那の船となれば、そりゃ駆けつけるのが当然だってのは分かるだろ?」
自分の庭でお隣さんが大暴れ。しかも相手が身内となれば、そりゃ駆けつけるか……と、そんな認識でルッタも頷いた。
それからミーアは「とはいえだ」と言って、肩をすくめた。
「いざ駆けつけてみれば、まさか風の機師団だけで、オリジンダイバーとアーマーダイバーを合わせて80機以上、戦艦2隻を落とし、決戦兵器も足止めした……だからね。そのほとんどが君の活躍だ。報告を受けた時には我が耳を疑ったよ」
「ああ、そんなに落としてたんだ。ん? けど、そういうのどうやって分かるの?」
ゲームではないのだから、スコアが勝手にカウントされているわけではなく、実際ルッタも自分が落とした数はある程度把握してはいるものの、確実に落ちたのか、小破で復帰したのかまでは分からない。だが今の話を聞く限りでは、ミーアはかなり詳細に情報を得ているようだった。
「ミーアのところには情報収集メインのオリジンダイバーがあるんだ。まあ俺の娘が乗ってるんだがな」
「え? 艦長って娘さんもいたんだ」
ルッタにとってはそれも初耳だった。一方でギアの方は少しばかり照れくさそうに、同じくらい申し訳なさそうな顔をしながら頷いた。
「まあな。年に一度会うか会わねえかって感じで、父親ヅラできる立場じゃねえんだがな」
「そんなことないよ。あの子はあんたに憧れてウチに」
「ママァ、戻ったよー」
ミーアが何かを口にしようとしたところで、誰かの声がそれを遮った。
そしてルッタがその声のした方へと視線を向けると、ブリッジ入口から誰かが入ってきたのが見えた。
(リリ姉……いや、誰だ?)
それはリリを大人にしたような、ミーアを若くしたような容姿の、銀髪碧眼の女性であった。