002 異世界転移?
ルッタがジェットの訓練に参加することを決めたのは、先の戦闘で一番ネックだったのが自身の身体能力の低さであり、つまりは鍛え方が足りなかったことを理解したためだ。
結局ルッタがダメージを負った主な原因は敵の攻撃よりも自身が行った変態機動の負荷によるものだった。それはそこまで無茶な動きをできなかったテオドール修理店での作業では分からないことだったし、テオもそれを理解はしていたがルッタを成人になるまでに仕上げるつもりだったため、カバーできていなかった。
けれども、ルッタはもうアーマーダイバー乗りになってしまった。子供だからできないというわけにはいかない。何よりもルッタ自身が己が十全にアーマーダイバーを操作できないという事実が許せない。
なお操縦の際の乗り手の負荷はアーマーダイバー乗り専用のダイバースーツによってある程度は抑えられるものの、子供の身体能力ではアーマーダイバーを、それもルッタのように変態的な動きを行った場合の負担は大きい。
(分かっているつもりだったけど、まるで筋肉が足りなかった。今日まで不摂生だった自分を殴りたい)
「ルッタ、お前はまだ体を治したばかりだ。頑張るのはいいが無理はするな」
「はい。気をつけます」
それからルッタはジェットの訓練を見よう見まねで行い、途中でバテたりゲロを吐いたりもしたが、昼までには一通りを終え、昼食を食べた後は意気揚々とガレージへと向かった。
そこにはオリジンダイバーを含む四機の機体が並んでいて一番手前にはイロンデルタイプの青い機体がハンガーに固定されていた。
「お、来たか。待っとったよルッタくん」
「はい。塗装完了したんですねコーシローさん」
ルッタを出迎えたのはアーマーダイバー整備班のブルーバレット専属整備士であるコーシロー・ジンナイだ。ルッタの午後の予定はコーシローとブルーバレットの整備を行うことだった。
「うん。ジェットさんの『ツェット』は黒、シーリスの『レッドアラーム』は赤、で『ブルーバレット』は名前の通り青だ。それよりもええの? 青は僕の好みだけど君が望むならカラーも名前も変えるよ?」
その言葉にルッタは首を横に振る。
「青でいいです。いや蒼が良いんです。それにブルーバレットって名前も気に入ってますよコーシローさん」
ブルーバレットと蒼色は風見一樹のアサルトセルでの愛機の名前とカラーで、プロゲーマーになる前から彼のトレードマークとして知られているものだった。
「んー、そうなら僕も嬉しいね。こいつは僕がここに来て搬入から設定まで全部手がけた最初の機体だからね。むかーし『憧れた機体に近づけよう』と設定してるんだけど。はは、なかなか上手く行かないジャジャ馬でね」
そう言って笑うコーシローをルッタはジッと観察する。
(コーシロー・ジンナイ。この人って……)
黒髪に平たい顔、そして名前。
初めて見た時からルッタはこの人物の特徴が前世の自分と同じ人種だと感じていた。
なお、ルッタは死んでこの世界に生まれ変わったことで両親の遺伝子を受け継いだコーカソイド系の容姿をしている。髪の色も青で、黒髪ではない。だから生まれ変わりは人種が前世に沿うわけではないのを知っているし、この世界にはモンゴロイド系もいるにはいるが、ルッタが会ったことがあるのはインドネシアやマレー人に近い南方系の外見であった。
(そもそも青い機体のブルーバレットって……偶然にしては出来すぎてるだろ。コーシローさんってもしかして前世の俺のフォロワー?)
ブルーバレットの名前とカラーはルッタと出会う前から付けられていたもの。であれば、それはルッタを意識したものではなく、コーシローが以前より青い機体カラーのブルーバレットを知っていた、前世である風見一樹のフォロワーであると考える方が自然だ。
(でも俺が生まれたのは十二年前だから……コーシローさんが転生だとするとブルーバレットを知っている時期がおかしいわけで)
そう考えるとルッタの目の前にいる男の正体は異世界転生ではなく……
(もしかしてこの人、『異世界転移』してきた人じゃないのか?)
なおルッタくんは転生時期にズレがある可能性を考慮していない模様。