051 仲良死
『クッソ。思ったよりもやるなぁヒムラさんよぉ。そのビルド、アップデートで弱体確定だぜ?』
ナイトビーをかわしながらデュエルセイヴァーに近づこうとイシカワが動き回るが、ヒムラも間断なく全自動式魔導散弾銃を撃ち続け、接近の隙を与えない。
『あなたの四連パイルバンカーも大概だと思うけどね』
『バッカ。俺のは自分の腕でどうにかしてるだけで誰でも無双できるお手軽ビルドとはワケがちげーんだよ』
「でも最大攻撃で一発KOな装備だとやっぱり調整対象にはなりそうかなー」
『確かに!?』
ルッタのツッコミにイシカワは納得し、ヒムラはそのやり取りの違和感に気づけなかった。
『つーか、んなこたどうでも良いんだよ。おい、ヒムラ。テメェ、俺と同じ日本人なんだろ。なんでこんな馬鹿なことをする? イカれてんのか?』
『こんな馬鹿なことねえ。同じ日本人なら分からないかな。上でも言ったけど、すべては平和のためだよ』
『ああん!?』
ふざけた答えにイシカワが唸り、ヒムラが肩をすくめる。
『難しい話じゃあないよ。僕らが目指すのは平和だ。けれども平和の維持には力が必要なんだ。家族を守る力。理不尽を退ける力。何者にも脅かされぬための絶大的な力。力、力、力だ。力がなければ生き残れない。飛獣という存在がいるこの世界でそれは確かな真実だ』
『こっちの世界が俺らの世界よりもブン殴って言うこと聞かせる方が早いことが多いのは確かだがなー。だからってこれか? 無関係な人間大勢巻き込んで、殺して、住む場所奪って。それが平和のためだってのか?』
『その通りさイシカワさん。すべては平和のため。僕らは平和を手に入れるためなら戦争も辞さない覚悟で戦っている』
『ラリってんじゃねえぞ糞デブ』
加速するヘッジホッグのトッツキは、けれどもデュアルセイヴァーからの散弾の雨の前には届かない。
「平和のための力ねぇ。その力ってのがつまりはランクS飛獣ってことだよね? ラインさんにも言っていたし」
『その通りだよルッタくん。それも含めて僕ら『家族の平和』のための力だ』
『何が家族だ。人殺しが』
『今は分からないかもしれない。けれどもイシカワさんも生き残って家族になってくれれば分かるさ。ルッタくんは無理だけどね」
「だってさ。良かったねイシカワさん?」
ルッタの言葉にイシカワが『良かねえわ』と怒鳴った。
『沢山の美少女相手ならともかく、何が悲しくて自己啓発系の小太り糞おっさんと家族にならなきゃなんねーんだっての。どんな罰ゲームだ? ふっざけんなよ』
『沢山の美少女? あー、イシカワさんってハーレムとか好きな人なんだ。家族になるとしても身内に対してもそういう目を向けられるのとか僕は生理的に無理なタイプなんだよね』
「それは分かるかな。大体ハーレム? アレって、本当にいいものなの? 絶対気疲れするよ? そもそもさ。その年でまだ女性経験ない時点で自分にハーレムなんて作れる甲斐性がないことぐらい分かるでしょ?」
『うっせ。正論でぶん殴って俺を殺そうとするのを止めろ。憧れはよー。止められねーんだよ!』
「駄目だ。もう手遅れだよこの人」
『現実見なよイシカワさん?』
『お前ら仲良しかよ!?』
そう言いながらイシカワがナイトビーの一体を仕留め、ルッタもまた別の個体にトドメを刺した。その様子に眉をひそめながらヒムラが笑う。
『はっはっは、しかし虎の子のナイトビーがこうもバタバタとやられていくと自信をなくすよね。イシカワさんは後で働いて返してもらうとして、仲良しの僕のためにルッタくんにはすぐさま死んでくれるとありがたい』
「ははは、ヒムラさんはコミュニケーションの基本を分かってないよね。求めるばかりじゃ駄目なんだよ。だからヒムラさんは仲良しの俺のために蜂さんと仲良く駆除されてくれると良いと思うよ」
ルッタが迫るナイトビーの間を潜ってデュアルセイヴァーの射線を切りながら移動し続ける。
『よく回る口だねルッタくん』
「そいつはどーも」
撃てばナイトビーにも当たるのだから、なかなか引き金を引けない。それにはヒムラも徐々に苛立ちを募らせ続けてきていた。
『あーもう、ここまでちょこまかと動かれるのか。本当に速度以上に厄介だ。この武器の選択はしくじったかな?』
「そうでもないと思うよ。多分全自動式魔導散弾銃でなければ俺もイシカワさんもとっくにアンタの懐に入って仕留めてる」
ヒムラの操縦技術はそれほど高いものではない。面で当てる散弾銃の類でなければルッタもイシカワも射線を読んで攻撃を避けながら接近しただろう。そしてイシカワはともかく、ルッタはここまでやらかした相手に対して殺すことを躊躇するような甘さはない。故にヒムラの選択は実際に最善であった。
『結局は人の腕次第ってこったな。練度が足りてねーんだわ。アンタもそこのナイトビーってのも』
『なるほどね。高出力とはいえ近接特化の欠陥機に、量産機体。このデュアルセイヴァーの火力とナイトビーの数で押せば容易いと思ったが』
性能の高さゆえに均衡は保たれているが、ヒムラの乗り手としての技量もそうだが、強制進化の代償としてナイトビーもその体での戦闘方法が確立できていない。もっとも……とルッタは思う。
(とはいえ、こっちも攻めきれていないのは確かなんだよなぁ。それにあのデュアルセイヴァーはどうにか確保しておきたいってのもあるし)
量産機以上の機体に乗れるかもしれないチャンスが目の前にある。だが、散弾の雨を潜り抜けるのは容易ではない。どちらも攻め切れていないというのが今の状況だった。
(終わった後もクィーンビーっていう強敵がいる。そもそもいつ参戦してきてもおかしくはないし。欲のかき過ぎは危険なのは分かってるけど……うん?)
違和感。わずかにソレを感じたルッタが目を細めて周囲を見渡し、それから何かに気付いたのかニタリと笑みを浮かべた。