048 イレギュラーズ
「ハァ、オリジンダイバーと戦う機会なんて滅多にないからと頑張ってはみたものの、すべてが予定通りにはならないとは分かっているけれども……これは少々しくじったかな?」
心臓室にいるヒムラがそんなことを口にする。その表情に焦りはないが、けれども当てが外れたという感じではあった。
そもそもの話、本来ラインたちハンター軍団と戦うだけならば、血脈路まで突入させずに領都で出迎えて防衛戦を行うという選択もあったのだ。
最終的な戦力の消耗はどちらの方が高いかはさておき、そちらの方がクィーンビーとヒムラに万が一が起こる危険性は低い。けれどもソレをしなかったのは相手の中にオリジンダイバーがいたからだった。
「オリジンダイバーは強力無比ではあるけど、アーマン大陸全体で見ても稼働している個体数は少ない。戦える機会自体がそうそうないのだから性能試験の相手としては面白いと思ったのだけれどもね」
ヒムラたちの目的はランクS飛獣を生み出すという以外にも、来るべき日のための戦力として各々の扱う飛獣の試験運用の意味もあった。
そのちょうど良い物差しが旧人類の最高戦力であるオリジンダイバーだ。だからヒムラは自らの懐に彼らを誘い込んだし、理想としては血脈路の道中で突入部隊を分断してオリジンダイバー一機のみをここに釣り出せればと考えていたのだが……
「前に出てきたのは量産機と近接特化高出力型のコンビ。実力は認めるけど、僕はオリジンダイバーを倒したという実績が欲しかったんだよ。まったくね」
そう口にしたヒムラは騒がしくなってきた心臓室の入り口へと視線を向ける。その先の血脈路では今、防衛線を築いている飛獣の群れとルッタとイシカワのコンビが戦っていて、それも飛獣側が徐々に押し切られつつあった。この分では心臓室に到着するまで、それほど時間はかからないだろう。
「ああも容易くやられてしまうとはポーンビーは失敗? いいや、あの二機が強過ぎてるだけだな。ソロドラゴンスレイヤーのルッタ・レゾン、それと同等の技量を持つ高出力型。甘くは見ていないつもりだったが状況からして彼らの戦力は一体一体がオリジンダイバーに匹敵している」
そう言いながらヒムラが面倒そうな顔をしながら立ち上がる。
「まあいいさ。想定とは違うが、あの二機は間違いなく強い。であれば、試運転には十分に使えるはずだ。なあ、そうだろうクィーン?」
そう口にしたヒムラの頭上にある光る岩『天導核』。そこに止まっている巨大な赤い蜂の怪物がギチギチと顎を震わせていた。
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『はっはー。普通に飛獣と戦うよりもコイツらはやりやすくて良いなぁ。なあルッタ』
「はいはい。そうだねー。初心者ミッションの擬似対人戦みたいな感じだし。そんじゃあ、さっさとぶん投げて」
『おーらよっと』
ブースターで勢いをつけたヘッジホッグがワイヤーアンカーで引っ張っていたブルーバレットをアーマービーの群れへと放り投げる。対してアーマービーもニードルバレットを撃って攻撃するが、ルッタは巧みにフライフェザーを操作して速度を維持したままかわしていく。その動きにお行儀よく撃ち続けるアーマービーはまったく反応が追いつけていない。
「相手の動きを予測して撃つこともできないのか。初心者だなぁ」
ブルーバレットが群れの中に飛び込み、魔力刃を形成した黒牙剣と白牙剣を振るって回転しながら攻撃を仕掛ける。それはジャッキー流剣術独楽斬り。ルッタが文字通り独楽のように敵を切り刻んでいく。
『ハッ、こっちもブチ抜かせてもらうぜ』
さらに勢いを止めずにブースターを噴かして突撃したヘッジホッグがルッタに気を取られた個体からパイルバンカーで貫いていく。彼らはもはや止まらない。さながら鋼鉄の嵐の如くふたりは暴れ狂い、
蟲たちは容赦なく蹴散らされていった。
『オラオラオラオラァアアア!』
「ノリノリだなー。おっと最後の一体もーらい!」
そして勢いに乗るルッタイシカワコンビによって最後の一体までがなすすべもなく仕留められると、そのまま二機は心臓室へと突入した。
「よーし、到着。リリ姉たちが先に着いてたりもしてないねー」
『ハッ、俺たち一番乗りってか? そんで』
心臓室は球形をした広い空間だった。
周囲にはルッタたちが入ってきたものと同じような地下道の入り口がいくつもあり、部屋の中心には淡く緑に光り輝く巨大な宝石の原石のような巨岩が浮かんでいた。
その巨岩にはフォートレスビーに近いサイズの、けれども格が違う雰囲気を纏う巨大蜂が止まっており、また巨大蜂の前には肩装甲の上に小太りの人間が座っている6メートルの巨大な人型機械が浮かんでいた。その姿を見てイシカワが目を細めて、舌舐めずりをしながら笑みを浮かべた。
『アイツらがダブルボスってわけかい』