050 四丁持ち
「デュアルセイヴァー?」
ルッタが眉をひそめる。
そんな機体の名称は聞いたことがない。
外見は量産機よりもマッシブなプロポーションの高出力型アーマーダイバー寄り。けれども、どことなく雰囲気が違うのは機導核が納められているはずのコックピットの裏側にあるガードボックスが通常のソレよりも大きく、機体バランスが歪に見えたからだ。
『なあなあルッタ。機導核を二つ積んでる反応がありやがるんだがよー。アレってありなのか?』
「なしよりのなしかなー。普通は無理。機導核が擬似的に乗り手の核となることでアーマーダイバーという巨人を動かすことができるようになるってのが基本原則だし、核がふたつなんて心臓がふたつあるみたいなもんで制御は不可能だよ。だから何かしらのインチキをしてるんだろうね」
構造だけで言えばアーマーダイバーは機導核をコアとした金属製の人造魔獣であるとも言える。コアがふたつあっては機能不全を起こすという認識は当然のものであろう。
(複座型ならって構想はあったけど)
アーマーダイバーの出力を上げようという試みは古くからあり、そのひとつとして複座型の機体が造られたことがあるのをルッタは以前に見た文献から知っていた。とはいえ、そこの記述によれば機導核同士が干渉して結局は上手くいかなかったというオチまで書かれていたのだが。
(魔力反応からして多分高出力型がメインで、もうひとつは量産型の機導核をサブで使ってる……ってとこかな)
『マジかぁ。それでルッタさぁ。あいつが持ってるのってドラムマガジン付きの全自動式魔導散弾銃ってヤツだよなぁ』
「うん。しかも二丁持ち……どころかタクティカルアームを使った四丁持ちだ。どこぞのパイルバンカー持ちの同類だねぇ」
ルッタの言葉にイシカワが肩をすくめる。
『おいおい、タクティカルアームを使ってるんだぞ。どこぞのお子様ダイバーの方が気が合うんじゃないか?』
『ははは、僕はふたりのどちらとも仲良くなりたいんだけどね』
『「やなこった!!」』
直後、連続した銃声が響き渡り、同時にブルーバレットとヘッジホッグがブースターを噴かしながら左右に分かれて宙を駆けていく。
「なるほど。四丁同時使用ではなく二丁持ちのスイッチ。魔弾筒がなくなったら切り替えるって感じかな」
『それが分かったからって対処のしようがあるのかなルッタくん?』
「ごもっともだね」
全自動式魔導散弾銃。地球の武器でいえばフルオートショットガンに該当するであろうソレは制圧力こそあるものの、そもそも一撃で仕留めることを前提としている武器を連射する無意味さから使用者は少ない。
けれどもヒムラはそんな武器の数をさらに増やすことで火力面と継戦能力を底上げする選択をとっていた。
(距離をとり続けないと一瞬で蜂の巣か。なかなか厳しいなぁ)
面制圧を得意とする魔導散弾銃が連続で撃たれるのだ。盾も持たない紙装甲の量産機では当たって足が止まれば即終了だ。さらにこの場にいる敵はヒムラだけではない。
「こっちも……なるほど。手数を増やすってコンセプトは同じなわけね」
周囲を飛び回るナイトビーだが、アーマービー改めポーンビーと違って下腹部の突起は後ろへと向けられ、それがブースターのような役割になっている。背の翅はポーンビーよりも肥大化して飛行性能は増し、さらに両肩と両腕にそれぞれニードルバレットを撃つためだけの形に進化した蜂型飛獣が取り憑いていた。
ナイトビー本体も実際ポーンビーよりも格は上なのだろう。ブースター付きの高機動力に単発式とはいえ四つの射撃武装を持つその飛獣の戦闘力はヒムラの言うように、確かに高出力型と同程度の性能ではあるようだった。それはすなわちブルーバレットよりも性能だけなら上ということだ。
『ポーンビーは一体で全てをやろうとして性能に限界が出た。だがナイトビーは違う』
「確かにポーンビーよりもハイエンド感はあるけどさー。とは言ってもコスト五体分でしょ。確かに強いようだけど、普通に攻めるんならポーンビー五体での数ゴリ押しの方が良くない? 数は力って言うじゃん?」
『それは確かに。運用に関しては検討が必要かもしれないね。参考になるよ』
ナイトビーの攻撃を避けながらのルッタの言葉にヒムラが頷く。
『アドバイスしてんじゃねえぞルッタァ』
叫びながらイシカワがデュアルセイヴァーに対して突撃する。その右腕には串刺しにしているナイトビーの死骸があった。それを盾にして……と考えたようだが、次の瞬間にイシカワはブースターを噴かして緊急回避をした。
『チッ、そりゃ手数増やせば火力も上がるわな』
イシカワが舌打ちしながら、投げ捨てたナイトビーの亡骸が無数の散弾によって原型を留めぬほどに破壊された姿を睨みつける。
デュアルセイヴァーがタクティカルアームを操作し、四つの全自動式魔導散弾銃で同時に撃ったのだ。その火力を前にしてはナイトビーの死骸は盾の役割を果たせない。そしてヒムラは距離をとりながら手持ちの全自動式魔導散弾銃とタクティカルアームの持つ全自動式魔導散弾銃を入れ替えさせる。
(全自動式魔導散弾銃を切り替えた? となるとドラムマガジンの総弾数は20発か)
ルッタが目を細めて、そう考える。
(とはいえだ。バックパックウェポンはタクティカルアームのみで武装は全自動式魔導散弾銃四つで固定している。あの機体構造からして魔力のチャージ量は多いはずだから、魔弾筒の再装填も早いはず)
機導核が二基ある分出力は高く、機動力は高いものの大規模なバックパックウェポンは積んでいない。であれば召喚弾生成に全振りしている可能性があるとルッタは予想した。恐らく取り外したドラムマガジン内の魔弾筒の再装填はそれほどかからない。撃たせまくっての弾切れは期待できないだろうと。
(中々手堅いビルドだけど……武器の切り替え時には隙があるな)
狙うチャンスがあるとすればそこだろうか……と、ルッタは高速移動で銃弾を避けつつ、狩人の目でデュエルセイヴァーの動きを観察し続けるのであった。
エクスペン▪️ブルズでAA-12をバカバカ撃って砦を破壊するシーンが大好きなんですが、あの弾自体は架空のもののようですね。グレネードタイプの散弾銃の弾自体は存在しているらしいけど。