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046 届かぬ手

「クソッ、相手が味方ごと潰すことに躊躇しないというのは分かっていたはずなのに。見誤ったな」


 瓦礫の中から這い出ようと動くシトロニエの中でラインが吐き捨てるようにそう口にした。土煙が舞い、砕けた岩が周囲には転がっている。見れば正面の血脈路は崩れて完全に塞がれていた。


(アーマービーとの戦闘中に何かを爆発させて血脈路を崩落させたのか。まあオリジンダイバーの防御力なら致命傷にはならないが)


 自身の機体のチェックをしながらラインが辺りを見渡す。未だ土煙は晴れず、周囲の状況は分からない。


(最後に見えたルッタ少年たちは崩れた天井の先にいるように見えた。リリさんは……オリジンダイバーであれば命に別状はないと思いたいが)


 ルッタとイシカワが先行して戦い、リリの乗るフレーヌはそれに続くような形で別の群れと対峙していた。結果として崩落の影響範囲の中心にいたのはフレーヌであったように見えたのだが、その認識が正しいとすれば……と、ラインは苦い顔をする。


(シトロニエの損傷も小さくはない。その上にリリさんが戦闘不能となれば、作戦の挽回は難しいか。それにアベルたちだ。私が前に出ていたのだから被害は少ないと思いたいが)


 オリジンダイバーのシトロニエだからこそ崩落に巻き込まれても動けているのだ。アーマーダイバーでは高出力型だとしても機体は潰れ、乗り手も即死であっただろう。


『……えるか。ライン……長』


 そして、通信で呼びかけを行おうと装置に手を伸ばそうとしたラインの耳に通信機から声が響いてきた。


「その声、ザイゼン殿か?」

『……ん長。ライン団長。無事だっ……ようだな。アベルとカインもこちらにいる。反応は分かるか?』

「ああ。ようやく安定してきて表示されるようになった」


 バイザーに青い光点が三つ表示される。それはレーダーが察知した味方機の位置を知らせるものだ。だが、光点のひとつの光が弱いことにラインは気付き、眉をひそめた。


「これはどういう……」

『ライン様、無事だったのですね』


 通信機からカインの声が響くが、その声には覇気がない。


「カイン、どうした?」


 そう返すものの、何が起きているかは予想できた。ザイゼンは問題ない。カインも通信先の魔力反応が正常であることから無事だろうと分かる。であれば、三つの光点の内、光が弱いのは……


『アベル兄さんが僕を庇って機体に……大きなダメージを』


 反応に向かって土煙の中を進んでいくと、ザイゼンの機体ニンジャとカインの機体ポルックスと、また下半身が岩に挟まれて潰れているアベルの機体カストルの姿が見えた。


「アベル、大丈夫か!?」

『ら、ライン様。申しわ……け、ござい……ません。また不甲斐ないところを』

「そんなことはいい。状況は?」

『機体は……もう無理ですね。まあ、フライフェザーも潰れて……ますし』


 足が使えずフライフェザーが動かない時点で高速移動は不可能で、機動兵器であるアーマーダイバーとしては致命的であった。けれどもラインの気にするところはアベルの状態だ。己の片腕であり、故郷を離れて共について来てくれた友人。だが外からでは機体内の状況は分からない。


「生きているのならいい。それよりも……」

『待て、敵の反応だ』


 ザイゼンの声が飛ぶ。

 オリジンダイバーはアーマーダイバーの上位機種のような性能だが、それでもアーマーダイバーもオリジンダイバーと同等か、或いは優れている部分もある。それが魔力レーダーであり、ザイゼンが乗るニンジャの索敵性能はシトロニエよりも優秀であった。

 そしてブブブという音と共に土煙を散らしながら無数のアーマービーが近づいてくるのがラインも遅れて確認できた。


「まあ我らが無事であれば相手もそうだろうが……クッ」


 ラインの顔に焦りが浮かぶ。ライン、ザイゼンにカインの機体はまだ動くから良いが、アベル機は動かせない。それはつまり、射撃可能なアーマービーにとっては格好の的になるということだ。そしてラインの焦りに反応したのか、弱きを先に狙おうとしたのか、アーマービーたちのニードルバレットが一斉にアベル機に射出される。


「ヌゥッ」

『兄さん!? ライン様!』


 それをラインのシトロニエが盾で受け止める。


『ライン様。俺を庇うよりも』

「問題ない。カイン、ザイゼン殿。頼む」

『はいライン様』

『承知した!』


 カイン機とザイゼン機が動き出し、アーマービーの群れと戦い始めるが、それでも多勢に無勢。相手も崩落のダメージはあるようだが、アーマーダイバーの量産機並みに動き、数も少なくないのだ。


(不味いな。ふたりの機体も調子は良くない)


 動かないと言うほどではないが負荷によるものか、フレームが歪んでいるのか、十全とは言い難い動きをしている。


(どうする?)


 ふたりの隙を抜けて撃たれるニードルバレットを盾で弾きながらラインが思考する。

 ラインの機体シトロニエは円形盾とバレットランスと呼ばれる騎乗槍と魔導銃を一体化した武器、それにフレーヌのルミナスフェザーの上位兵装に当たる光の翼セラフィムフェザーを有している。


(セラフィムフェザーはリフレクトフィールドを収束と拡散させることで攻防一体の武器となるが……近距離限定で魔力消費が激しいために長時間の維持はできない兵装だ。使うにしてもそう繰り返しはできない)


 シトロニエは近接戦に寄った機体で、長距離攻撃は彼らの雲海船の収束ドラグーン砲やアベルたちの乗るアーマーダイバーのバックパックウェポンである誘導魔導砲に任せていた。バレットランスでも中距離の対応自体はできるが、今の状況では単純に手が足りていない。


『不味い。抜けられた!?』

『ライン様、兄さんをッ』


 そしてついに均衡が破れ、ザイゼン機とカイン機を越えて、複数のアーマービーがラインたちへと近づいてくる。


(どうする? 倒すことはできる。だがアベルを無防備に晒す。しかし今は)


 ラインがシトロニエを動かし、迫るアーマービーをバレットランスで貫いた。さらに貫いたバレットランスの先端の砲身を後方の敵を向けて撃ち殺し、その隙を狙って近づく個体もセラフィムフェザーのリフレクトフィールドを展開して叩き落とした。

 だが一手足りない。シトロニエから距離を取っていたアーマービーの一体がアベル機に向かってニードルバレットを撃とうとすでに構えていた。


『兄さん!?』

『クソッ、動けよカストルッ』


 アベルとカインの悲壮な声が響き、シトロニエの中のラインが必死の形相で機体を動かすが間に合う距離ではなかった。そして、もはや打つ手は無しとラインが諦めかけたその時……


『見つけたわ』


 少女の声と共にアーマービーの頭部が撃ち抜かれて爆散した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 間に合……った!! てっきりどっちか死ぬのかと思いましたねえ
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