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053 誤った選択

 バッキィイン


 破砕音と共に蟲の脚が一本、宙を舞った。


『あれ、避けた?』


 リリの一撃が放たれ、そして天導核に取り憑いていたはずの赤い巨大蜂が消えた……そう思えるほどの速さでクィーンビーは移動していた。

 一瞬の攻防。けれどもリリの攻撃を避け切れなかったクィーンビーの脚の一本は斬られたようだ。


『踏み込みが甘かったかな。失敗失敗』


 リリがそう言ってキャリバーを構え直す。

 それは機体の不調に加えて、天導核を傷つけぬようにと立ち回った結果であり、リリとしても不本意ではあるが仕方がないと考えていた。

 対してクィーンビーは顎をガチガチと噛ませながら怒りを露わにしているが、即座にリリへと仕掛けることはなく、そのままデュアルセイヴァーのそばへと移動していき、また近づこうと動くルッタたちとラインたちを牽制するようにナイトビーも周囲に展開していく。


(うーん、すぐにやる? いや、どちらも留まったか)


 突っ込もうかと悩むルッタだが、ラインとヒムラのどちらも即座に動き出す様子がないことを察して射線に入らないように移動しつつも様子見に入る。


『本当にイレギュラーが続くなぁ。スーサイドビーによる崩落で全滅させたとまでは思わなかったけど、リタイアが一機だけとはね』


 地上でギアがスーサイドビーと呼んでいたが、ヒムラも同じ名前を付けていたようである。

 そしてヒムラの言う通りにアベルの機体カストルの姿はなく、またザイゼンの乗っているニンジャのバックパックウェポンもなくなっていることにルッタは気付いていた。


(カストルがなく、フライヤーも外れてる。壊れたのか、もしくはアベルさんが機体を壊して乗り換えて戻ったのかな?)


 状況からそのように察したルッタは、ここに辿り着いた機体をそれぞれ観察するが、他の機体も大なり小なり崩落の影響で損傷しているようだった。むしろフレーヌが一番傷ついておらず、リリは崩落を免れていたようだとルッタは推測した。


『それにどうやってここまで来たんだろうね。天井から出てくるというのも意味が分からないし』

『ああ、なるほど。君たちアルティメット研究会は天領の構造までは詳しくなかったようだね』


 ヒムラの疑問にラインがそう返す。

 ラインの乗るシトロニエは天井を破壊する際に発動させたブーステッドをすでに止めており、機体を覆う黄金の輝きは消えていた。


『元々天導核からの魔力を島全体に円滑に流すための島の血管のようなものを拡張したのが血脈路なんだけど、それとは別に領主専用の緊急用隠し通路も存在していてね。上位の貴族でもなければ知ることすらないだろう話だけどさ』

『オイオイ、ライン団長。俺らぁそんなの聞いてないんだけど?』


 抗議の声をあげたイシカワに『そりゃあ伝えていないからね』とラインが返す。


『そもそも隠し通路はアーマーダイバー一機がどうにか通れる程度の広さなんだ。待ち伏せがあったら対処が厳しいし、今回は血脈路経由から力押しで突破する予定だったから伝えてなかったのさ。本来は知られてはいけないものだしね』

『なーるほど? あー、まあ秘密保持を考えればそうか。ということは……アレ、待ってくれ。そうなると俺たちやばいこと知っちゃったんじゃ?』


 イシカワが慌ててそう言うが、その様子にラインが肩をすくめる。


『大丈夫だ。一度使用したら潰して新しいのを用意するからもうここを使うこともないだろうさ。ま、公然の秘密的なところはあるけど、存在自体が口外御法度だから気を付けるように』

『ハッハッ、言ワナイヨ、絶対ニ』


 イシカワが冷や汗をかきながらそう返す。信用のできない人間の返事だった。


『それであなたが領主しか知らない通路を知っている理由は……ああ、ここの領主は逃げていたっけ』


 アンカース天領は飛獣の手に落ちたものの、住人が皆殺しになったというわけではない。島から逃れた者も多く、流民として各天領に流れているし、領主一族は優先して脱出し、現在はジアード大天領に保護されている。


『そういうことだなヒムラ。ハンター軍団の指揮を任された私だけは事前に報告されていた。使うとは思っていなかったが……とはいえ、血脈路に易々と入らせたこと自体、そちらの対応が甘かったと言わざるを得ないがね』


 ラインは血脈路に入る際の妨害がほとんどなかったことに疑問を抱いていた。もちろん、事前に隠れていたフォートレスビーの襲撃があったにせよ、入り口であれば何かしら隠すなり、防ぐなりできたはずなのだ。

 籠城戦に入られれば、ラインたちの方が苦しいのは確実だった。なので、まるで誘い込まれたかのようにとラインは感じていたのだが、実際その認識は正しい。そしてヒムラが『ハァ』と溜め息をついて口を開き……


『確かにね。認めますよ。希少なオリジンダイバーがいるからと僕は欲をかきすぎたようだ』


 そう慚悔するように言ったのだった。

 ルッタとイシカワがいなければねーという話。

 分断されてたどり着いたのがラインだけならクィーンビー&デュアルセイヴァー相手にラインは敗北。心臓室に辿り着けないリリは戻ってボロボロのハンター軍団と共に撤退戦。

 リリだけならクィーンビー&デュアルセイヴァーの長期戦。結果はクィーンビーは討伐したもののヒムラは逃走。その間に地上とラインたちは全滅……だったかもしれない。

 ゲーム的に言えば時間制限付きな上に用意されたダブルボスには倒す順番が存在するステージ。またレイド戦なのでソロだと火力が厳しい。そして現実は……

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― 新着の感想 ―
[一言] どっちにしろヒムラ戦略的敗北は確定だったの草生える 現実?ただの蹂躙ですねえ…
[一言] ヒムラはルッタがほぼ量産機単騎でランクA撃破を成し遂げたという事実をもっと重く受け止めていたほうが良かったですよねえ
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